ブッフェはどこへ向かうのか? 8月1日「バイキングの日」に「日本ブッフェ協会」を設立する背景と全容
8月1日は「バイキングの日」
本日8月1日は何の日かご存知でしょうか。
毎年記事で紹介していますが、8月1日は「バイキングの日」です。1958年8月1日に帝国ホテルが日本で初めてとなるブッフェレストラン「インペリアルバイキング」をオープンし、バイキング誕生50周年となる2008年には「バイキングの日」を制定しました。
そして、同じく8月1日の本日、「一般社団法人 日本ブッフェ協会(Japan Buffet Association)」が設立されます。
私が代表理事を務めさせていただきますが、日経MJでも紹介され、ブッフェ文化において価値があるニュースだと判断したので、協会とは独立した利害関係のない客観的な立場で記事を書きます。
概要
まず始めに、日本ブッフェ協会は何を目指しているのでしょうか。
日本ブッフェ協会は、ブッフェにおける魅力や楽しみ方、マナーや歴史などを伝えていき、ブッフェ文化を広める活動を行います。ブッフェを提供するホテルやレストランに加えて、ブッフェが好きなブッフェファンを増やし、来年2018年8月1日に誕生から60周年を迎えるバイキングを盛り上げていきます。
さらには、日本のブッフェは世界的にみても非常に質が高いので、日本が誇る食文化の一つとして海外や訪日外国人へ向けて情報を発信していきます。
フランス料理であればいくつもの協会がありますが、ブッフェに関して言及すれば、日本はもちろん、海外でもこのような協会を私は知りません。
ブッフェを文化として確立し、広めていく活動は、それだけ新しい試みであるということなのです。
一般社団法人について
一般社団法人について、簡単に説明しましょう。
一般社団法人は営利を目的としない非営利法人であり、営利を目的とする営利法人である株式会社とは異なります。株式会社であれば社員に給与が支払われますが、一般社団法人では余剰金があっても社員に分配できません。
つまり、社員は利益を目的としているのではなく、協会の理念や考え方に共感して参加しているのです。一般社団法人は同じ志を持った個人や団体の集まりだと言えるでしょう。
会員
では、日本ブッフェ協会の社員にはどういった個人や法人が参加しているのでしょうか。
日本ブッフェ協会では、社員を会員と定めており、設立時には以下のホテルが参加しています。
- グランド ハイアット 東京
- 京王プラザホテル
- 第一ホテル東京
- 第一ホテル東京シーフォート
- 第一ホテル吉祥寺
- 帝国ホテル 東京
- ハイアット リージェンシー 東京
- ヒルトン東京
- ヒルトン東京お台場
- プリンスホテルグループ
- ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ
- ホテルオークラ東京
- ホテルニューオータニ
- ロイヤルパークホテル ザ 汐留
※五十音順
バイキングを日本に紹介した帝国ホテル 東京はもちろん、ホテルオークラ東京、ホテルニューオータニを含めたホテル御三家から、日本のホテルグループで最大規模(ビジネスホテルを除く)を誇るプリンスホテルグループや阪急阪神第一ホテルグループの第一ホテル、新宿の発展に寄与してきた京王プラザホテル、ビジネスにも観光にも便利なロイヤルパークホテル ザ 汐留も参加しています。
ブッフェでも定評のあるヒルトン東京やヒルトン東京お台場、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイに加えて、外資系ラグジュアリーホテルのグランド ハイアット 東京までもが、日本ブッフェ協会の理念に共感し、ブッフェ文化を広めるために名を連ねているのです。
これだけのホテルが加入しているということは、ブッフェに文化的な価値があり、広めていく意義があるということの証左になるのではないでしょうか。
アドバイザリーボード
会員ではありませんが、アドバイザリーボード(顧問)も設けられています。
- 鈴木一夫(すずきかずお)氏
ウェスティンホテル東京 エグゼクティブペストリーシェフ
- 佃勇(つくだいさむ)氏
ホテル インターコンチネンタル 東京ベイ 副総料理長
- 水口雅司(みずぐちまさし)氏
ヒルトン東京お台場 総料理長
※五十音順
先進的で話題のあるブッフェを創り出している料理人や菓子職人が加わっているので、ブッフェにおける技術的な見解を鑑みながら、運営していくことができるはずです。
アドバイザリーボードのメンバーはテレビや雑誌、ウェブなどによく出ており、知名度が高いので、ブッフェファンを広げることにもなるでしょう。
非日常的なブッフェを作り上げる舞台裏には、コース料理やアラカルト、宴会料理にはないブッフェならではの調理やプレゼンテーション、サービスなどの知恵が凝縮されており、まさにブッフェ文化そのものが内在しているはずです。
日本ブッフェ協会では今後、料理人や菓子職人だけではなく、サービススタッフにも加わってもらいたいと考えており、ブッフェを生み出す人々に焦点を当てていきます。
設立の背景
ところで、どうして日本ブッフェ協会を設立することになったのでしょうか。
それは、次に述べるような課題があるため、ブッフェを文化として確立していかなければならないと考えたからです。
そしてそれには、中立性が高く、文化を広めるのに相応しい、発信力のある団体が必要であり、日本ブッフェ協会を設立する運びとなりました。
では、その課題とは何でしょうか。
モトがとれるとは
ブッフェはそのお得感から、メディアでよく特集されます。しかし、その際には「どのメニューが最も高価なのか?」「どう食べればモトがとれるのか?」ということに焦点が当てられがちです。
そもそも、レストランに限らず、あらゆる経済活動において、モトがとれることは決してありません。なぜならば、提供者は慈善事業を行っているわけではなく、利益を上げなければならないので、モトがとれるようにするはずがないからです。
しかし、ブッフェに限って言えば、モトがとれることが注目されます。一度ホテルなどのブッフェに訪れてもらえれば分かりますが、居心地のよい空間の中で、優に30種類を超える料理やデザートを自由に食べられることは、それだけで価値があることではないでしょうか。しかも、調理技術がしっかりとしたホテルの料理人や菓子職人が作ったものが並べられているのです。
そのようなブッフェであれば、普通に食事をするだけでまず満足できそうなものです。それにも関わらず、モトをとることにばかり注目していると、ブッフェにおける魅力に気付かなくなり、提供者にとっても、利用者にとってもよくない状況に陥るのではないでしょうか。
それぞれに単価がない
ブッフェで並べられている料理やデザートは、アラカルトで提供されているわけではなく、コース料理の構成要素となっているわけでもないので、それぞれに単価が設定されていません。そういった中で、そもそもモトがとれたかどうかを調べることなどできるのでしょうか。
単価ではなく、原価ということであれば計算できるかも知れません。しかし、そういうことであれば、なおさらおかしなことになります。
何故ならば、原価に対してモトがとれるということは、提供者が損を被ることになるからです。
こういった理不尽な「ブッフェでモトをとる信仰」は、ブッフェを不毛な数値(お金)にだけ置き換えて、その背景にある本質を損なう、由々しき課題であると考えています。
本質
では、ブッフェの本質とは何でしょうか。
ブッフェの本質は、お腹を一杯に満たせる食べ放題という側面にはありません。通常の食事では決して体験することができない非日常感にこそ、ブッフェの本質が宿っているのです。
一流の料理を定額で好きなだけ味わえること、美しいプレゼンテーションや迫力ある実演によって五感で楽しめること、そして自分らしく食べられ、自然体でいられることから、他にはない唯一の食のスタイルとして、多くの人々を惹きつけているのではないでしょうか。
食事のバランスや量を自分で考えながら食べるというスタイルにより、自主性や協調性が養われるため、バイキング給食として用いられるなど、食育にも注目されています。自身に最適な分量を食べることによって健康的になり、食べ残しを減らすことができて地球にも優しいのです。
文化として認知されていない
どうしてブッフェは、その本質ではなく、モトがとれるかどうかに注目されるのでしょうか。
先に述べた通り、残念ながらまだブッフェが文化として認められていないからであると考えています。しかしそれは、文化に足るものではないということではありません。
ブッフェに長い歴史や定められたマナーがあることが知られていないために、文化として認知されていないのだと私は考えています。
歴史や進化
ブッフェには、他の料理ジャンルと同じ以上に歴史や進化があります。
1958年8月1日に帝国ホテルが北欧料理「スモーガスボード」を「バイキング」と名付けて日本へ紹介し、広く知られるようになりました。
「パンとバターの食卓」を意味するこの「スモーガスボード」は1700年代から続く料理および食のスタイルであり、伝統もマナーもあるのです。そこにはモトをとるという考え方は全くありません。
山盛りにすることも推奨されておらず、適量を取り、必要であれば、何度でも取りに行くことがマナーとされています。
日本における進化
日本におけるブッフェの進化は興味深いです。
ブッフェ台や什器が、よりスタイリッシュに、より機能的に進化しただけではありません。
帝国ホテルが「バイキングコンシェルジュ」を生み出したり、ヒルトン東京が「チョコレートファウンテン」を広めたり、ホテル インターコンチネンタル 東京ベイが「ファーストディッシュ」を考案したり、京王プラザホテルやヒルトングループが「物語性」の要素を加えたりするなど、独自の発展を遂げているのです。
この発展を鑑みれば、ブッフェが包括的な食のエンターテイメントであり、ただ単に料理を自由に食べられる以上の価値があることが理解できるのではないでしょうか。
今後のポイント
日本ブッフェ協会は設立されたばかりですが、これからの運営において、以下がポイントになると考えています。
- 一般会員を増やす
- 食品ロスを減らす
- 食育に結びつける
一般会員を増やす
日本ブッフェ協会には、一般会員という会員区分があり、ブッフェに関心のある個人が加入できるようになっています(募集開始は2017年秋の予定)。
ホテル会員はブッフェの提供者であり、その反対側に位置するのが、ブッフェの利用者である一般会員です。
反対側と述べましたが、ブッフェに関心があり、日本ブッフェ協会の理念に共感しているという意味では、一般会員もホテル会員と立場は全く同じでしょう。
日本ブッフェ協会がいくら文化を広めたいと考えていても、提供者だけが共感し、利用者には共感されない理念であれば、ブッフェ文化を広めることは難しくなります。
従って、利用者であり、ブッフェファンである一般会員をいかに増やしていけるかが大きな鍵となるのです。
食品ロスを減らす
私は食品ロスの記事をいくつか書いていますが、究極的にはブッフェで食品ロスを減らせるのではないかと考えています。
みんなが適量なものだけを食べ、それに従って店も適量なものだけを提供できたとすれば、料理も食材も最適化することができ、食品ロス削減にも貢献できるはずです。
ただ、それには、まず始めに利用者の意識を大きく改革案しなければなりません。先に述べたように、モトをとるという考えがあったなら、食品ロスを削減するどころか、食品ロスを助長することにつながるからです。
こういった取り組みも、非営利法人である日本ブッフェ協会だからこそ、できることではないかと考えています。
食育に結びつける
ブッフェは、利用者が好きな時に好きなものを好きなように好きなだけ食べられるという、自由な食スタイルです。
この自分で考えて取って食べるという特性から、中学や高校では食育のために「バイキング給食」を実施しています。
アラカルトではどれか数品決めるだけであり、コース料理であればプリフィックスであればまだしも、そうでなければ料理やデザートを決めるということがありません。しかし、ブッフェでは利用者が何をどう食べるのかを全て決めます。
「バイキング給食」では自立性や協調性を養えますが、そこからもう一歩進んで、料理やデザートなどがどのように作られたのか、それを作るための食材はどのようにして得られたのかと考えを巡らせていければ、サステナビリティや子牛価格の高騰など、様々な食の問題にも関心が向くようになるのではないでしょうか。
もちろん、これはブッフェでなくともできることですが、ブッフェの利用者は食に対して能動的であるだけに、食の問題に対しても関心を持ってもらい易いのではないかと考えています。
ホテルのブッフェに注目
日本ブッフェ協会の設立時に、多くのホテルが会員となっていることから、ホテルがブッフェに力を入れていることが分かると思います。
よいブッフェを作り上げるためには、大きなダイナミックな空間、バラエティに富んだ料理やデザート、安定しておいしく作る技術、プレゼンテーションのこだわり、ストーリーの創出が必要となるだけに、総合力があるホテルはブッフェにとても向いています。
2020年の東京五輪へ向けて、また、訪日外国人の増加に伴って、ホテルがたくさん開業して注目されていますが、日本で独自の発展を遂げ、日本ブッフェ協会の設立により、来年の60周年へ向けて志をひとつにしたホテルのブッフェにも、是非とも注目していただきたいです。