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《阪神》リハビリ中の梅野隆太郎と1軍で2度目の先発をした富田蓮による「うめとみ会談」、その内容とは?

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
立ち話のあと、さらに歩きながらも話し続ける梅野隆太郎と富田蓮

■鳴尾浜での“うめとみ会談”

 プロ入り2度目の先発登板、その翌日のことだ。

 阪神タイガース富田蓮投手は鳴尾浜球場での練習中にすれ違いざま、先輩捕手の梅野隆太郎選手に呼び止められた。梅野選手は8月13日の東京ヤクルトスワローズ戦(京セラドーム大阪)で左手首に死球を受けて骨折し、現在はリハビリ中でファーム施設にいる。

 二人が話し始めた。梅野選手の口調が非常に熱いことは、遠くから見ていてもうかがえる。それだけ後輩のことを思っているのだ。立ち話からレフト横の出入り口に向かって歩き出してもまだ話は続き、グラウンド外の通路に出てからも話し込んでいるのが見える。立ち話にしてはけっこう長い時間だった。

梅野先輩の話を真剣に聞く富田蓮
梅野先輩の話を真剣に聞く富田蓮

■1軍で2度目の先発

 富田投手はこの前日、9月27日の中日ドラゴンズ戦(甲子園球場)でプロ初被弾を含む2ホーマーを浴びた。被本塁打はいずれも細川成也選手にストレートをとらえられたものだった。

 また、岡林勇希選手には二回表、2死二塁の場面で高めに入ったカーブをライトに運ばれ、3点目を献上した。5回を6安打5失点(自責3)で2敗目を喫し、明けてこの日、登録抹消となった。

 「ファームでは打ち取れる球でも、1軍ではアジャストされる。ってことは、もっともっとまっすぐの質を上げないといけない。岡林に打たれたカーブも間違っちゃいけない方向に間違えた」と反省する。

 しかし、下を向いてはいない。「1軍で投げないとわからないこともたくさんある。1軍で投げられた経験は大きいし、またいつでも投げられる準備はしとかなきゃいけない」と、もちろん今後につなげる。

8月8日の独立リーグ戦での富田蓮
8月8日の独立リーグ戦での富田蓮

■梅野先輩からの助言

 シーズン序盤、1軍では何度も梅野選手とバッテリーを組んだ。試合前や試合後、「お風呂で会ったときとかも、よく話しかけてくれた」と、これまでも会話は重ねてきた。そして今回も梅野選手のほうから「おぉ」と寄ってきてくれた。

 「昨日の試合を見てくださっていて。梅野さん自身も1年目は言われることのほうが多かったけど、言われないとわかんないこともたくさんあったから、そのために俺もお前に言おうと思うという話だった。しっかり見てもらえているし、アドバイスももらえたので、そこはよかったと思います」。

 自分のことを思って言ってくれているのがわかるから、素直に聞き入れられる。

 「『やりきって打たれるなら吹っ切れるけど、やり残して打たれている感があった。そこは悔いが残る。ファームでよくて上がってるんだから、少ないチャンスを掴むためにもっとやんなきゃいけない』と言われて、たしかにそうだなと。悔いの残る球も多かったし…」。

 言われることは、もっともなことばかりだった。

“うめとみ会談”は続く
“うめとみ会談”は続く

■納得いくボールもあった

 しかし敗戦の中でも、自分なりによかったと思える球もあった。たとえば初回の岡林選手からは3球で三振を奪った。外の出し入れで、「理想的な打ち取り方だった」と自画自賛する。石川昂弥選手から見逃し三振を奪ったアウトローのストレートも納得の1球だった。

 「高めはアジャストされるから、コントロールも今後の課題」とし、「よかった部分と悪かった部分を、しっかりとノートにまとめるなりしようと思っています」。

 得たものはすべて肥やしにするつもりだ。

投内連係の練習をする富田蓮
投内連係の練習をする富田蓮

■1軍とファームの違い、先発と中継ぎの違い

 また、ファームでは「抑えて当然」とばかりに安定したピッチングを披露していたのに、1軍で対戦する選手には「1軍選手だ」と意識しすぎ、その名前に気後れしていたと自己分析する。

 春先は、そういう「これまでテレビで見てきた選手」と当たることが楽しみだと言ってしっかり抑えてきた富田投手だったが、何かメンタル面に変化があったのだろうか。

 「あのころは中継ぎだったので、その回だけでパッて出力を出せる。でも先発だと様子見で入っちゃう部分もあって、そういったところは先発の難しさでもあるのかなと思った」。

 さらに先発では、中継ぎのように1度きりの対戦ではなく、1試合の中で2巡、3巡と同じ打者との対戦がめぐってくる。「慎重になりすぎて考えすぎた」と省みる。そこもファームと違って、1軍では意識しすぎたところだという。

 梅野先輩の助言もあり、頭の中も整理できた。やるべきこともハッキリ見えた。

 「次はもっと腕振っていきます」。

 次の登板では、外連味なく打者に立ち向かっていくことを誓っていた。

投内連係の練習をする富田蓮
投内連係の練習をする富田蓮

■梅野隆太郎の言葉

 梅野選手に富田選手とどんな話をしたのかを問うと、以下のような言葉を伝えたと明かす。

 「年齢関係なく、1軍でプレーするってそれだけの責任感がある。ベテランが投げる1試合も若手が投げる1試合も、1試合は1試合。同じようにレギュラー陣がバックで守ってくれて、大事な責任のある試合。優勝が決まっての消化試合でも、どんな状況でもね。あぁ、そういえば大竹耕太郎)がいいコメント言っとったよね(*注)

 その1試合をどういうふうに投げるか。ここ(ファーム)には1軍で投げたいやつがいっぱいおる。その中で、あいつ(富田)は1軍で投げられるチャンスがあるから行ったわけで。投げたからこそ、経験したからこそ、今後どう変えられるか。それは本人次第。そういうことを話した。

 あとは自分で映像を見て感じること。見たら、そのときの自分の気持ちが振り返られる。この投球のときに、どういう気持ちで投げたんかなとか。それは俺にはわからん。気持ちは本人しかわからんから。

 こういう意識をしてたけど、もっと高い意識が必要やなとか。この意識でここに投げるんやったら技術不足やったなって単純に思うのか。考えは持ってるけど技術が追いついてこなかったら、1軍で何回も同じ繰り返しになるとか、そういう話はした。

 そういうのを振り返って、あとは自分でどう試行錯誤するか。この経験を来年に活かすのも殺すのも自分次第やけん。

 どういうふうなピッチングスタイルでいくかっていうのを自分で考えんとね。今のプレースタイルがうまくいかんのやったら、もっと自分から変えていかないと。

 もっと違う方法でボールを有効に使うとかしないと。ストライクを入れるための投球じゃなくて、どう見せて、どういうふうに打ち取るかというのを考えていかないと」。

 梅野選手の熱い言葉の数々は、富田投手にも強く響いていたようだ。先輩が自分のことを思って言ってくれることは、嬉しいものである。

(*注)9月23日の対スワローズ戦、試合後のヒーローインタビューで大竹投手は「消化試合って言われるんですけど、人生で今日しか来られない人もファンの中にはいらっしゃると思いますし、一戦必勝という気持ちで投げました」と話した。

伊藤将司と
伊藤将司と

ルーキー・井坪陽生と
ルーキー・井坪陽生と

■頼れる兄貴は気さくに話しかける

 鳴尾浜球場での練習中、梅野選手はあらゆる選手に話しかける。リハビリでウォーキングをするときや練習メニューの合間など、傍らにいる選手に話しかけ、コミュニケーションをとる。その気さくさが、若い選手の胸襟を開かせている。

 最年長野手であり、キャッチャーというポジションによる特性でもあるのだろうが、それ以上に梅野選手本人の人間性がそうさせているのだ。

 現在、梅野選手は「指先の感覚を鈍らせないように」とスローイング練習を始めている。左手に装着していた装具を外し、可動域を広げるべくリハビリに汗を流す。

 1軍にとっては梅野選手を欠いているのはマイナスだが、ファームにとっては梅野選手がいることは大きなプラスだ。そしてファームにいても、こうしてしっかりとチームを下支えし、気持ちは常にチームとともに戦っている。

 今後も頼れる兄貴として、梅野隆太郎はチームのため、後輩のため、今できることに精いっぱい尽力する。

スローイング練習をする梅野隆太郎
スローイング練習をする梅野隆太郎

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走り込む梅野隆太郎
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来季はプロ初勝利を!
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(撮影:筆者)

フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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