完全復活!元阪神タイガースの西村憲投手は、石川ミリオンスターズの守護神からNPB復帰を目指す
5月31日、石川県立野球場にて、石川ミリオンスターズ・西村憲投手のファンミーティングが開催された。阪神タイガース時代からの根強いファンが一団となり関西からバスに乗って訪れ、試合観戦後、ふれあいの時間を持った。
西村投手の投げる姿を再び見ることができ、集まったファンは大感激。今後もより一層、力強く応援していくことを誓い合っていた。
■「野球ができる場所」を探して
昨年10月、戦力外通告を受け、「野球ができる場所」を探し求めた。そしてたどり着いたのが独立リーグ・ルートインBCリーグの石川ミリオンスターズだった。(詳細はこちら⇒西村憲・前編/西村憲・後編)
現在、クローザーとして勝ちゲームを締める役割を担っているが、ここまで7試合に登板して防御率0.00と格の違いを見せつけている。
ボール自体も全盛期を彷彿させる伸び、キレを取り戻している。いや、それ以上かもしれない。躍動感あるピッチングは、見る者をワクワクさせてくれる。
2012年10月に肘の手術を受け、完全回復を前に戦力外となってしまったが、ここへきてようやく状態が安定し、「逆に調子いいだけに、抑えるのが大変なくらい」と晴れ晴れとした表情で語る。
■少しずつ慣れてきた金沢での生活
住み始めた頃は雪に「ヒヤッとした」こともあったが、今では金沢暮らしにも慣れたという。「食べ物が美味しいんです。魚とか、水が美味しいからご飯も美味しい」。小さな炊飯器を買い、無洗米でご飯だけは自分で炊いているそうだ。
「何でも近いんですよ。有名な兼六園も『いつか行きたいな』と思っていたら、銀行に行った時に隣にあったんで行っちゃいました(笑)。それくらい何でも近くにあるんで、楽しいっちゃ楽しいですね」。今後、近江町市場や金沢21世紀美術館にも足を運びたいと話す。
■独立リーグの世界
独立リーグの環境は、これまで所属していたNPBとはまるで違う。試合のある日はまず練習前、スポンサーの横断幕を外野フェンスに設置する。続いて練習用のネットやケージの準備。いずれも選手自らの手で行う。開門時には場内アナウンスも担当する。
試合前の食事も球団からの支給はなく、買いに行くか食べに出るか、だ。そして試合中のグラウンド整備のトンボかけや水撒きも手分けして行う。
また、試合後は外に出て来場者の見送りをし、その際には気軽に写真撮影やサインに応じる。そしてその後、使用したベンチやロッカーを自分たちで清掃する。
これには西村投手も「最初は衝撃でした。こういうのも自分でするのかとビックリした」と驚いた。「でも郷に入れば郷に従えで、そういうこともやりながら自分のこともしっかりやろうと思ってやっています」と話す。
「野球ができる環境がある幸せ」を噛み締める西村投手にとっては、そんなことは苦でもないのだ。「戦力外になって辛い3ヶ月を過ごしたので、野球ができることは幸せだなと。朝起きて一人でランニングしたり、一人でジムに行ったり。練習相手もいない、目標もなくずっとオファーを待ち続けて練習していくというのは本当に辛かったから。毎日毎日野球ができる環境と、仲間たちや対戦相手がいる」。“あの3ヶ月”を思えば、何でもない。
しかしただ一つ、大変なのはバス移動だ。「とにかく尋常じゃないくらいバスに乗るのだけは、辛いですねぇ」と顔をしかめる。遠いところだと福島や埼玉で片道7時間ほどかかるとか。
「1〜2時間の移動は逆に近く感じる。だからバスに強くなったかな(笑)」。バスの中では首用の枕を着け、ひたすら寝るのだそうだ。
■早く出て行け!
そんな西村投手を、石川ミリオンスターズ側はどのように受け止めているのだろうか。端保聡社長は言う。「トップリーグの大事な場面で年間65試合投げていたピッチャーが、チームの“後ろ”にいるのは大きな安心感がある。一昨年、昨年と木田優夫(現・日本ハムファイターズGM補佐)が担っていたところを、そのまま引き継いでくれたのは戦力的に非常に大きい」。
もちろん戦力面だけではない。「練習に対する姿勢やマウンドに上がる時の考え方も手本になるし、これまでいた木田優夫や森慎二(現・西武ライオンズ2軍投手コーチ)より年齢が近いから、選手もより聞きやすいと思う。彼の投げる球で、姿勢で、背中で語ってほしい」と、選手への影響力も大いに評価している。
またタイガースファンからグッズの問い合わせがあったり、地元テレビ局の番組で露出が増えるなど、営業や広報面での貢献も今後さらに期待している。
だが、一方でこうも言う。「独立リーグはNPBやメジャーにいく為の場。チャンスがあれば一日でも早く行け。西村の場合はケガがあって、NPBでやりきって来たわけじゃない。年齢も若いし、早く出て行け!活躍する場所はここじゃない」。愛情たっぷりに西村投手を後押ししている。
■親友とまた同じ舞台で・・・
西村投手は自身の現状を「体も元気だし、球自体はまだまだ上げていける余力もある。もっともっと(腕が)振れるなと思います」と語る。
つい「全盛期」と比べてしまいがちだが、「昔のことはもう忘れた。昔を目標としてやっているわけじゃないから」ときっぱり。「今できるベストを求めてやっている。昔とは体も違うし、若い頃には戻れない。でも、昔よりよくなると思う」。力強い言葉が、状態の良さを物語っている。
手術直後は痛みが出ない投げ方を見つけようとし、それによって悪いクセがついてしまった。だが、それも今は修正し「理にかなった投球フォームで投げられている」と言う。さらに「まだまだ改善の余地はあるし、よくなると思う。キャッチボールから意識して取り組んでいます」と自身の“伸びしろ”に、西村投手本人が最も期待をしている。
「一生、仲いいと思う」という阪神タイガースの上本博紀選手とは今も連絡を取り合い、励まし合っているという。お互いを気に懸ける二人がまた、同じ舞台で戦う日が来ることを楽しみにしたい。
(写真はすべて Photographer 小中村政一)