阪神・梅野隆太郎らが実施した「母の日」仕様の道具のチャリティーオークション そこに込められた思いとは
■梅野、西勇、北條の各選手に感謝状
阪神タイガースの梅野隆太郎選手にこのほど、社会福祉法人中央共同募金会から感謝状が贈呈された。自身がアドバイザリーを務める株式会社エスエスケイと協力して行った社会貢献活動に対してのものだ。同様に協力した西勇輝投手と北條史也選手にも贈られた。
その社会貢献活動とは、梅野選手とエスエスケイ社が他のアドバイザリー選手とともに、「母の日」に使用したピンク色の野球道具をオークションにかけ、その収益金を「赤い羽根共同募金」に全額寄付したというものだ。
この活動は昨年に続いて今年が2度目となるが、そのいきさつや思いなどを梅野選手とエスエスケイ社の販促渉外グループ係長・才田亮さん(阪神タイガース・オリックス・バファローズを担当)に聞いた。
■マザーズデー
プロ野球界では近年、「母の日」に選手がピンク色の道具を身に着けてプレーし、お母さんに感謝の気持ちを伝えるのが恒例になっている。NPB(日本野球機構)も「マザーズデー」として試合を行い、特別ルールでピンク色の道具の使用許可を出している。
NPB自体もプロ野球12球団とともに母の日を祝う企画を打ち出し、球場のビジョンで選手によるお母さんへのメッセージを放映したり、当日の出場選手にはオリジナルのピンクリストバンドの着用を勧めたり、などしている。
また、審判もピンク色のユニフォームを身にまとうなど、この日はプロ野球界全体がピンク色に染まる。
■「母の日」は特別な日
梅野選手にとって、「母の日」は特別だ。小学4年生のときに病で亡くなったお母さんに生前、「プロ野球選手になる」と誓っていた。夢をかなえた今も、お母さんへの感謝の思いはひとしおで、「母の日」にはその気持ちを込めたプレーを届けている。
ピンク色の道具にも思いを込めた。バットやリストバンド、スパイクだけでなく、キャッチャー用のプロテクターやレガースも。この日は全身ピンク色に包まれた。
ただ、梅野選手はエスエスケイ社を気遣った。自身にとっては特別で大切な日だが、「1日だけのために作ってもらうのはもったいないし、申し訳ない」と。プロで活躍して10年目、主力選手になった今も「やってもらって当たり前」という考えにはならないのが、梅野選手らしいところだ。
そこで、才田さんに相談して二人で頭をひねり、「じゃあ、母の日に使ったあと、何か社会貢献できるよう有効活用しよう」と考えがまとまり、チャリティーオークションに出品してその収益金を寄付することに決まった。
梅野選手も「メーカーさんがこうやって協力してくれるから」と、思いを共有できる才田さんにもエスエスケイ社にも感謝している。
■ひとり親家庭の支援
収益金は「赤い羽根共同募金」を通じて、ひとり親家庭の支援活動に役立ててもらうことにした。梅野選手にとってはお母さんへの思いはもちろんだが、お母さんが亡くなったあと、男手ひとつで育ててくれたお父さんへの感謝の気持ちも大きいからだ。
「一番は食事じゃないかな。やっぱスポーツしてるし、食事が重要。野球で疲れて帰ってきたときに食事の準備をしてくれたことが一番ですね」。
お父さんが作ってくれた食事が、プロ野球選手になる体の礎を築いてくれたと振り返る。
■昨年、初めてチャリティーオークションを実施
NPBが率先して取り組んでいるマザーズデーだが、実際のところ、選手の道具を負担するのは各メーカーである。1日だけのためにどこまでお金をかけてやるのかというのはメーカーによって温度差があるが、「ウチは最大限にやろうと考えている」と自社のスタンスを語る才田さん。
「ピンク色のキャッチャー道具も使用オッケーになったし、昨年は作らなかったけど『来年、作ってください』と梅ちゃんから言われて、今年は作ることにしたんです。そのとき、梅ちゃんも気を遣って『でも1試合のためにもったいないですよね』と言ってきたので、そこで話をして、昨年急遽、チャリティーオークションをすることにしました」。
梅野選手の一言からオークションの実施が決まったことを、才田さんも同様に口にする。
ただ、チャリティーオークションをしようというアイディアは浮かんだものの、その時点で時間もさほどなく、準備がたいへんだった。どのように行うのか、寄付先はどこにするのかなど、考えることは山ほどあり、さまざま調べて検討し、社会福祉法人中央共同募金会と共同で開催することに決まった。
「もうバタバタでした。昨年は声をかけることができたのは僕の担当の選手だけで…。(選手が所属する)球団の了承をもらう手続きもありますしね」。
それでも相当な金額が集まり、「赤い羽根共同募金」を通じて、ひとり親家庭の支援活動に役立てられた。梅野選手はじめ協力した選手や才田さんが非常に喜んだことは、いうまでもない。
■アドバイザリー全選手が協力
今年は早くから準備も万端に整え、エスエスケイ社のアドバイザリー全選手の協力によって、5月26日から6月4日まで入札を受け付けた。
タイガースからは梅野選手がバット、スパイク、キャッチャー道具、バッティング手袋、リストバンドを、西勇輝投手がグラブ、スパイクを、北條史也選手がバット、エルボーガード、フットガード、バッティング手袋、リストバンドをそれぞれサイン入りで出品した。
他球団でも読売ジャイアンツの坂本勇人選手、岡本和真選手らアドバイザリー全選手が協力してくれ、今年は昨年を大きく上回る金額が集まった。(文末に選手一覧)
■野球界のために恩返ししたい
奔走した才田さんも「やってよかったです」と満足げな笑顔を見せる。才田さんを含め、エスエスケイ社には「野球界のために何かしたい」という思いが常々あるという。
NPBの事業である「キャッチボールクラシック」に協力し、優勝したチーム全員にグラブ提供などを行ったり、「球活」という団体が行う「キッズ・ボールパーク」という未就学児と保護者を対象とした「ボール遊び教室」のイベントにも協力したりと、野球人口の拡大に貢献している。
「ウチの社長もよく言ってるんですけど、『野球でここまで大きくさせてもらった会社やから、恩返しできることはしたい』って」。
エスエスケイ社の方針も「スポーツで人や社会が元気になる取り組みを続ける」としているという。
■選手が寄せる才田さんへの全幅の信頼
才田さん自身も「社員が誇れる会社であってほしい」と願う中で、今回のようなチャリティーをすることで「社員のみんなが、『こういういいことをしている会社で働いている』というモチベーションにもなってくれたらいいかなというのがあります」と胸を張る。
スポーツ用品のメーカーとしてはもちろん商品が売れることが重要で、才田さんの仕事としては選手の力を借りて売り上げにつなげるパイプ役であるわけだが、それだけではなく選手と会社、双方にとってプラスになるような戦略を練ることも自身に課せられた任務だと考えている。
「西くんも会社のためを思って言ってくれることもあるし、選手の思いを形にできるように。それによって、どちらの価値も上がればいいなと思っています」。
そんな才田さんの気持ちを理解しているからこそ、選手たちは才田さんに全幅の信頼を置いている。毎年の才田さんの誕生日にはプレゼントやメッセージを欠かさないのは、その証左だろう。
■野球界の未来のために
野球の競技人口の低下、またその要因にもなっているキャッチボールをする場所の減少や道具の高価格化など、野球界におけるさまざまな問題も真剣に考えている。問題解決のためには各メーカーが協力し合い、NPBとともに取り組んでいくことが重要だと才田さんは訴える。
「未来のためにできることは、まだまだあるんじゃないかと思っています。ウチの会社だけがよかったらいいんじゃなくて、野球界全体としていい方向に進んでいけるようにできたら…」。
才田さんの中に温めているアイディアもある。いい形で出していけるよう、熟考を重ねているところだ。
今後も野球界の発展のために個人としても考え、社としても取り組んでいく。そしてそこには、なにより選手の協力が必要だ。これからも選手とタッグを組んで、野球界の未来を築く一翼を担う。
【チャリティーオークションに出品したエスエスケイ・アドバイザリー選手】
《阪神タイガース》
梅野隆太郎、西勇輝、北條史也
《読売ジャイアンツ》
坂本勇人、岡本和真、髙橋優貴、戸郷翔征
《東京ヤクルトスワローズ》
川端慎吾
《横浜DeNAベイスターズ》
石田健大
《中日ドラゴンズ》
立浪和義、大島洋平、岡田俊哉、後藤駿太、岡林勇希
《広島東洋カープ》
栗林良吏、秋山翔吾
《オリックス・バファローズ》
安達了一
《千葉ロッテマリーンズ》
松川虎生
《東北楽天ゴールデンイーグルス》
田中和基
《北海道日本ハムファイターズ》
松本剛
《埼玉西武ライオンズ》
中村剛也、平良海馬、水上由伸
《福岡ソフトバンクホークス》
中村晃