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旧称は野村 西脇市の玄関口なのに街外れにある「市駅」 加古川線 西脇市駅【前編】(兵庫県西脇市)

清水要鉄道・旅行ライター
西脇市駅

 山陽本線の加古川駅を起点に、加古川に沿って北播磨に分け入り、福知山線の谷川駅との間を結ぶ加古川線。全長48.5キロとあまり長い路線ではないが、全線を通して走る列車はわずか一往復のみで、運行系統は西脇市駅を境に大きく分断される。西脇市駅は北播磨の中心都市・西脇市の代表駅で、一日約700人が利用する駅だ。しかしながら、西脇市の中心からは少し離れた「街外れ」とも言うべき立地で、駅前はいささか活気に欠ける。

 今回はそんな西脇市駅を前編・後編に分けて紹介しよう。

駅舎
駅舎

 西脇市駅は大正2(1913)年10月22日、播州鉄道の「野村(のむら)」駅として開業した。駅周辺は明治の町村制まで多可郡野村だったところで、駅名もその地名にちなんでいる。当時は一つ先の「西脇(にしわき)」駅が播州鉄道の終点(のちに鍛冶屋まで延伸)で、そちらの方が多可郡西脇町の中心として賑わっていた。野村駅が設けられたのも西脇町の隣にあった多可郡重春村で、単なる途中駅の一つに過ぎなかった。

 そんな野村駅に転機が訪れたのは開業から11年後の大正13(1924)年12月27日のこと。播州鉄道を引き継いだ播丹鉄道の手により、野村駅で分岐して谷川までを結ぶ路線が開業したのだ。この時、分岐駅となったことが、野村駅の運命を大きく変えることとなる。

 昭和18(1943)年6月1日、私鉄だった播丹鉄道が国有化された。これに際し、野村駅に乗り入れていた二つの路線は加古川~野村~谷川間が加古川線、野村~西脇~鍛冶屋間が鍛冶屋線として分離されることとなる。

鍛冶屋線(多可町、鍛冶屋駅鉄道記念館)
鍛冶屋線(多可町、鍛冶屋駅鉄道記念館)

 加古川線・鍛冶屋線は二つの路線に分かれた後も一体となって運行され、西脇市の特産品である播州織や沿線住民の輸送に活躍したが、昭和後期には車社会化により利用者が減少。鍛冶屋線は第3次特定地方交通線として廃止対象になってしまう。鍛冶屋線は西脇以北こそ利用者が少なかったものの、西脇市の中心にある西脇駅までの利用者は多く、列車の多くは野村駅を越えて一駅先の西脇駅まで運行されていた。一方の野村~谷川間は、野村~西脇間より利用者が少なかったものの、利用者の多い加古川~野村間と一体の加古川線であったために廃止対象となることを免れている。

 結局、鍛冶屋線は平成2(1990)年4月1日に特定地方交通線としては最後の路線として廃止。西脇市の中心にあった西脇駅も路線廃止と運命を共にした。西脇駅の廃止により空位となった西脇市の代表駅の座には野村駅が繰り上がることになり、同日に「西脇市」に改称。こうして街外れにある「市駅」が生まれることとなった。二代目の「西脇」駅とせず「市」を後につけたのは、さすがに77年もの間西脇の玄関口であった西脇駅の歴史に配慮したのであろうか。

改札口
改札口

 野村駅あらため西脇市駅は木造駅舎の改装や電化、ICカード導入などの近代化を経て、開業から111年目の今なお多くの乗客に利用されている。改称により西脇市の代表駅となってからも34年、駅前の活気にこそ欠けるもののすっかりその立場にも馴染んだようだ。みどりの窓口こそ廃止されたもののみどりの券売機も設置され、加古川線の途中駅としては唯一駅員も配置されている。

ホーム
ホーム

 ホームは二面三線。ホームの附番はよくあるパターンとは逆で、駅舎から一番遠い順に1、2、3番線となっている。加古川行きはもっぱら3番線に発着、2番線を使う列車は少なく、谷川行きは1番線に発着している。西脇市駅を越えて直通する列車は一往復のみで、加古川と谷川、双方から来た列車が元の方向に戻る形だ。

西脇市駅前
西脇市駅前

 駅前ロータリーには加古川線の利用促進を呼びかける看板が立つが、街外れゆえに飲食店や商店は少なく、市の代表駅としては活気に欠ける。駅前には鍛冶屋線代替バスも発着するが、大阪・神戸と西脇を結ぶ高速バスは駅前には入らず、近くの県道上に停留場を設けている。

後編では駅から少し離れている西脇の街を紹介する。駅から中心部へは約2キロ、駅舎に観光案内所でも併設してレンタサイクルでも貸し出すようにすれば、市内の観光に加古川線を活用できるのではないかと思わないでもない。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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