ブッフェで食べ残すのはもう超ダサい 「元をとりたい」が全くダメな理由
ブッフェで心がけていること
みなさんはブッフェを利用する時に、何を心がけていますか。
色々な味を試したり、少しでも多く食べたりすることでしょうか。もしくは、のんびりと優雅に過ごしたり、友人とおしゃべりを楽しんだりすることでしょうか。
ヒルトン東京にある「マーブルラウンジ」はデザートブッフェが非常に有名で、年間8万人もの利用者が訪れます。
そのヒルトン東京から、2019年7月11日に、ある画期的な試みが発表されました。
デザートブッフェに訪れたゲストにアンケートをとってみたところ、8割が食品ロス(フードロス)削減に関心があったということです。
食品ロス問題の専門家でYahoo!ニュース 個人オーサーを務める井出留美氏が「オーサーアワード2018」を受賞したり、食品ロス削減法が成立したりと、世の中では食品ロスに関心がもたれ、食品ロスを削減しようという方向に進んでいます。
そのような状況にあって、ヒルトン東京「マーブルラウンジ」では、他のホテルに先駆けて完食を促すキャンペーン「#Happy完食ジェンヌ」が実施されているのです。
「#Happy完食ジェンヌ」とは
「#Happy完食ジェンヌ」は、現在「マーブルラウンジ」で開催されているデザートブッフェ「Happyハニー・ホリック」と連動したプロモーションであり、主な内容は次の3つです。
「甘さ・酸味一目瞭然ケーキタグ」で味を想像できるようにし、食べてから「思っていた味と違った」「甘すぎる」という理由で食べ残すことを減らそうとしています。
スイーツのサイズを従来よりも約10%小さくし、より色々な種類を少しずつ楽しめるように工夫しました。
さらには「Happy完食パネル」を用意し、そこで撮影した完食記念の写真をInstagramなどのSNSに投稿してもらい、完食することの素晴らしさを発信できるようにしているのです。
サイズをできるだけ小さくする試みは他のホテルでも見掛けられますが、甘味や酸味の具合を表示したり、完食とSNSを連動させたりすることは、ブッフェでは新しい試みであるといってよいでしょう。
これ以降、ヒルトン東京ではなく、私の考え方を述べていきます。
ブッフェと完食
食材や生産者、作り手に感謝し、食事をできるだけ残さずに完食しようとすることは、食べることによって命をつなぐ人にとって当然のことであるように思います。
しかし、そのように思っていない人は少なくありません。
残念ながらブッフェでも、平気で大量に食べ残す人がいます。食べ残す人の考え方はおおよそ次の通りです。
とにかくたくさん食べたい
↓
無理してでもたくさん食べよう
↓
食べ残したけれど仕方がない
ブッフェに訪れたのだから、とにかくたくさん食べなければ損であると考え、結果的に自分勝手な考えや行動に至ってしまい、食べ残してしまうのです。
完食を勧める難しさ
ブッフェが非常に好きで足繁く通っている人の中にも、こういった考えや行動をとる人がいます。
ブッフェを行っているホテルや飲食店は客商売なので、利用者に完食を勧めたり、義務付けたりすることは容易ではありません。
なぜならば、提供者が「適切な量をとって食べ残さないようにしてください」と促しても、「どうして好きに食べてはいけないのか」「あまり食べさせないようにするつもりだろう」と反論する人がいるからです。
しかし、時代は変わり、食品ロスが大きな問題となっています。
利用者がもっと食べ残しに気を付けることはもちろん、提供者がもっと完食を呼び掛けてもよいのではないでしょうか。
食事にはマナーがある
ブッフェの魅力は、好きな時に好きなように好きなだけ、食べられることです。しかし、だからといって、マナーがないわけではありません。
どのような地域に訪れ、どのような料理を食べたとしても、その土地その食べ物に関するマナーが存在するはずです。
グランメゾンでフランス料理を食す時は当然のことながら、未開の地でご馳走を振る舞ってもらった時でさえ、何かしらの作法や順序はあることでしょう。
したがって、ブッフェであればマナーがない、好き勝手に振る舞ってもいい、食べ残しても仕方ないと考えるのはおかしな話です。
ブッフェにもマナーがある
ブッフェの起源となったスモーガスボードでは「適量だけ取って食べる」「皿に山盛りにするのではなく、何度も取りに行く」が推奨されています。
さらには「テーブルと料理台を何度も往復して、皿の数が多ければ多いほど、マナーがよい」とされているのです。
他人の分まで取らず、自分の分だけ取って来ることも大切なマナーとなります。
なぜならば、みんなの分まで取って来ることによって、完食することの責任が希薄となり、自覚も乏しくなるからです。
そもそも、自分以外の人が何をどれくらい食べたいのか、もしくは、どれくらい食べられるのかなど、分からないでしょう。それなのに、ちょうど食べられる分量だけを持って来られるわけがありません。
こういったブッフェのマナーを守っていれば、食べ残しは少なくなるはずです。
意識の変革
先ほど、利用者は当然のことながら、提供者も意識を変えていく必要があると述べました。
ただ、意識を変えていかなければならないのは、利用者や提供者だけではありません。最も変わらなければならないのは、メディアであると考えています。
なぜならば、メディアは利用者と提供者に大きな影響を与えているからです。
メディアの罪
平気で食べ残してしまう人は、とにかくたくさん食べたいと考えるので、その結果、無理をしてしまい、食べ残すことになってしまいます。
では、どうして、とにかくたくさん食べたいと考えてしまうのでしょうか。
それは、ブッフェで「元をとらなければならない」「たくさん食べないと損」「できるだけ高いものを食べるとお得」と、メディアで喧伝されているからです。
インターネット時代といわれて久しいですが、いまだにやはりテレビの影響力は非常に大きいものがあります。
「一番高いローストビーフばかりを食べるべし」「食べたものの合計金額が3000円なので損をしている」「目玉メニューは他の人に取られる前にごっそり取っていくのがコツ」とテレビで放送すれば、視聴者はそれが正解であると思ってしまうでしょう。
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「元をとる」考えは不毛
ブッフェで提供されているものは、原価や定価販売時の値段が明示されているわけではないので、そもそも比較しようにも何と比較すればよいのか分かりません。
経済的活動という観点から鑑みれば、ブッフェを行うホテルや飲食店など、あらゆる営利団体が儲けることは当然のことでしょう。利用者が利用すればするほど儲かったり、提供者が提供すればするほど損をしたりすることは、あるべき姿であるとは思えません。
慈善活動でもない提供者に原価を割らせることを期待するのは行き過ぎであり、利用者が元をとろうと必死になるのは品がないのではないでしょうか。
食べ残すと利用者も損をする
利用者が無理をして食べることで、食べ残しが多くなってしまうと、実は利用者も損をしてしまいます。
なぜならば、必要以上にコストがかかってしまうと、提供者は食材の質を下げたり、種類を減らしたりすることになるからです。
はたして利用者は、メディアからの強迫観念のもと、元をとるために好きかどうかは関係なく単価の高いものだけを、必要以上にたくさん取って食べ残し、その結果、ブッフェの質や種類が損なわれてしまうことが嬉しいのでしょうか。
その一方で、利用者が適度においしく食べることによって、提供者は思ったよりもコストがかかっていないと思い、利用者に還元したいと考えます。そして、それならば食材の質を上げたり、種類を増やしたりしようとするものです。
食べ残すことによって、食品ロスが生じるだけではなく、利用者も不利益を被ることを知ってもらいたいと思います。
大食いや早食いの企画
テレビをはじめとしたメディアは、目先だけの「元をとる」「単価が高い」「たくさん食べる」ではなく、ブッフェにおける本質的な楽しみ方やあり方を紹介する必要があると考えています。
また、大食いや早食いを英雄視して称賛したり、面白おかしく取り上げて楽しんだりする企画にも疑義を呈したいです。
なぜならば、大食いや早食いを美化することは、すなわち、ただ意味もなくたくさん食べることを推奨することになるからです。大食いや早食いの裏には、過食嘔吐などの摂食障害が潜んでいることも忘れてはなりません。
時代は既に平成から令和へと新しくなっていますが、どのメディアもいまだに昭和的な大量消費かつ非持続可能な切り口で、食を取り上げていることが極めて残念です。
完食は素晴らしい
Instagramが多くの人に使われるようになってから、日本ではフォトジェニック(photogenic)という言葉が一般化しました。
英語では人に対して用いられる言葉ですが、日本ではInstagramなどSNSへ投稿するのに相応しい写真映えする食べ物や飲み物、場所などに対して用いられる言葉となっており、「インスタ映え」と同じ意味です。
ヒルトン東京「マーブルラウンジ」で取り組んでいる「#Happy完食ジェンヌ」では「Happy完食パネル」を用意し、完食が美しい、完食が写真映えするというという素晴らしい試みを行っています。
このような取り組みを通して、利用者にブッフェで完食することの大切さを知ってもらい、「もったいない」という言葉や概念を生み出した日本人に、「食べ残しはダサい」「完食がカッコいい」という美意識が浸透することを、心より期待したいです。