ラーメンの価値を上げる! ベテラン料理人が本気で作った唯一無二の醤油ラーメンとは?
職人魂に火がつき本気でラーメンと向き合った
福岡で今注目を集めている一軒のラーメン店がある。店の名前は『もやい』(福岡県福岡市南区五十川1-15-14)。店主の牧尾誠さんは20年以上にわたり焼鳥店『ゆるり』(福岡県福岡市中央区薬院3-7-24)を営む生粋の料理人。学生時代から料理人に憧れ、国内外で経験を積んで30歳の時に独立した。
福岡は焼鳥もソウルフードとして人気だが、言うまでもなくラーメンも人気のご当地グルメ。牧尾さんもラーメンが大好きで、福岡ならではの豚骨ラーメンではなく、焼鳥店らしく醤油ラーメンを創作して自身の焼鳥店でも提供していたが、東京の醤油ラーメンを食べた時にそのレベルの高さに驚いた。
「焼鳥屋で出していた醤油ラーメンをお客様は美味しいと言って下さっていたのですが、東京で醤油ラーメンを食べた時に自分のラーメンよりもはるかに美味しくて、恥ずかしくなりました。これはちゃんと本気で美味しい物を作ろうと職人魂に火がつきましたね」(もやい 店主 牧尾誠さん)
素材も手間も惜しまずに料理として仕上げる
いつかはラーメン専門店を開きたい。牧尾さんは焼鳥店でラーメンを出しながら、日々研究を重ね続けていった。料理人としてオリジナリティのあるラーメンを作りたい。自分を表現するラーメンとはどんなラーメンなのか。その中で見えてきた一つの光が、子供の頃に母親が作ってくれた「味噌汁」だった。
「日本人が好む料理の根幹はやはり『出汁』だと思うんです。母親が毎朝鰹節を削ってひいた出汁で作る味噌汁のような、毎日でも食べたくなるような優しい味わいのラーメンを作りたいと思いました」(牧尾さん)
試行錯誤の上たどり着いた牧尾さんならではのラーメン。その特徴は「出汁感」だ。スープのベースはさつま知覧どりの鶏ガラに背ガラやモミジなど、動物系の素材が中心だが、日本人のDNAに訴えかける鰹節や昆布などの旨味と香りに溢れている。鰹節は削り節ではなく注文を受けてから手で削って丼の底に忍ばせる。
「注文ごとに鰹節を手で削るのは手間なのですが、やはり削り節と比べると香りが全然違います。ラーメンも料理なのですから、お客様に美味しくて上質なものをご提供して喜んで頂きたい。そのためには素材も惜しまず使って手間もかけたいと考えています」(牧尾さん)
唯一無二の「新博多醤油そば」が完成
日本蕎麦も大好きな牧尾さんは、醤油ダレに日本蕎麦のカエシの技術を応用することで、出汁感のあるスープにさらなる深みを与えた。しなやかな麺はもちろん自家製麺。廃業してしまった知己のラーメン店主に教えを乞うて技術と製麺機を受け継いだ。
スープや麺のみならず、具材にも一切手を抜かない。素材や調味料も厳選して仕上げたラーメンには料理としての風格が感じられるのは、牧尾さんの料理人としての長年の経験や知識、そして生き様が一杯の丼の中に集約されているからだろう。その結果、今までのラーメンにはない「新博多醤油そば」としてのオリジナリティを確立したのだ。
「長年料理人として現場に立ってきましたが、ラーメンのお客様は皆さん舌が肥えていて厳しいので緊張しますね。いつかは東京など福岡以外の場所のお客様にも、自分のラーメンを食べて頂いて評価して貰いたいなと思っています」(牧尾さん)
ラーメンは価格があまりにも安過ぎる
長い間飲食業に携わってきた牧尾さん。食材高騰や労働環境など、昨今の飲食業界を取り巻く状況には、以前から危機感を覚えているという。今回のラーメンを通してさらにその思いは強くなっていった。
「これは日本の飲食業界全般にも言えることですが、皆さんが苦労して作っているのに正当な評価を得られていない現状。その中でもラーメンは価格があまりにも安過ぎると思います。やはり材料や技術に見合った適正な価格で提供しないと、疲弊してしまって商売は続かないと思うのです。ラーメンの価値を上げるというとおこがましいのですが、少しでも業界が良くなっていくようにこれからも頑張ります」(牧尾さん)
※写真は筆者によるものです。
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