ノーベル平和賞 現地メディアの予想 コロナの影響は?
ノーベル平和賞の受賞者が9日、ノルウェー時間11時に発表される。
発表前日の夜から当日の朝は、現地メディアの候補者予測のニュースが飛び交う様子が毎年恒例となっている。
独自のネットワークと情報収集力で予想される現地メディアの分析には他国メディアも注目をしている。
今年は318の個人や団体が推薦されている。
候補者や予想のリストには「世界的に有名な人物」がいることがあるが、この場合は「話題性があるから」ニュースになる場合が多く、実際に受賞する可能性が高いかは別として考える必要もある。
ノルウェー公共放送NRKの予想
NRKの定番の予想発表は夕方19時のニュース番組で解禁される。番組司会者は冒頭でこう伝えた。
「今年はもしかしたらフェイクニュースと闘うメディア賞かもしれません。紛争地域で危険な仕事をする人に贈られるかもしれません。国連傘下の国際協力組織、スーダンでの民主主義のための闘いかもしれません」。
紛争地域で闘う人々、報道、コロナ
夕方のニュース番組で上がった名前
- スーダンの民主活動家、アラア・サラーさん(しかし受賞には早すぎるという見解も)
- アフガニスタンの政治家・平和活動家、Fawzia Koofiさん
- 自由な報道に/ジャン・デュンダルさん、ジュムフリイェト紙の編集長
- ジャーナリスト保護委員会(CPJ)
- ロシアの反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイさん
- 新型コロナとの闘いで世界保健機関(WHO)
- 国際連合食糧農業機関(FAO)
「国際メディアが好きな候補者」としてスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんやトランプ大統領の名前も出る。
「アメリカ大統領選挙もある中でトランプ大統領が受賞したら爆弾のようなものなので驚く」、「コロナ渦で紛争地域の正しい情報が伝わることがより重要な時代となり、ジャーナリストでいることが同時に危険でもあり、フェイクニュースとの闘いもある。委員会がメディアに賞を与える可能性が今年はより強い」とNRKのベルゲ編集長はコメントする。
最大手アフテンポステン紙の報道
同紙はオスロ国際平和研究所PRIOのウーダル所長の予想を伝える。
- ファクタとの闘いでジャーナリスト保護委員会(CPJ)
- 気候のための学校ストライキとグレタ・トゥンベリさん
- 中国で民主化のために闘う人々
- 新型コロナとの闘いで世界保健機関(WHO)
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なぜ平和賞だけノルウェー?
ノーベル賞を設立したスウェーデン人のアルフレッド・ノーベルの遺言には、なぜ平和賞だけがノルウェーかは明記されておらず、いくつかの説がある。
ノルウェーは1814~1905年はスウェーデンに統治されていたので、連合していた国と歴史に対する配慮ともいわれている。1890年代にはノルウェー議会が平和的な解決手段を模索していたことから、ノーベルはノルウェーがスウェーデンよりも平和的で民主的な国だと考えた可能性などが挙げられている。
新型コロナの影響で発表はデジタルで
発表は首都オスロにあるノーベル委員会で行われ、各国の報道陣が小さなホールに集まって委員長の発表をドキドキしながら待つのが恒例だ。
しかし、一部のメディアの出席を除いて発表はオンラインで行われる。
12月の授与式はどうなる?
スウェーデンのノーベル委員会は受賞者それぞれの国で賞を授与することを発表している。ノルウェー側もこの動きに同調しているが、授与式は規模を小さくして行う予定だ。
これまではオスロ市庁舎で1000人ほどのゲストを招いていたが、今年はオスロ大学のアウラ講堂で100人のゲストで開催予定。この大学は実は日本の観光ガイドブックにも掲載されることがある。『叫び』で有名な画家エドヴァルド・ムンクの作品11点がホールに展示されているためだ。
受賞者が誰になるかはまだわからないが、恐らく今年は授与式に出席できないであろうことから、受賞者の国で賞を授与し、オスロの授与式と中継で結ぶ形がとられる予定。もし受賞者がノルウェーに来ることができない場合は、来年にオスロに招待したいと委員会側は話している。
平和賞とノルウェー政治の関係は?
スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん、彼女はスウェーデンとノルウェーの両国の国会議員たちから推薦を受けてる。
トランプ大統領を推薦したのはノルウェーの極右政党に位置する進歩党の国会議員。閣外協力という形でノルウェー政府を支える政党で、ノーベル委員会のメンバーの一人は進歩党が指名している。トランプ大統領はこのノルウェーの政治家にお礼の電話をした。
香港で民主主義のために闘う市民の名前も挙がっている。推薦したのはノルウェーの与党・自由党の現在の党首であり教育大臣。2010年に中国の民主活動家である劉暁波(りゅう・ぎょうは)さんに平和賞をあげてからは、中国政府はノルウェーに怒り、両国の関係修復に数年がかかった。その教訓は委員会メンバーの頭の中でどう無意識に働いているだろうか。
平和賞を決める5人とノルウェー政党
ノーベル委員会はノルウェー議会、つまり議席数が多い各政党によって推薦された5人によって構成され、このたった5人が平和賞の受賞者を選ぶ。
メンバーはかつてノルウェーでなんらかの権力や影響力を持っていたノルウェー育ちの白人であることであることが多い。
平和賞を決める5人のノルウェー人
- Berit Reiss-Andersen委員長(中道左派・野党・労働党の推薦、弁護士)
- Henrik Syse副委員長(中道右派・与党・保守党の推薦、オスロ国際平和研究所PRIOの研究教授、哲学者・研究者)
- Thorbjorn Jagland(オバマ大統領、EU、マララさんに授与した時期のノーベル委員会の元委員長でもある、中道左派・労働党の推薦、同党の元党首・ノルウェー元首相)
- Anne Enger(中道左派・野党・中央党の推薦、元国会議員・元政府閣僚)
- Asle Toje(右派・政府に閣外協力する進歩党の推薦、ノーベル委員会の元研究ディレクター)
中国の圧力は影響するか
「ノルウェー政府や議会」と「ノルウェー・ノーベル委員会」は互いから独立した機関であるとされているが、委員会メンバーが政党による推薦であることなどから、他国ではこの主張が必ずしも通用しない。特に中国政府は「自国の内政に干渉するな」と平和賞の受賞者に対して警報を発することがある。
そのため「誰に平和賞を授与するか」は、ノルウェーと他国の関係を強化することもあれば、傷を負わせることもある。
- 「その人に平和賞を与えることで、ノルウェーという国になんらかの利点やダメージがあるか?そのことがメンバーの無意識にどれほど影響しているか?」
- 「自分が委員会メンバーだったらどう考えるか?」
- 「委員会メンバーはどのような思想や活動をしていて、過去にどのような発言をしているか?彼らを推薦した政党はどのような思想を持っているか?」
- 「ノルウェーや欧州メディアではどのようなことがニュースとなっているか?北欧的、欧州的価値観とは?」
色々なメガネをかけて考えることができれば、これまでとは違った視点で平和賞を見ることができるだろう。