核のタブーをどう学ぶ?ノルウェーのノーベル平和センターが展開するデジタル平和教育
「ノルウェーでは折り鶴の意味を知る人は少ない。子どもたちが折り紙で鶴を作るという課題も考えています」。そう語ったのは教育コーディネーターのマリエ・トゥーリンさんだ。
ノーベル平和センター館内の一室では、スタッフが日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)を知るための「デジタル教材」作りに励んでいた。
この日は、受賞者が発表された翌日だった。館内の別のホールでは、ノーベル委員会の委員長が、市民と共に新たな受賞者のお祝いをしていた。
「平和賞の国」という特別な国ノルウェーでは、独自の平和教育も発達している。小学校から高校用の教材作りは、ノーベル平和センターが担当し、専門の教育チームもいる。
受賞者が発表された直後に、教師がすぐに利用できるようにデジタル教材を毎年提供しているのだ。今年は金曜日に発表されたので、スタッフは週末を返上して、教師が月曜日の授業で利用できるように、急いで教材作りに取り組んでいた。
同館の公式HPではノルウェー語と英語で教材が無料公開されており、日本からもアクセス可能だ。
「まず、ノーベル平和賞について生徒たちが知っているかどうかを尋ね、10月11日に新しい受賞者が発表されたことに、気づいた生徒がいたかどうかを確認する」など、授業の導入部分から教材は始まる。
同館は、ノルウェー公共局NRKが提供する子ども・若者向けの番組作りも共同で行い、動画はオンラインで公開され、授業で教材として利用できるようにする。
ほかにも、イラスト大会を開催するなど、生徒や勉強環境に合わせて、柔軟に対応できるように幅広いラインナップを揃えている。教師だけが予習や課題作りの負担を背負い込まないようにしているのだ。
生徒にする質問の一例
- 委員長はこの平和賞が若者にとってどのような意味を持つかについても語っています。彼はこのことについて何を言っているでしょうか?あなたはどう思いますか?
- 中東やウクライナなど、現在も深刻な紛争がいくつか起きています。今年の平和賞は、これらの紛争と関連があるのでしょうか?
- 核兵器のタブーとは何でしょうか?また、今回の平和賞とどのような関係があるのでしょうか?
- 鳥越 不二夫さんは、起こったことを忘れてしまいたいと思っていますが、彼が毎日原爆を思い出すのはなぜでしょうか?自分の体験を語るのが難しいと感じていますが、それでも語っています。なぜ彼はそうすると思いますか?
- このような証言は、戦争が人間に与える影響について、私たちにどのような深い理解をもたらすことができるでしょうか?
- 彼らの物語を確実に後世に残していくために、私たちに何ができるでしょうか?
同館のデジタル教材が最も利用されるのは、社会科、歴史、英語の科目。教材の中で閲覧数の高い受賞者はマララ・ユサフザイさんで、人気がないのはEUだそうだ。
昨年からは新しい取り組みで、ゲーム感覚で勉強できるアプリを提供するノルウェーの企業Kahoot!と共に、クイズ作りもしている。
このように、ノルウェーのノーベル平和センターでは、新たな平和賞受賞者の発表をきっかけに、次世代へ平和の重要性を伝えるための取り組みが活発に行われている。デジタル教材の充実はもちろん、クイズアプリを通じた学習のゲーム化など、多様な方法で平和教育を推進しているこの施設の努力は、世界中の紛争解決に向けた意識の向上に寄与するだろう。