独立を守るノルウェー、EU加盟を拒む理由とは
「ノルウェーはEU非加盟国だ」と伝えると、驚く人は多い。ノルウェーはこれまで2度の国民投票でEU加盟を拒否してきた。
その背景には、歴史的な独立へのこだわりと、現在の民主主義や経済構造を維持したいという国民の意思がある。
しかし、1994年のEU国民投票から30周年を迎える2024年。国民の思いは変わらないのだろうか。地政学的変化や経済的圧力が高まる中、ノルウェーはこれからもEUの外にいることを望むのだろうか。3人の関係者に話を聞いてみた。
EU加盟を拒む理由とは
ノルウェーはEUの正式メンバーではないが、欧州経済領域(EEA)協定を通じてEU市場にアクセスしている。この協定は経済的に多くのメリットをもたらしているが、民主的な統制の欠如が問題とされている。
ノルウェーはEUからの規制を受け入れる義務がある一方で、その決定に影響を与える権利を持たない。この「外部からの従属」という状況が、EU加盟への拒否感を強めているのだ。
賛成派が目指すEUとの関係
EU賛成派の運動団体「ヨーロッパ運動」の代表であり、保守党の国会議員でもあるハイディ・ノールビー・ルンデさんは、ノルウェーのEU議論には「民主主義」という言葉が常について回ると指摘している。
そして、「本当に民主的な対話と決定に関与したいのであれば、EUに加盟してベルギー・ブリュッセルの交渉のテーブルに座るべきだ」と考える。
「EU非加盟国であっても、ノルウェーは欧州の決定に振り回されている。それならば、EU加盟国として地方の声を直接届けたほうが良いでしょう」
パンデミック時に見えたEU加盟のメリット
次のパンデミックが起きた場合、EU非加盟国でいることはリスクが大きいという指摘がある。
COVID-19の際、ノルウェーはスウェーデンのおかげでEUの調達プログラムに組み込まれ、EU諸国と同様にワクチンを入手できた。スウェーデンにとっても、隣国ノルウェーでワクチン接種率を高めることは感染リスクを減らす利点があったためだ。
しかし、次のパンデミックが起きた時にスウェーデンが同じように助けてくれる保証はない。EU加盟は、ノルウェーにとって確実な安全策になるというのが、賛成派の大きな論点の一つだ。
一方で、EU反対派の運動団体「No to EU」のリーダーであるアイナル・フログネルさんは、次のパンデミックでも「他の対話方法でワクチンを手に入れることができるだろう」と楽観的な姿勢を見せている。
主権と地方分権の重要性
ノルウェーがEU加盟を拒む理由の一つには、「主権」と「民主主義」への深いこだわりがある。EUのような超国家的機関では、ノルウェーのような小国の声が埋もれてしまうという懸念が根強いのだ。
さらに、ノルウェーは広大な自然資源を持ち、その利用や管理について自国での決定権を保ちたいと考えている。特に漁業やエネルギー政策の分野では、ノルウェー特有の条件に基づく柔軟な対応が必要であり、EUの一律の規制にはそぐわないというのが反対派の主張だ。
また、ノルウェーの地方に住む市民には「首都オスロでも遠いのに、ブリュッセルはさらに遠い」という表現が今でも語り継がれている。
そもそも、中道右派と中道左派の両派の最大政党が、この議論を再燃させる気がないと指摘するのは、全国紙アフテンポステンの政治編集長であるシェーティル・アスタッドハイムさんだ。
「議論が盛り上がったところで、勝ち組となるのは、農家と地方在住者に人気がある中道左派の中央党。『なぜ、中央党の人気が上がる手助けをしなければいけないのか』と、主要政党が乗り気ではない」と指摘する。
地政学的変化と次世代がもたらす影響
それでも、ノルウェーでEU加盟の議論が再燃する可能性はゼロではない。ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけにフィンランドがNATO加盟を決断したように、予測できない地政学的変化が、ノルウェーの安全保障や経済政策に影響を与えるかもしれないのだ。
また、ノルウェーの人口構造にも変化が見られる。移民やその第二世代が増加し、彼らがEU加盟を支持する可能性が指摘されている。さらに、NATOの弱体化やエネルギー市場の変動も、議論を活性化させるきっかけになり得る。
独立路線を守るか新たな枠組みへ進むか
ノルウェーは現時点でEU加盟を選択しない姿勢を崩していないが、変化の兆しは少しずつ見え始めている。国際的な危機や経済的プレッシャーが加われば、状況が一変する可能性もある。
「次のEU加盟議論は1年後かもしれないし、10年後かもしれない」と語ったEU反対派リーダーの言葉が、この問題の複雑さを物語っているように。
ノルウェー独特の愛国心は16年住んでいると筆者にも伝わるので、反対派の意見は「ノルウェーらしいな」とは思う。しかし、反対派のナラティブは「過去」にこだわり、賛成派は「未来」思考だなと感じた。
ノルウェーがこの先も独立路線を貫くのか、それとも新たな枠組みに飛び込むのか。その答えを握るのは、次世代のノルウェー国民なのだろう。