『M-1グランプリ2024』令和ロマンの連覇の理由は演技力の高さ、髙比良くるまは1人14役
日本一の漫才師を決めるお笑いの賞レース『M-1グランプリ2024』決勝戦が12月22日におこなわれ、令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)が大会史上初の連覇を達成した。
ファーストラウンドのネタ順を決める抽選「笑神籤(えみくじ)」により、不利とされるトップバッターを2年連続で担当することになった令和ロマンだったが、髙比良くるまが「最強の名字は渡辺(わたなべ)である」と持論を展開するネタで2位通過(850点)。最終決戦では、戦国時代へタイムスリップした松井ケムリが体が頑丈な「固き者」として伝説化するまでを描くネタで、バッテリィズ、真空ジェシカを退けた。
令和ロマンの演技力の高さを実感、髙比良くるまは1人14役前後
今回の『M-1』であらためて実感したことは、鑑賞者を引き込んでいく令和ロマンの二人の演技力の高さだ。
令和ロマンのネタには、複数の人物が登場するものがほかにもいくつかある。この最終決戦で披露した「タイムスリップ」でも、戦国時代へとやって来た松井ケムリが、多くの人物と出会う。髙比良くるまはそれらの人物を一人で演じ切った。
髙比良くるまが扮したキャラクター数を数えてみたところ、(1)戦国時代へやって来た松井ケムリを発見する者、(2)「あの者なんじゃ」と周囲に尋ねる者、(3)松井ケムリを屋敷へ連れていく侍らしき者、(4)その侍に「怪しい者ですか?」と聞く部下のような者、(5)松井ケムリを斬ろうとする者、(6)童歌を歌う子ども、(7)フランクな殿様、(8)松井ケムリが「固き者」だと証明するために至近距離で銃を撃つ者、(9)知ったか爺さん、(10)敵がやって来たことを知らせる者、(11)殿様らを見て「焦ってやがる」とにやつく敵、(12)なにか触りながら「覚悟が足らん」と笑う敵、(13)「戦は戦国の花よ」とポーズを決める敵、(14)そのほかの大勢の敵……と、見るかぎりは1人14役前後をつとめていた。
特に見ごたえがあったのが、(7)の殿様の軍勢が敵の襲撃で劣勢に立たされたとき、(6)の子どもが涙を流す場面。その子に「熊猿」とニックネームをつけられた松井ケムリは、涙を見て「うおー!」と雄叫びをあげながら敵に立ち向かい、次々と倒していく。髙比良くるまによる(6)の子どもの涙の演技は、その子の怯え、悲しみがきっちり伝わってくるものだった。そして、それまで戦国ムードに溶け込めずに他人事のように振る舞っていた松井ケムリが発奮するのに十分な説得力を持つ演技でもあった
一方、松井ケムリの演技と立ち位置の変化も見事だ。タイムスリップして戦国時代へ紛れ込んだ設定であっても、松井ケムリは基本的には漫才師として「素」でツッコミをいれ続けていた。しかし、侍たちから「固き者」と称された際の「僕、固いみたいです」というリアクションの仕方は、リアルとフィクションの絶妙な揺れがあった。4分の漫才中、そうやってずっとリアルとフィクションの狭間を行き来していたが、終盤、前述した戦闘場面では吹っ切ったように「固き者」の役に入って物語の一員になった。その模様が鑑賞者を痛快な気分にさせて、最高のエンディングを作り上げた。
一つの場面にたくさんの人物がおさまっている風に見せることができるのが驚異的
普通であれば、たった4分のネタ時間のなかにこれだけたくさんの登場人物が出てくる漫才は、情報量の多さから引き込みづらい部分がある。それでも鑑賞者を物語の世界観へ入り込ませることができたのは、話の構成はもちろんのこと、二人の演技のうまさも関係しているだろう。
さらに圧巻なのは、髙比良くるまが演じた複数の登場人物はみんな、物語(もしくは一つの場面)のなかに、ほぼ並列の立ち位置で出てきている点だ。
どういうことかというと、たとえば真空ジェシカのファーストラウンドのネタ「商店街」にも、多くの登場人物が出てきた。ただしこちらは、川北茂澄が演じた複数の登場人物が出たり、入ったりしていた。つまり入れ替わって登場するのだ。ただ令和ロマンの場合は、登場人物が入れ替わるのではなく、ほぼ全員がずらっと並んでいたり、同じ場面に一緒に存在したりしているように見える。一つの場面にたくさんの人物がおさまっている風に見せることができるのが驚異的なのだ。
また、髙比良くるまの味方と敵の演技の切り替えは、松井ケムリの背後をくるりと舞うように移動しておこなう。これも、登場人物や場面の転換方法として抜群のアイデアとなっていた。
これらの複数の登場人物の表現の仕方や演じ分けは、令和ロマンの漫才コントの特徴であり、またおもしろさの一つ。あらためて令和ロマンの漫才の高度さが感じられた。納得の連覇である。