異例の事態にノルウェー国会で混乱 ノーベル平和賞の伝統を最後に壊すのは誰?
ノーベル平和賞の受賞者を選ぶノーベル委員会5人のノルウェー人。
新メンバーを選出するにあたり、ノルウェーの右翼ポピュリスト政党「進歩党」が党の現役議員を推薦し、国会の政党間で混乱が広がっている。
これまでの伝統では、ノルウェー国会とノーベル委員会の間で政治的な距離を保つために、現役の国会議員が座ることはなかった。
「政治的に正しく」あるために、ノルウェーの各政党は、推薦されたカール・ハーゲン氏に対する「個人の否定」であることを認めず、現役議員が座ることが問題だと強調。
一方で、現地メディアなどは、「ノルウェーで最も物議を醸す政治家であり、国際政治に関心を示してこなかった人物が委員会に座ることはおかしい」と、ハーゲン氏自体にも問題があるとはっきりと反対意志を表明している。
ガーディアン紙は、「反移民政治家がノーベル委員会に座るかもしれない」とさらに食い込んでいる。
今回の騒動は、ハーゲン氏だからこそ騒動となっていることは、暗黙の了解だ。
20日、ノルウェー国会では委員会の新メンバーを選出する委員会が緊急で招集された。
本来であれば各党が推薦する候補者は国会でそのまま承認されるが、今回は野党などが「別の候補者を探すように」やんわりと進歩党に促し始めている。
ノルウェー国営放送局NRKによると、委員会メンバー選出について緊急会議が開かれるのは歴史上初めてのことだという。
また、先日はノーベル委員会の秘書であるニョルスタッド氏が、公に「このような推薦はやめてほしい」という立場を明確にした。アフテンポステン紙によれば、委員会の秘書が、国会の選出プロセスについて口出しをするのも史上初とされている。
野党最大政党の労働党を筆頭に、右派・左派から中央党、左派社会党、自由党、キリスト教民主党が、進歩党にもう一度検討しなおすように促す。進歩党のパートナーのような存在でもある与党・保守党は、強くは反対しないが、困っている態度をあらわにしている。
進歩党は逆風がくることを予想していたであろうが、ハーゲン氏の推薦を取り消すことはないという立場を明確にしている。
国会で進歩党グループのリーダーであるリミ氏はNRKに対し、「ハーゲンが委員会メンバーになったとしても、ノーベル委員会の評判が悪くなることはない」と発言。
委員会の新メンバーはクリスマス前には決まるだろうとされている。
もし、異例の事態となり、国会の各党が反対する票を投じたり、対抗馬を推薦してきた場合、進歩党はノーベル員会での名誉ある1席を指定する機会を失う可能性もある。
一方で、ノルウェー国会では、各党からの推薦者はそのまま満場一致で承認することが、およそ40年にわたる伝統となっている。
最終的に、「伝統」を壊すこととなるのは誰か?
現地で最大手紙アフテンポステンのスタンヘッレ編集長は、この日自説を掲載。「国会議員をノーベル委員会に座らせないという伝統は、進歩党によって今や安売りされている」とコメントした。
ナショーネン紙ではニクヴィスト記者が「中国が、平和賞とノルウェー政治を区別できなかったことは理解できなくもない。委員会に座るトップ政治家の数は減らすべきだろう」と記す(20日付)。
ハーゲン氏はコメントをできる限り避けているが、委員会の秘書が立場を明確にした17日、自身のFacebookでこう反論した。「奇妙な事態だ!誰が委員会に座るべきでないかという意見を、最も公に口にするべきでない人物が誰かといえば、委員会の秘書だ。最近は変なことばかり起きている!」。
詳細
Photo&Text: Asaki Abumi