ノーベル平和賞 グレタさんを巡る現地報道
ノーベル賞の発表・授与の舞台は北欧スウェーデンだが、平和賞の舞台だけは隣国ノルウェーだ。
有力候補のひとりとして、話題となっているのが、スウェーデンの少女、16才の環境活動家であるグレタ・トゥンベリさんだ。
私も数か月前に、スウェーデンの首都ストックホルムで彼女と話をした。国会前で抗議する彼女の周りには、子どもや若者だけではなく、たくさんの大人たちの姿もあった。
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平和賞を決めるノーベル委員会は、ノルウェーの首都オスロにある。メンバーはノルウェーの複数の政党による推薦で、国会によって選出されている。
平和賞の決定には、メンバー個々の思考や、ノルウェー現地・国際メディアのこれまでの報道やロビー活動が、少なからず影響を与えるとされている。
メディアによる平和賞の予測は、現地では通常は発表日の前夜遅くに始まる。だが、今年はいつもとは変わった傾向がある。
若者の代表が話題のトップ
グレタさんを巡る報道が、発表前夜の朝早くから増加しているのだ。
グレタさんは、他国よりもノルウェーでは存在が認知されるのが早かった。
いくつか理由があり、
- スウェーデン語とノルウェー語が似ているので、ニュースやSNSを追いやすい
- ノルウェーは隣の国スウェーデンでの出来事に敏感
- 環境や気候変動に関する議論傾向や関心の高さも似ている
- 北欧は平等と民主主義を重んじる国で、有権者かは関係なく、若者の意見を尊重する(グレタさん=気候問題を心配する若者の代表。社会での議論に若者がいなければ、民主的とはいえない)
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受賞するか?話題にはなるが、実は可能性低い?
平和賞はノーベル賞の中で、最も物議を醸す賞だ。
発表前日の朝、ノルウェー公共放送NRKは、彼女が受賞する可能性に懐疑的な大人の専門家と、彼女の受賞を強く望む若者たちの声を紹介した。
2017年に10か月間、ノーベル委員会のメンバーを務めたトーネ・ヨルスタド氏(労働党の推薦)。そして、平和賞予測をするオスロ国際平和研究所(PRIO)のウーダル所長。
両氏はグレタさんの活動には好意的で応援している立場だが、平和賞の候補者としては、受賞者が満たす条件をクリアしているとは言い難いと話している。
※平和賞は「国家間の友好関係や軍備の削減・廃止、平和会議の開催・推進のために最大もしくは最善の貢献をした人物」に授与される。
他の人と同時受賞?
受賞するとしても、「ほかの人と一緒に受賞」するだろうとも指摘。それは私も同意する点だ。
もともとノーベル賞は、物理学、化学、経済学、生理学・ 医学、文学、平和という分野で与えられている。「環境や気候問題」の分野がないことは、指摘がされ続けてきたが、このテーマは平和賞の条件を満たしにくい。
今年とは限らずとも、気候変動問題に取り組んできた人や団体がいずれ受賞するとしたら、複数の人と団体が一緒のほうが妥当だし、考えられうる批判をある程度和らげることもできる。
私個人の意見だが、グレタさんひとりの受賞が、さらに考えにくい理由が、彼女の国籍だ。
ただでさえ、白人ばかりで、影響力のある立場にいた、ノルウェー人のみで構成されている委員会。国会と委員会のつながりが国際的にも批判されやすい中、石油発掘などでお金持ちで恵まれている国・ノルウェーの人が受賞することはほとんどなく、メンバーにも自己規制が働いている。
平和で豊かなイメージが強い北欧の人が受賞する可能性よりも、別の国で危険を冒しながら、紛争国などの解決に取り組む人・団体が優先されそうなのは不思議ではない。彼女は気候問題を心配する世界中の若者を代表する存在ではあるが、だからこそ、それなら他の人・団体も一緒に受賞する可能性が高い。
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ノルウェー最大級のタブロイド紙VGは、グレタさんと国連若者気候団体が一緒に受賞するかもしれないという記事を掲載している。
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グレタさん受賞に反対、ノルウェー政治家が国会に警告
ノルウェーのノーベル委員会は、ノルウェー政界で活躍してきた人たちが、仕事先として次に狙うイスとしても、度々指摘されている。
極右政党「進歩党」の顔のひとりでもあるカール・ハーゲン氏は、メンバーになりたがって、必死のPR活動をしてきた人だ。
しかし、国会と委員会とのつながりを、国際的にさらに批判される可能性がある・同氏の過激な言動を嫌がる政治家が多かったことから、メンバーになることを阻止された。
極端な発言で注目を集めることが好きなハーゲン氏は、平和賞発表の前日、また騒ぎを起こす。
「10代の少女が、間違った主張で、世界中の若者を怖がらせている。気候危機などは、ない」
なんと、ノルウェー国会のすべての国会議員に、グレタさんは平和賞にふさわしくないとする主張のメールを送信したのだ(VG)。
度々湧き出る、国会と委員会の切れないつながり
ハーゲン氏のこのような行動は、今に始まったことではない。しかし、平和賞の議論に国会議員らが巻き込まれる流れ、「それはなぜか」をノルウェーメディアが国民に説明しなくともニュースになること事態が、国会と委員会の不思議な関係を、現地の人々が常識として知っていることになる。
委員会メンバーのひとりは、気候変動に懐疑的な極右による推薦
ハーゲン氏は気候変動が人間活動によるものではないと主張している。これは彼だけではなく、進歩党のよくある主張で、気候変動や環境対策に関心が低い党であることを意味している。
現在のノルウェー政府は、中道右派、4政党が連立している。与党である進歩党は、国会の中で最も気候変動に関心が低く、連立する3党とは反対だ。このことが、国家予算案を話し合う際にも、政権で内部分裂が起こりやすい理由の一つになっている。
そして、ノーベル委員会メンバーには、進歩党が推薦したAsle Toje氏がいる。同氏は、進歩党を連想させる発言を、これまで何度もしている。気候議論には、気候変動によって生まれる気候難民も含まれる。彼が難民・気候変動というテーマに関心が高いとはあまり思えず、それがよりグレタさんが選ばれる可能性が難しいと思う理由だ。
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ゴア元米副大統領に続いて、気候変動に関する受賞者は、いずれまた出るだろう。オバマ元大統領を例とする「早すぎたかもしれない授与」、「まだ何も功績を残していない」ことを批判する人もいるかもしれない。
だが、気候変動に関しては、解決を待っていたら遅すぎるという認識、若者の存在を無視してはいけないという北欧の価値観がある。
いずれにせよ、グレタさんが候補者のひとりであることで、気候変動というテーマにより注目が集まっている。受賞せずとも、各国での若者の動きをより後押しするだろう。
この記事を書いている今、ノルウェー現地では夕方の17時。夜には、各メディアの最終的な予想報道という恒例行事がある。
24時間もしないうちに、私たちは次の平和賞の受賞者を知ることになる。
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Photo&Text: Asaki Abumi