元阪神タイガースの西村憲投手、台湾プロ野球のトライアウトで春季キャンプに招待される
■台湾プロ野球「中信兄弟」からキャンプの招待
帰国した西村憲投手の声は弾んでいた。「1月のキャンプに招待したいって言われました!」
待ちに待った吉報だった。
12月20日、台湾プロ野球(CPBL)のトライアウトが行われた。台湾国内に限らず広く海外にも門戸を広げ、受験者を募っていた。CPBL初の試みだ。日本語での告知もあったため、日本人も13人(全受験者27人)が挑戦した。
西村投手の投球終了後、CPBLのチームの一つである中信兄弟の関係者3人が西村投手に声をかけてきた。そのうち二人は日本にゆかりのある人物だった。一人は元阪神タイガースの林威助選手。現在、中信兄弟のキャプテンを務めており、かつてのチームメイトが受験するということで球場まで足を運んでくれたのだ。そしてもう一人は西武ライオンズやオリックス・バファローズの投手として日本で14年間も活躍した許銘傑氏。今年で現役を引退し、来年からは中信兄弟のピッチングコーチとなる。
日本語が堪能な許氏から名刺を差し出され、「1月のキャンプに招待したい」と告げられた。「即、契約」ではなかったが、ひとまず「第一関門突破」といったところか。しかし契約の可能性は限りなく高いと言える。
■トライアウトでは納得いかないデキだったが…
トライアウトの方式はカウント1-1からで、5人の打者と対峙した。自身の初球の球速を見た西村投手は愕然とした。140キロに満たない…。「もうちょっと出さんといかん」。そう思うと、ついついストレート1本になってしまった。相手打者が早打ちということもあり、なかなか変化球が使えなかった。あとから振り返れば、「もっと色んな変化球を投げたかったな」と悔いが残った。
最速は137キロだった。無理もない。シーズンも終わり、実戦からも遠ざかっている時期だ。トライアウト直前に福岡に帰り、母校の九州産業大のブルペンで傾斜を使って投げられたのが2度。それもネットに向かってだ。それ以外は近所の少年野球用のグラウンドの“マウンドもどき”のポコっとした山の傾斜を使って、兄の悟さん(徳島インディゴソックス―福岡レッドワーブラーズ―愛媛マンダリンパイレーツ)相手に投げただけだった。
NPBの12球団合同トライアウトのときほどしっかりと準備ができたとは言い難く、「今の状況で(球速が)出るほど野球は甘くない。こんな状態で受けるなんて野球人として申し訳ないけど、今やれる精一杯がこれだから」と、大学と悟さんに感謝しながら投げ込んだ。
球速が出なかったこと、変化球があまり投げられなかったことなどが相まって、自己採点を高くつけることができなかった。地元の記者にインタビューされたとき、「(100点中)4〜50点」と辛い点を口にした。
しかし見る側もプロだ。「この時期」ということはもちろん考慮に入っているのだろう。トライアウト後、ロッカーまで降りてきてくれた林選手に「どうだった?」と尋ねられたとき、「スピードガンと喧嘩してしまいました」と告げると、林選手は「“見た目”はよかったよ」と言ってくれた。スカウトも同様にスピードガン表示以上のものを感じてくれたのかもしれない。悪いなりにも「感覚と球筋は悪くなかった」と本人が感じた部分を、スカウトも見抜いてくれたのかもしれない。
■蕭一傑投手の完璧なアテンド
今回のこの挑戦は、様々な人の助けによって成し得たことだった。母校や兄の悟さん、わざわざ駆けつけてくれたタイガース時代の先輩の林選手。また、石川ミリオンスターズ時代に金沢でお世話になった人々。背中を押してくれた滋賀ユナイテッドの鈴木社長。多くの人のサポートがあったからこそだ。
中でもタイガースでの同期入団だった蕭一傑投手には、何から何まで助けてもらい、感謝の言葉が言い尽くせないほどだという。話を聞いても、それは見事なアテンドだった。
まず事前にトライアウトにエントリーする書類をチェックしてくれ、ホテルの予約も済ませてくれた。そして前日は夜遅くにも関わらず高雄国際空港まで迎えに来てくれた。
蕭投手の住まいから近いということで選んだ空港だったが、台湾の南側に位置するため、そこから宿泊するホテルまでは高速で2時間もかかった。ホテルはトライアウト会場に近い台中にあったのだ。
送り届けてくれた蕭投手に、翌日のトライアウト会場である台中インターコンチネンタル野球場までのタクシーのことなど尋ねると、驚きの答えが返ってきた。「明日もボクが送っていくよ」と。そこから自宅まで往復すると4時間はかかるので、なんと同じホテルに宿泊するつもりで来たという。「本当に嬉しかった。朝も起こしてくれて一緒に朝食を食べて、トライアウト会場で受け付けもしてくれて…」。至れり尽くせりだ。
現場では蕭投手が所属するチームの関係者や記者に紹介してくれ、トライアウトが始まると写真や動画を撮影してくれた。
そしてトライアウト後には「憲にボクの地元のご飯を食べさせたい」と、昼食に連れて行ってくれた。食べたのは「パンにシチューをはさんだようなのと、焼きそばみたいなのと…」と説明はよくわからないのだが、とにかく美味しかったそうだ。
再び南の高雄に戻ると、「連れて行きたいところがある」と連れ出されたのは「夜市」だった。「お祭りの屋台みたいなのが並んでいて、そこで色々食べ歩きしました」。台湾観光まで楽しめた。
「今回、ショウがいなかったらと思うとゾッとします。こんなスムーズにいけてなかっただろうし。正直、不安しかなかったんで。ショウには感謝してもしきれない。いや、そんな簡単な言葉では全然足りない。本当に本当にありがたいです」。何度も何度も蕭投手への感謝の思いを口にする西村投手。2008年ドラフトで同期入団した二人が、こんな形で、しかも台湾で再会するとは。「久しぶりに会えたことも嬉しかったし、これも縁だなと思いました」。しみじみと語った。
■台湾プロ野球についての蕭投手の思い
今回のトライアウトについて、蕭投手はこう話す。「香月(=良太・大阪近鉄バファローズ―オリックス・バファローズ―読売ジャイアンツ)さんも西村もかなり注目されていました。テレビ局も3局くらい来ていましたし。二人はNPBでも実績があるのでね。台湾でも話題にはなっています」。メディアの数も思った以上に多かったという。
続けて「これはCPBLにとって、大きな一歩、前進だとボクは思うんです。これでもし香月さんや西村が台湾のチームに選ばれたら、これからもっと多くの選手が台湾プロ野球に挑戦しにくると思います」とも付け加えた。
多くの選手がチャレンジするということは、レベルの高い選手も集まりやすくなる。「日本とももっと交流できれば、台湾プロ野球のレベルも上がると思います」。今回の“ツアコン”ぶりを見ていると近い将来、蕭投手が日台の野球の架け橋役として奮闘しているような気がしてならない。
■1月のキャンプに向けて
さて1月のキャンプに招待された西村投手。「チャンスをいただいたので、必ずモノにできるようしっかりやっていきたい」と意気込んでいる。そこには応援してくれた人、サポートしてくれた人への感謝の気持ちがある。「恩返しするためにも、キャンプでアピールできるよう頑張りたい」。
休んでいるヒマはない。トレーニングを続け、キャンプに向けて仕上げていく。
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