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2025年度防衛予算案、海自「新型FFM」3隻の建造費に3148億円 もがみ型護衛艦から2倍以上

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
もがみ型護衛艦1番艦もがみFFM-1。新型FFMはこの能力向上型となる(海自)

政府は12月27日、過去最大の8兆7005億円に及ぶ2025年度防衛予算案を閣議決定した。このうち、海上自衛隊のもがみ型護衛艦「FFM」の能力向上型となる新型FFMについては、3隻分の建造費3148億円(1隻当たり1049億3000万円)が予算計上された。8月末の概算要求時の3140億円から8億円上積みされた。

12月19日に進水したばかりのもがみ型護衛艦10番艦「ながら」の建造費は、9番艦「なとり」と合わせて2隻で約1028億円(1隻当たり514億円)だった。このため、新型FFMの建造費はもがみ型と比べ、2倍以上となる。

防衛省と海上幕僚監部の説明や資料によると、もがみ型と新型FFMの1隻当たりの建造費は次のようになっている。近年は建造費が高騰してきているのが分かる。

もがみ型護衛艦(FFM)とその能力向上型となる新型FFMの1隻当たりの建造費(防衛省と海上幕僚監部の説明や資料を元に筆者が作成)
もがみ型護衛艦(FFM)とその能力向上型となる新型FFMの1隻当たりの建造費(防衛省と海上幕僚監部の説明や資料を元に筆者が作成)

新型FFMの建造費だけを見ても、今年度が866億円であったのに来年度は1049億3000万円となり、21%上昇する。

建造費高騰の理由について、防衛省担当者は「世界的な物価上昇によって部材費が上がっていることや、製造中止対策で技術変更が予想されることがある。物価高が大きな要因となっている」と説明した。

実は建造費が上昇しているのは新型FFMに限らず、来年度予算全般に見られる。例えば毎年1隻を調達中のたいげい型潜水艦の建造費についても、今年度の8番艦が950億円だったのに対し、来年度の9番艦は1140億円に上昇した。防衛省によると、この上昇分の190億円のうち、省人化機器を新たに搭載するための費用が約40億円を占める。残りの150億円は鋼材の物価上昇や搭載する装備品の価格上昇など物価高や人件費のアップに起因する。

●「防衛関係費のうち、為替の影響は1割から2割程度」

資材高騰をもたらす物価高の要因としては、輸入品の価格を押し上げる円安が進行していることも大きい。防衛省によると、来年度予算では1ドル150円の為替レートを前提とした。今年度が139円だったため、11円の円安水準となる。

防衛省担当者は「為替の影響をどれだけ受けるのかなかなか精緻が難しいのだが、基本的に防衛関係費のうち、為替の影響と言うのは1割から2割程度。毎年その範疇で推移している」と説明した。

●もがみ型の特徴

もがみ型は、敵のレーダーに写りにくい最新鋭のステルス設計のフリゲートだ。平時の監視警戒といったこれまでの護衛艦運用に加え、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも対処できる新艦種の多機能護衛艦(FFM)だ。軍拡を続ける中国の海洋進出をにらみ、全長1200キロに及ぶ南西諸島を中心に日本の海上防衛の一翼を担う主力艦となる。とりわけ尖閣諸島を含む南西地域では、平時にはグレーゾーン対処、有事には島嶼防衛の水陸両用戦の支援、機雷掃討など多様な任務を想定している。

もがみ型は平成30年度計画護衛艦(30FFM)として建造が始まり、年2隻という急ピッチで調達されてきた。昨年度防衛予算に計上された、2023年度計画艦までの計12隻で建造を終了する。2027年3月に12番艦が就役し、揃い踏みとなる。

●新型FFM、5年で12隻調達の急ピッチ

そして、今年度予算から、もがみ型(基準排水量3900トン)より一回り大きく、能力拡大型の新型FFM(同4800トン)の調達が始まった。もがみ型同様、計12隻を調達する。当初はこれまでの年2隻というもがみ型建造のペースを維持し、6年間で12隻の新型FFMを建造するとみられていたが、それよりもピッチを上げ、5年間で12隻の新型FFMを建造することとなっている。5年間で12隻の建造となれば、1年間に2隻を超える3隻の建造が見込まれる年が2年生まれる。それが初めて来年度になる。

新型FFMともがみ型護衛艦(FFM)のイメージ図(Naval NewsのYouTube動画をスクリーンショット)
新型FFMともがみ型護衛艦(FFM)のイメージ図(Naval NewsのYouTube動画をスクリーンショット)

新型FFMともがみ型護衛艦(FFM)の比較。新型FFMはもがみ型より一回り大きいことが分かる(Naval NewsのYouTube動画より)
新型FFMともがみ型護衛艦(FFM)の比較。新型FFMはもがみ型より一回り大きいことが分かる(Naval NewsのYouTube動画より)

現在のFFMは三菱重工業長崎造船所と三菱重工マリタイムシステムズ玉野本社工場で建造されている。しかし、防衛省は2023年8月、2024年度以降の新型FFM調達について、主契約者を三菱重工業、下請負者をジャパン・マリンユナイテッド(JMU)にそれぞれ決定した。

新型FFMの今後の調達計画について、防衛省担当者は「防衛力整備計画で12隻となっている。令和6年度は2隻、令和7年度は3隻となっているが、令和8年度以降、どう取得していくかについては現時点では決まっていない」と説明した。

ただし、2023年1月に発表された「『新型FFM型に係る企画提案契約』の参加希望者募集要領」に基づいて、新型FFMの調達数を年度別、会社別に表にまとめると、例えば以下のような今後の調達計画が考えられる。

予想される新型FFMの年度別調達数の具体例。今後のポイントは2026年度に3隻分が調達されるのか。あるいは2027年度に3隻分が調達されるのか(筆者作成)
予想される新型FFMの年度別調達数の具体例。今後のポイントは2026年度に3隻分が調達されるのか。あるいは2027年度に3隻分が調達されるのか(筆者作成)

新型FFMの1番艦は2028年度に就役予定で、順調に建造が進めばその5年後の2032年度には12隻が揃う。

●新型FFMともがみ型の最大の違い

新型FFMについて、防衛省は「長射程ミサイルの搭載や対潜戦機能の強化など、各種海上作戦能力の向上と省人化したFFM」と説明する。

従来の汎用護衛艦の定員は約200人だが、新型FFMの定員はもがみ型同様、船体のコンパクト化などにより、約90人となる。

新型FFMともがみ型の最大の違いは、新型FFMが強力な対空能力を保有することだ。船体の大型化によって生まれた広いスペースを利用して、Mk.41垂直発射システム(VLS)のセル数がもがみ型の16から32に倍増する。

もがみ型はこのVLSにミサイルの先端に魚雷を搭載し、通常の魚雷に比べて長距離から潜水艦を攻撃できる兵器である07式垂直発射魚雷投射ロケットのみを搭載する予定だ。スタンダードミサイル(SM)などの中距離艦対空ミサイルを搭載する予定はない。

一方、新型FFMはスタンダードミサイルなどのミサイルを搭載できるスペースが確保され、もがみ型よりも優れた対空戦闘能力を備える。07式アスロックに加え、新艦対空誘導弾「A-SAM」を搭載する。さらに、もがみ型搭載の17式艦対艦誘導弾(SSM)の代わりに、2026年度までに開発が完了する長射程のスタンドオフミサイルである12式SSM能力向上型(艦発型)も装備される。

この他の性能など新型FFMの詳しい内容については、拙稿「海自新型FFMは12隻を建造へ 2024年度防衛予算概算要求の主な注目点」をぜひお読みください。

新型FFMは基準排水量4880トン、全長142メートル、全幅17メートル。もがみ型は基準排水量3900トン、全長133メートル、全幅16.3メートル(Naval NewsのYouTube動画より)
新型FFMは基準排水量4880トン、全長142メートル、全幅17メートル。もがみ型は基準排水量3900トン、全長133メートル、全幅16.3メートル(Naval NewsのYouTube動画より)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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