「新」がつくのに古くて小さい? 市街地対岸の駅に残る木造駅舎 加古川線 新西脇駅(兵庫県西脇市)
突然だが、読者諸氏は「新○○」という駅名を聞いてどのような駅を思い浮かべるだろうか。おそらく多くの人は「新大阪」「新横浜」「新青森」のような新幹線の駅を思い浮かべることだろう。「新三田」「新百合ヶ丘」のようなニュータウンの駅を思い浮かべる人もいるかもしれない。いずれにせよ「新○○」という駅名に対して多くの人が抱いているであろうイメージは「○○駅よりも新しくてきれいな駅」だろう。そんなイメージとは対照的な「新○○」駅が、兵庫県を走るローカル線にある。加古川線の新西脇(しんにしわき)駅だ。
新西脇駅は99年前の大正14(1925)年10月1日に開業。駅名に「新」が冠されたのはもちろん「西脇」駅よりも新しかったからだが、この西脇駅とは新西脇駅の隣にある「西脇市」駅のことではない。今は廃止されてしまった鍛冶屋線の西脇駅のことだ。西脇駅は西脇市の中心近くにあり、長らく西脇市の玄関口だったが、鍛冶屋線の廃止と運命を共にした。西脇駅の廃止と同時に隣の「野村」駅が改称されて新たな玄関口となったのが西脇市駅だ。
新西脇駅があるのは西脇の中心市街地から見て加古川の対岸で、今でこそ住宅街となっているものの、駅が開業した頃には何もなかったようだ。現在の加古川は駅のすぐ北側を流れているが、これは大正末期から昭和初期にかけて行われた加古川の流路付け替えによるもので、以前はもっと市街地寄りを流れていた。加古川旧本流が埋め立てられたのは昭和23(1948)年のことで、それまで新西脇駅と市街地の間には加古川(新川)と加古川(旧本流)の二つの川があったことになる。昭和10(1935)年の地図で見てみると、新西脇駅から市街地へ行くには重春橋で新川を渡って中州に入り、萩ヶ瀬橋で旧本流と、二回も橋を渡らなければならなかったようだ。
ちなみに駅周辺は「和布(わぶ)」という地名で、明治の町村制までは和布新田村だった。町村制では野村などと共に多可郡重春村の一部となっており、対岸の西脇市街地(多可郡西脇町)とは別の町村だった。野村駅がかつての村名を駅名に採用したことを思えば「和布」駅になっていてもよさそうなものだが、野村駅と比べると市街地に近いので西脇の南の玄関口になることを期待されたのだろうか。ちなみに、新西脇駅は近年移転してきた西脇市役所に近く、その距離はわずか1.1キロだ。とはいえ、車社会の西脇で市役所アクセスに新西脇駅を使う人はほとんどいないだろう。
そんな新西脇駅だが、元々西脇市街からも重春村の中心からも離れたところに造られただけあって、利用もあまり見込んでいなかったのだろう。駅舎も小さくこじんまりとしている。無人化は国鉄末期の昭和61(1986)年11月1日で、既に40年近くが経過するが、駅舎内には窓口跡が残る。あまり人が通らないためか、駅舎内には蜘蛛が我が物顔に巣を張っていた。
駅舎入口には大正14(1925)年10月と記された建物財産標が貼られている。これを信じるなら開業時の建物ということになるが、昭和54(1979)年6月に発行された竹書房版『日本の駅』は昭和24(1949)年5月改築としている。駅舎が開業時のものなのか、それとも戦後すぐに建て替えられたものなのか、それとも開業時のものを戦後に増改築したものなのか、新西脇駅のような小さな駅は昔の写真や資料が少ないため、真相ははっきりしない。
新西脇駅の駅舎は妻面に出入口がある造りで、出入口が正面にある西脇市駅などと比べると印象が異なる。妻面が出入口の駅舎は駅舎正面の空間に余裕がない時に建てられる場合が多いが、新西脇駅の場合も正面(北側)には古くからありそうな民家が建っていて、空間に余裕がない。
入口の庇を支える支柱は自然の枝の曲線美を活かしたもので、設計者のセンスが光る。
ホームは単式一面一線。加古川線は後から交換設備を撤去した駅が多いが、新西脇駅は開業当初からの棒線駅だ。ホームは平成16(2004)年12月19日の電化に際して嵩上げされている。
令和4(2022)年度の一日の乗客数わずか8人と、「新○○」駅の中では全国でも一、二を争う閑散駅であろう新西脇駅。停車する列車も平日9往復、休日8往復とお世辞にも多いとは言えない。列車での訪問も一苦労だが、西脇市街を散策して本数の多い隣の西脇市駅まで歩くなどの工夫をすれば時間を持て余すことなく訪問できるだろう。
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