『M-1GP 2024』令和ロマンを追い詰めて脚光、準優勝・バッテリィズの巧妙な「令和のアホ漫才」
令和ロマン(髙比良くるま、松井ケムリ)の連覇で幕を閉じた、漫才のナンバーワンを決める賞レース『M-1グランプリ2024』決勝戦(12月22日開催)。
偉業を達成した令和ロマンだったが、2023年大会に続いてファーストラウンドはトップ通過とはならなかった(2023年大会は3位、2024年大会は2位)。ファーストラウンドを1位で通過し、最終決戦でも令和ロマンの5票に次ぐ3票を獲得するなど、チャンピオンを追い詰めたのが大阪の漫才コンビ・バッテリィズ(エース、寺家剛)だ。インパクトでいえば、2024年大会でナンバーワンだったのではないだろうか。
バッテリィズのファーストラウンドのネタ「偉人の名言」は、歴史的名言を寺家剛が挙げるも、エースがアホすぎて理解できない内容。「天才とは1パーセントのひらめきと99パーセントの努力である」というエジソンの名言を聞かされたエースは、「気合いもいるやろ」「努力しすぎやって。天才で(ひらめきが)1パーやったら、俺は0パー確定やんか」と憤るなどした。
最終決戦のネタ「世界遺産」でもエースのアホさが全開となった。世界遺産へ行ってみたいと話すエースに、寺家剛はいろんな世界遺産を紹介。ただ140年以上かかっても未完成であるスペインのサグラダ・ファミリアについてエースは「なんで工事現場を見に行かなあかんねん」と解釈。終始、寺家剛は戸惑いの表情を浮かべる。
バッテリィズのおもしろさは「アホすぎて逆に正論に聞こえる」
バッテリィズのネタのおもしろさはそのように、「人の言うことはアホすぎると逆に正論に聞こえる」というところ。審査員の山内健司(かまいたち)も「バカに気付かされたりして」と、エースの言うことはむしろ学びがあると評した。最終決戦の結果発表前も、真空ジェシカ、令和ロマンはカメラを向けられてそれぞれ握り拳でポージングしたが、エースは一人だけ手を開いてパーを出していたのも、ピュアすぎる性格があらわれていた。グーに対してパーを出すのも「正しいこと」である。
筆者が2023年にバッテリィズをインタビューしたときは、寺家剛がこんなエピソードを喋ってくれた。アホ芸人が集まるイベントで「インボイス」がテーマになったとき、エースがこんなことを口にしたのだという。
「『インボイス』って、申請を出しても、出さんでもどっちでも良いとか、そんなんあかんやろ! どっちかちゃんと決めた方がええやろ!」
寺家剛は「たしかに『インボイス』の申請って、出しても、出さなくても個人の自由じゃないですか。でもエースがそのとき、一撃で芯を食ったみたいなこと言っていたんです。もちろん(申請が自由なのは)いろんな事情はあると思うんですけど、それだけ聞いたら、その場にいた大人が全員納得したんです」
エースの意表をついた答えに周囲は「おお!」とリアクションしたそうだが、エース本人は「僕からしたら、その反応の意味も分かってなくて」と困惑していた。
博多大吉「長らく途絶えていたアホ漫才を令和によみがえらせた」
『M-1グランプリ2024』のバッテリィズの漫才には、審査員からも絶賛の評が相次いだ。
柴田英嗣(アンタッチャブル)は「こんなにクリティカルなアホは初めて見た」、若林正恭(オードリー)は「小難しい漫才が増えているなかで、わくわくするバカが現れた。日本を明るくしてくれる」とエースを褒め、博多大吉(博多華丸・大吉)は「長らく途絶えていたアホ漫才を、令和の時代にうまいことよみがえらせた」と、本格的なアホ漫才の復活を喜んだ。
バッテリィズは、寺家剛が必ず「(エースは)名前を書いたら入れる高校に、名前を書き忘れて落ちた」といったエピソードを披露してからネタに入る。エースのアホはホンモノだ。そんなホンモノのアホが、高学歴コンビの令和ロマン(髙比良くるまは慶應義塾大学中退、松井ケムリは同大卒業)、真空ジェシカ(川北茂澄は慶應義塾大学卒業、ガクは青山学院大学卒業)と最終決戦を争ったこと自体、どこか胸が熱くなるものがあった。
ちなみに寺家剛は大阪学院大学卒業。取材時、寺家剛の出身大学の話になったときもエースは「大学は入れるだけですごい」と感心していた。
漫才に関してクレバーな寺家剛、『M-1』用の戦い方も考えていた
ネタ中、エースの数々の言動に振り回されるのが寺家剛だ。ネタも彼が書いている。そんな寺家剛には、漫才に関して非常にクレバーに取り組んでいる印象がある。
『M-1』の戦い方についても、寺家剛はあえてツッコミを入れないようにしていると話す。『M-1』ではボケで笑うと言うより、ツッコミで笑いが起きると分析。ただ、自分たちの場合はエースのターンでちゃんと笑ってもらうため、「僕の方に(ツッコミの)武器があると思われないようにしています」とネタの構造について語ってくれた。一方、劇場でのライブであれば、「(エースの言動に対して)僕がいろいろ困った上で最後にちゃんとツッコミを入れるかもしれないですけど」とアレンジする場合もあると話す。審査員の礼二(中川家)がバッテリィズのネタについて「無理に笑いをとりにいこうとしていない」とコメントしていたが、それはまさに寺家剛の狙いを言い表しているように思えた。
ネタの「ツカミ」も、他のコンビとはスタイルが異なる。前述したように、寺家剛はエースのアホさを伝えるために「名前を書いたら入れる高校に、名前を書き忘れて落ちた」などと口にする。これがバッテリィズの定番の「ツカミ」になっている。ただ、舞台に出てきてすぐにそういったことを言うのではなく、本ネタの前に、忍ばせるように「ツカミ」を入れる。
2024年の筆者のインタビュー時、寺家剛は「自分にとって理想の漫才は、登場してすぐに本ネタに入ってスッと笑いをとっていけるスタイル。それができたら美しいのですが、それでもやっぱりツカミは必要かなと思っています。だから、ツカミをできるだけ会話のなかに忍ばせようと考えています」と、一見「ツカミ」だと感じさせないやり方をしているのだと話す。
アホのエースと、クレバーな寺家剛。『M-1グランプリ2024』オープニング映像で、『M-1』創設者で元審査員の島田紳助の「いつまでもM-1が夢の入り口でありますように」というメッセージが紹介された。今回の大会で、バッテリィズは売れっ子芸人の仲間入りを果たすことは間違いなし。芸人として大きな夢を掴むことができそうだ。そして二人が、博多大吉がコメントしたように「令和のアホ漫才」を担っていくのではないだろうか。