「谷繁型キャッチング」で正捕手獲りを目指す―阪神タイガース2年目・梅野隆太郎選手
■谷繁型キャッチング
ルーキーイヤーの昨年は一度もファーム降格はなく、1年間1軍で戦い抜いた。しかしシーズン終盤の大事な局面では出番も減り、悔しさと自身の力不足を痛感した。2年目の今季は待望の開幕スタメンマスクに抜擢された。けれどなかなか結果が伴わず、2度のファーム落ちを経験することとなった。
7月10日、2度目の鳴尾浜行きを命じられた梅野選手は、山田勝彦バッテリーコーチからある“宿題”を課されていた。
「谷繁型キャッチング」―ドラゴンズの谷繁元信監督兼任捕手のキャッチングスタイルだ。ほとんどのキャッチャーはピッチャーの球を受ける時、捕球寸前に一旦ミットを閉じる。そうやってタイミングをとっているのだ。しかし谷繁捕手はミットを一度も閉じず、構えたらそのままミットの捕球面をピッチャーに見せ続ける。山田コーチは「捕球時にミットが落ちる」のが梅野捕手の弱点だと見た。「谷繁さんのように“的”をわかりやすくしろ」というのが、山田コーチの指令だ。「これまで無駄な動きが多くて反応も遅れていた。ピッチャーがどこまで見ているかわからないけど、面がずっと見えるようにした方が投げやすいだろう」と梅野捕手に告げた。
アドバイスを受けた梅野捕手はまず、動画サイトYouTubeで検索した。古田敦也捕手と共演している谷繁捕手の動画を見つけると、何度も何度も繰り返し見て研究した。そして早速、鳴尾浜で取り組み始めた。
ファームでは更に吉田康夫バッテリーコーチに上体が高いことも指摘された。「下からボールを見る形になっていたんだ。それと、捕り方を勘違いしていたんだね。『体の近くで捕れ』と言われて、ボールを追っかけ気味に捕りにいっていた」とも気づいた吉田コーチから、「前の見えるところで捕るように」と基本から叩き込まれた。
「ストライクゾーンで捕ったらストライクなんだよ。こういうの、空間認知能力っていうのかな。3Dで捉えると、うまく下から入って捕れるんだよ」。この吉田コーチの話は感覚的な部分なので、経験者でないと理解しにくいが、梅野捕手にはしっかりと伝わったようだ。
また同時に股関節や足首の強化、可動域を広げることも自身に課した。「ストレッチではなくて、動きながら強化したり広げたり。上ではゲーム中心になるけど、ファームでは技術を上げつつゲームに出て、ゲーム後に反省して…を繰り返しやっていくしかないから」と、梅野捕手はすべてレベルアップすることを誓った。
■“分岐点”となった岩田投手と組んだ試合
そして色んなピッチャーを受けて、今まで受けたことのないピッチャーをどうリードするか考えた。「何か自分にできること…例えば球数を使う、ピッチャーへの声かけ、ジェスチャー、ポジショニング、色んなところを見て初心に帰って」と、テーマを見つけては取り組んだ。
そうやって連日汗を流している時、ようやくチャンスが訪れた。8月14日に昇格すると、21日のベイスターズ戦(京セラ)でスタメンマスクを言い渡された。ピッチャーは岩田稔投手。勝ち星から遠ざかり、「背水の覚悟」で臨む先輩投手をどうリードするか…。
岩田投手とはじっくり話をした。そこで要望されたのは「テンポ」だ。岩田投手は「ボクは高校野球くらいのテンポでいきたい。その方がバッターにも考える間を与えないし、野手も守りやすいでしょ。それが攻撃にも繋がると思うんですよ」と話す。
その思いを汲み取った梅野捕手は、試合前から「テンポよくを心がけたい」と意気込み、実際にボールを捕ったらすぐ返し、サインも素早く決めて出した。
それを意識してやっていることは岩田投手にも伝わった。と当時に、岩田投手はミットにも即座に気づいたという。「谷繁型キャッチング」だ。
「ボクはすぐに気づいた。自分のボールのラインが見えやすくなるんで、すごくいいです!」と岩田投手には大好評。「岩田さん、『吸い込まれるようなキャッチングをしてくれている』って言ってくれたんです!」と、“成果”を認められた梅野捕手にも白い歯がこぼれた。
「(谷繁型キャッチングは)まだまだ意識してやっている段階だし、完全にはできてないけど、ボールの軌道に対してしっかりキャッチングに入り込めるよう、これからもやっていきたい」と梅野捕手は決意している。
この日は岩田投手に勝ちがつき、和田豊監督は「梅野はピッチャーにボールを返すのも早く、気を遣ってリードしていた。なんとか抑えようと必死な姿が見えた」と讃え、山田コーチも「キャッチングや姿勢、一生懸命さがピッチャーに伝わっていた。必死にやることでピッチャーに信頼される」と口を揃えた。
「必死」「一生懸命」…これらはファームでも吉田コーチから口酸っぱく言われていたことだ。「下手でもいいから丁寧に一生懸命に捕ってあげる。そうしているうちに上手くなるし、丁寧に捕っていることは必ずピッチャーに伝わるから」。吉田コーチからこんこんと説かれていた。
そして梅野捕手は「あの試合は岩田さんもプレッシャーの中だったから、なんとか勝たせたいと思ったし、でも自分の色も出さないとと思って、気持ちだけは込めて臨みました。結果がついてきて、なんとか自分にもやれた。ある意味、分岐点になった試合だと思います」と振り返った。
■正捕手を目指して必死に…
まずは「岩田投手の女房役」を掴んだ。その他は大差での負けゲームでのマスクや代打など、まだまだ出番は限られている。「去年とは立場が違うことはわかっている。結果の世界なんで、チャンスがもらえたら結果を出せるよう頑張りたい。でも結果を求めるばかりでも、逆に結果はついてこない。とにかくキャッチャーにできることを必死でやりたい」。
「必死」―ピッチャーの信頼を得るために、また正捕手に近づくために。これこそが今もっとも必要であることは、梅野捕手本人が一番よくわかっている。
「谷繁型キャッチング」を武器に、必死で正捕手を獲りにいく!!