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食べる仕事から見た【外食】に何が起きているのか。飲食店に見る地域性今月の13店(画像36点)

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

食べ物とは、根源的にはローカルなものです。昔から人は地域で採れる作物をはじめ、山海の恵みを食べて生きてきました。そこには気候や地形に応じた食があり、その食で生きてきた民族・種族がいて、その味で育った家族がいます。

人は所属するコミュニティが経済的に発展し、豊かになる時期ほど遠くに手を伸ばします。例えば、日本人の新婚旅行の主な行き先を調べてみると以下のようになっています。

  • 戦前 国内の温泉地(箱根、熱海などの近場)。もしくは伊勢神宮参拝
  • 戦後 直後は贅沢品。国内温泉地など。京都、奈良などの歴史的な都市。
  • 高度経済成長期 沖縄(1972年の本土復帰後、人気急上昇)、ハワイ(海外旅行の自由化後)
  • バブル期 ヨーロッパ(パリ、ローマなど)、グアム・サイパンなど
  • バブル崩壊後 国内旅行の再評価(北海道、沖縄など)、アジア諸国(タイ、バリ島など)
  • 2020年以降 マイクロツーリズム

経済が潤えば移動距離が伸びていく。逆に経済が渇けば移動距離は短くなっていきます。日本人も高度成長期以降、バブル期まではよく海外に足を伸ばし、国内でも海外由来の食べ物に手を伸ばしてきました。

パーソナルな食べ物を伝承する単位を家族や親族だとするならば、「核家族化」が進んだ高度成長期以降、親族はほとんど解体され、家族の味も伝承されるものではなくなり、味は誰か親族の代わりになる人や装置から教えてもらうように移り変わりました。
それはある場所では地域コミュニティであり、別なところではテレビや書籍などのメディアであり、最近ではYouTubeでもあるのでしょう。

つまるところ「家の味」「私の味」はアウトソーシング化が進み、汎用性を獲得。外食や中食が「私の味」として確固たるものになりつつあります。

実際、全国を見てもそうした「私の味」であるノスタルジーを刺激するような外食、中食を売りにした施設が続々オープンしています。

 

エキュート立川 大幅リニューアルし8月9日オープン

2024.07.18 PRタイムス

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000610.000082978.html

【要約】

JR立川駅の「エキュート立川」の2階改札外エリアがリニューアル。8月9日に初出店12店を含む25店がオープン。多摩エリアで人気の店舗や地元の素材を活用した「故郷に帰ってきたようなホーム感が感じられる」居場所を目指す。


経営教室~第1回 必要とされれば、生き残れる

2024.07.01 日経ビジネス 

https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00607/062400014/

【要約】

北海道で店舗数首位を誇るコンビニチェーン、セイコーマート。大手とは異なり、工場などを「持つ経営」で道産赤肉メロンを使ったソフトクリームや、地元の「ラワンブキ」を使った惣菜など地域特有の食材を積極的に展開し、地元民に支持され続けている。

水産練り製品特集:はま一 “京都らしさ”にこだわり 地域性生かし着実成長

2024.09.20 日本食糧新聞

https://news.nissyoku.co.jp/news/okum20240813095311509

【要約】

老舗のかまぼこ製造業者「はま一」は、京都らしさを活かした商品の売上が好調に推移。特にそのまま食べられる「九条ねぎたこ天」や「京のとうふ天」が人気で、コロナ後の家飲み需要や猛暑も追い風になった。「京都」ブランドを活かしながら新たな味も模索中。

『なにわで売るとさ 開業迫る県アンテナ店』(上) 再開発区に期待と懸念

2024.07.29 高知新聞

https://www.kochinews.co.jp/article/detail/765524

【要約】

大阪駅西口に開業した「JPタワー大阪」内の「KITTE大阪」には北海道から沖縄まで全国15のアンテナショップが開店。高知県は高知産品を販売しつつ、催事スペースも展開して観光や移住促進を目指すが、大阪駅西側は開発途上で集客が課題。


ニュースでは「地域の味」を柱に据えたビジネスや、地産地消に近い文脈の飲食店や中食を誘致した施設の立ち上げなどが取り上げられがちですが、地域の特徴や性格そのものが飲食店に反映される町場の飲食店からは、逆引きのように茫洋とした地域性のようなものも見えてきます。

さてここからはこの月、僕が訪れた街場の飲食店から地域性のある店を抜粋していきます。果たして「地域性」の主体は誰で、その正体はどんなものなのでしょうか。


熊本で馬肉専門店4軒@「dancyu」誌の取材(他にも自腹などで数軒)

この数年、熊本に伺う機会がずいぶん増えた。もっとも訪れることが多いのは、牛や豚など一定の経済性の高い畜産動物を扱う店や牧場が中心だから、町場の飲食店はある程度決まってきてしまう。ところが、今年立て続けに馬肉を食べに熊本を訪れる機会に恵まれた。
というわけでdancyuさんが「ニッポンの旨いもの」特集を行うというので矢も盾もたまらず、「熊本で馬肉!」という企画を出させていただいたが、今回誌面掲載にご協力いただいたお店の素晴らしさたるやもう筆舌に尽くしがたい(尽くせよ)。とりわけトビラで馬刺しを紹介させていただいた、馬しゃぶ店の馬肉の肉質とスープにもう惚れ惚れ。会津からお呼びでもかからない限り、「馬は重種馬!」と言い続けそうな気がします。店名などの詳細はぜひ本誌にて。

その他、誌面では夜の繁華街でそこかしこに煌々と看板が光っていた「馬焼肉」専門店を2軒、そして空港で搭乗5分前まで馬肉にありつける専門店などについて、あれこれ書き込んでいる『dancyu』10月号絶賛発売中でございます。
熊本でも基本はハレの食べ物でしが、庶民にはきちんとケの食としてもなじみ深いものとして捉えられている馬肉食。素晴らしい食文化を残してくれた加藤清正公、ありがとうございます!(一説)

https://amzn.to/4f21XpN


Spice Bar SUZU(新井薬師)

中野や新井薬師、新宿といったエリアはカレーにとっては少し不思議なエリアである。1997年に沼袋にオープンした「たんどーる」(現在、初台に移転して『初台スパイス食堂和魂印才たんどーる」)が本格インドカレーに和の素材を投入してからというもの、「マロロガバワン」(新井薬師)など、正統派なのにどことなく和の香り漂うカレー店やインド料理店がオープンする町なのだ。今年、限定メニューをいただいた『Spice Bar SUZU』も和の香りが漂うスパイスバル。注文した”冷製カレースープ冷や汁風”の説明書きには「南インド定番の豆スープ『ラッサム』を冷や汁風にアレンジ」と書いてあったので、「たんどーるの”和ッサム”みたいにタマリンドを梅干しに置き換えた?」と想像していたらさにあらず(浅薄)。豆腐、きゅうり、茗荷、大葉などの冷や汁素材をこれでもかと投入し、しかも具には南インドのカレーによく合うサバをセレクト。冷や汁ではアジなどの青魚を使うが、サバがなんとも見事な南インドと宮崎の橋渡し役を果たす。さらにはスープが温まらないよう2つ加えてある氷もカレースープ氷という徹底ぶり。神は細部に宿るなあ。

【ここからは、地域の味を象徴するような店舗9軒について約4500文字の記述と30点の画像を公開します】

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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