きわめて稀な障がいのあるわたし。同じ障がいで同じ外見をした人を探す長い旅を終えて今後は？

水上賢治

映画ライター

8/3(土) 11:01

　イギリスのエラ・グレンディニング監督によるドキュメンタリー映画「わたしの物語」は、タイトル通りに、彼女自身についての物語だ。

　股関節がなく、大腿骨が短いというきわめて稀な障がいが生まれつきある彼女は、障がい者差別が未だに根強く残るこの社会を前にして、こう思い立つ。「自分と同じ障がいのある人と直接会って話してみたい」と。

　「わたしと同じような脚の人は果たしているのか？」「いたとして実際に会ってもらえるかしら？」と少し不安に思いながらも彼女は、SNSで同じ障がいのある人を探すことに。

　こうして始まり、コロナ禍や自身の出産という中断を挟みながらも、自分自身と自分の障がいと向き合い続けた4年間が記録されている。

　確かに収められているのは、障がい者としての彼女のひじょうにパーソナルな部分に触れることだ。

　ただ、プライベートな物語ではあるけれども、ここで語られることはどこかわたしたちの人生や生活の営み、いまの社会にもつながっている。

　ひとつの旅路といっていい彼女の日々の記録は、どこか画一的に語られがちで枠に収まってしまっているような「障がい」について、新たな面を見せてくれるとともに、障がいがあろうとなかろうと関係のなく直面する「この社会の中でどう生きればいいのか？」「自分らしく生きることとはどういうことなのか？」といったテーマへと結びついていく。

　「障がい者」を「障がい者」としてしまうのは、果たして「障がい」なのだろうか？

　この社会は、大切な何かを見過ごしてはいまいか？

　ふと、そんなことを考えてしまう、気づきの多い作品になっている。

　自身と同じ障がいのある人々と出会い、何を考え、作品を通して、何を伝えたかったのか？

　エラ・グレンディニング監督に訊く。

　ここからは番外編へ。エラ・グレンディニング監督のプロフィールについて訊いていく。番外編全二回／番外編第二回

映画監督を目指すようになったきっかけは？

　前回（番外編第一回はこちら）は、作品の舞台裏といっていい撮影監督とスタッフワークについて話してくれたエラ・グレンディニング監督。

　今回、初長編映画を完成させたが、そもそも映画監督を目指したきっかけはどこにあったのだろうか？

「わたしは子どものころから、ストーリーテリング、物語というものが大好きでした。

　それから映画を見ることも大好きで、子どものころから母と一緒にレンタルビデオ店にいって、自分で作品を選んで家で映画を見るということがなによりも好きだったんです。

　それで映画を見ていろいろなイメージを膨らませて、だんだんと自己流ですけど物語を書くようになっていきました。とにかく自分で書くとか書かないとかもう関係なく、物語というものが昔から大好きだったんですね。

　で、成長して大人になって、一度は映画とはまったく関係のない仕事に就きました。でも、働き始めてみるとどうしても楽しくない。当初から、楽しくない仕事ということはわかっていて納得もしていた。でも、やはりどうしても楽しくないし、それを楽しむこともできない。楽しいと思えることを仕事にしても必ずしも楽しいとは限らないこともわかってはいました。

　でも、一度は大好きな映画の道に進んでみたいなと思って、ひとつ自分で決心をして映画の学校に通い始めました。そこで映画制作について本格的に学んで、やはり自分が求めている仕事は『これだ！』と思いました。

　で、2017年に学校を卒業して、2018年から22年までBFI（British Film Institute／英国映画協会）の障害者スクリーン諮問グループ（Disability Screen Advisory Group）メンバーになり、ショートフィルムを作り始めました。

　そして今回の『わたしの物語』が初めての長編監督作品となって、現在に至っています」