日本でも高い人気を誇るフィンランドのアキ・カウリスマキ監督。

　2017年、「希望のかなた」のプロモーション中に突然引退宣言をした彼が、突如監督復帰して6年ぶりに発表した新作が「枯れ葉」だ。

　いわゆる労働者3部作と呼ばれる「パラダイスの夕暮れ」「真夜中の虹」「マッチ工場の少女」に連なる一作とされる本作は、社会の片隅で生きる男女が巡り合い、すれ違うシンプルなラブ・ストーリー。

　ただ、そこはカウリスマキ監督、単なる愛の物語というだけでは片づけられない。

　不条理な理由でスーパーを解雇されたアンサと、酒で工場をクビになったホラッパが求めるささやかな幸福と愛は、それこそいま激しい爆撃にさらされ続けているガザの名もなき人々の大切な日常にもきっとつながっている。

　「無意味でバカげた犯罪である戦争の全てに嫌気がさして、ついに人類に未来をもたらすかもしれないテーマ、すなわち愛を求める心、連帯、希望、そして他人や自然といった全ての生きるものと死んだものへの敬意、そんなことを物語として描くことにしました」と皮肉たっぷりのコメントを寄せているカウリスマキ監督が、主人公のひとりアンサに指名したのはアルマ・ポウスティ。

　ムーミンの生みの親であるトーベ・ヤンソンを演じた「TOVE／トーベ」で注目を集めた彼女に訊く。

　今回からは全六回のインタビューに続く番外編。

　これまでの俳優としての歩みをアルマ・ポウスティが振り返る。番外編全二回。

演劇一家に生まれて

　はじめに俳優を目指したきっかけをこう明かす。

「実は、うちの家族は演劇一家といいますか。

　まず祖父が俳優で、わたしの弟も俳優です。俳優をしている叔父もいます。

　それから父は舞台の監督、つまり演出家です。

　こんな感じなので、もう自分が物心がついたころには、演劇に馴れ親しんでいました。

　演劇や演技というものにすぐに触れられる環境にいたんです。

　ですから、多くの人を魅了する俳優に魅力を感じていたところはありました。

　演技というものに興味も抱いていました。

　祖父や父が演劇や役者について語っていて、その話を興味深く聞いていたものです」

引っ込み思案な自分にはなれない仕事だと思っていました

　ただ、子どものころはまったく役者になろうとは思ってなかったという。

「魅力は感じてはいたものの、子どものころは自分が役者の道を歩もうとはまったく考えていませんでした。

　というのも、幼少期のわたしはかなりシャイな子で。人前で話すこともほとんどできないぐらい内気な性格でした。

　だから、人前で堂々とセリフを言い、喜怒哀楽の感情を表現して、ときには歌う俳優はもう憧れの存在で。

　自分もああなりたいと思えど、絶対に引っ込み思案な自分にはなれない仕事だと思っていました。

　憧れてはいましたけど、半ば（役者の仕事は）諦めていました」

ヘルシンキ大学シアター・アカデミーの門を叩く

　だが、高校を卒業した後に考え直すことになったという。

「みなさんそうだと思うんですけど、高校生時代というのは、自分の将来について考えなくてはいけない。

　人生のひとつの岐路に立たされます。

　わたしもみなさんと一緒で、自分の将来と向き合い、悩んだ時期でした。

　その中で、わたしは高校を卒業してとりあえず１年間、フランス語を学ぶためにパリに行くことにしました。

　母国を離れて言葉を学んでいたこの期間というのは、改めて自分と向き合い、自分がほんとうにしたいことは何か考える時間になりました。

　考えた末に、『演技にチャレンジしてみたい』という自分がいることに気づいたんです。

　それで『じゃあどうすればいいのか？』と考えて、それまで演劇一家に育ってはいますけれど、舞台に立ったこともなければ、演技や演劇についてきちんと学んだこともない。

　ならば、きちんと演劇や演技について学ばないといけない。

　ということで、すぐにヘルシンキ大学シアター・アカデミーに願書を提出しました。

　そして、無事入学が叶って同大学で学ぶことになりました。

　とにかく演劇や演技についてきちんと学びたいと思ったので、もうあらゆる講義を受けました。

　もともと内気でオタクな性格なので、学びはじめると演劇や演技についてより深いことをどんどん知りたくなる。

　だから、もう自分主体で勝手に演劇や演技の猛勉強をしていましたね。

　演技や演劇の勉強漬けの毎日を送っていました。

　ですから、自分で言うのもなんですが、かなり真面目な学生だったと思います（笑）」

（※番外編二回に続く）

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第一回はこちら】

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第二回はこちら】

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第三回はこちら】

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第四回はこちら】

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第五回はこちら】

【「枯れ葉」アルマ・ポウスティ　インタビュー第六回はこちら】

「枯れ葉」

監督：アキ・カウリスマキ

撮影：ティモ・サルミネン

出演：アルマ・ポウスティ、ユッシ・ヴァタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴほか

公式サイト：kareha-movie.com

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて（C） Sputnik 　Photo: Malla Hukkanen