大ヒット中「枯れ葉」のヒロインを演じて。フィンランドの世界的巨匠から受けた意外な指示とは?
日本でも高い人気を誇るフィンランドのアキ・カウリスマキ監督。
2017年、「希望のかなた」のプロモーション中に突然引退宣言をした彼が、突如監督復帰して6年ぶりに発表した新作が「枯れ葉」だ。
いわゆる労働者3部作と呼ばれる「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」に連なる一作とされる本作は、社会の片隅で生きる男女が巡り合い、すれ違うシンプルなラブ・ストーリー。
ただ、そこはカウリスマキ監督、単なる愛の物語というだけでは片づけられない。
不条理な理由でスーパーを解雇されたアンサと、酒で工場をクビになったホラッパが求めるささやかな幸福と愛は、それこそいま激しい爆撃にさらされ続けているガザの名もなき人々の大切な日常にもきっとつながっている。
「無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました」と皮肉たっぷりのコメントを寄せているカウリスマキ監督が、主人公のひとりアンサに指名したのはアルマ・ポウスティ。
ムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンを演じた「TOVE/トーベ」で注目を集めた彼女に訊く。
今回からは全六回のインタビューに続く番外編。
これまでの俳優としての歩みをアルマ・ポウスティが振り返る。番外編全二回。
シャイで引っ込み思案だった子どものころの自分からは想像できない道へ
前回(番外編第一回はこちら)は、本格的に演劇と演技を学びたいと思い、ヘルシンキ大学シアター・アカデミーに進学するまでを語ってくれたアルマ・ポウスティ。
それから、2007年に同大学を卒業後、現在まで俳優の仕事を続けている。
ここまで舞台をメインに活躍してきたが、何度も触れているようにムーミンの原作者、トーベ・ヤンソンを演じた2020年製作の映画「TOVE/トーベ」で映画俳優としても注目を集め、次々とテレビドラマや映画への出演が決まっている。
この現状をどう受け止めているだろうか?
「シャイで引っ込み思案だった子どものころの自分からは想像できない道に進んだなと思います。
『自分もなれたらいいな』という隠れた希望はありましたけど、自分が俳優になるとは思っていなかった。
ただ、人生の先を考えなければいけない時期に差し掛かった19歳のときに勇気を出して、俳優の道に踏み出してみた。
踏み出したからには悔いのないよう、とことん(演技について)学び、向き合おうと思いました。
俳優として成功するかどうかはわからないけれど、俳優という仕事に全力で取り組もうと心に決めました。
その気持ちで続けていたら、幸運なことにいろいろな作品に出合うことができて、ここまでこの仕事を続けられている。
自分が望んで、『これ!』と決めた仕事をいまも続けられていることをほんとうに嬉しく思っています。
19歳のときに演技の道に進もうと決断してよかったです」
これだけの喜びが直接返ってくる仕事はなかなかない
役者の仕事の魅力についてこう語る。
「ひと言では言い尽くせない(笑顔)。
ひとつはすばらしい物語に出合えること。
まだ世に出ていない物語にいち早く出合えることができる。
そして、その素晴らしい物語を受けとめて、役を演じることでみなさんに届けることができる。
それは責任重大です。プレッシャーを感じるときももちろんあります。
でも、やり遂げたときはそれ以上のものがみなさんから返ってくる。
これだけの喜びが直接返ってくる仕事はなかなかないような気がします」
アキ・カウリスマキ監督からの意外な指示とは?
これからも舞台と映像の仕事、両方をしていければという。
「映画やドラマと、舞台ではかなり違いがあります。
わたしとしては、舞台というのは公演初日を迎えて、それ以後は1回の公演を経るごとにアップデートしていく感覚がある。
しっかりとした戯曲があって、稽古を積み、完成形の舞台はあるのだけれど、一つの公演を経るごとにアップデートしてよりよい高みを目指して取り組んでいくところがある。
あと、よく言われることですけど舞台は生もので、幕が開いたらもう止まることはない。
また、役者のインスピレーションでも変化するし、観客のみなさんの反応でも大きく変わってくる。
観客の反応に影響を大きく受けて、俳優の演技や舞台の全体の印象が大きく変わることだってある。
一方で、映画はひとつの物語があっても、そのストーリーラインに沿って撮影していくわけではない。
舞台は始まったら最後まで止まりませんけど、映画は失敗したら何度でもテイクを重ねることになる。
そして、観客のみなさんはその場にはいない。
なので、ある意味、役者は劇場にいるお客さんに思いを馳せながら、演じるところがある。
ほんとうに映画やドラマと、舞台では大きな違いがあります。役者に求められることも違う。
ただ、求められることは違うんですけど、わたし自身は舞台も映画も取り組むときの姿勢に違いはありません。
舞台であろうと、映画であろうと、まずは物語をしっかりと把握して、演じる役について深く探求し理解し、必要な準備をする。
そこに違いはありません。
まあ、ちょっと裏話をすると、今回の『枯れ葉』については、アキ・カウリスマキ監督から『あまり用意周到に役作りの準備をしないように』というお達しがあったので、いつもとは違ったんですけどね(苦笑)。
ですから、映画も舞台もどちらも大好きで、今後も携わっていけたらと思っています。
また別の作品でも、日本のみなさんと出会うことができたらと思っています」
(※番外編インタビュー終了)
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第一回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第二回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第三回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第四回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第五回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー第六回はこちら】
【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ インタビュー番外編第一回はこちら】
「枯れ葉」
監督:アキ・カウリスマキ
撮影:ティモ・サルミネン
出演:アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴほか
公式サイト:kareha-movie.com
全国順次公開中
筆者撮影以外の写真はすべて(C) Sputnik Photo: Malla Hukkanen