豚骨ラーメンの街福岡で大行列 『ラーメン普通』の普通ではない一杯とは?
コロナ禍中にオープンした人気ラーメン店
福岡県春日市大和町。陸上自衛隊の駐屯地に程近い場所に、コロナ禍中の2021年7月、一軒のラーメン店が暖簾を掲げた。店の名前は『ラーメン普通』(福岡県春日市大和町4-24)。開業当初から話題を集めて、連日行列が出来る人気店となっている。
店主の森山恭行さんは大学卒業後に地元である佐賀でスーパーに就職。そのスーパーが新たに飲食業を始めるにあたりその担当者に抜擢された。学生時代からお酒や料理が大好きで、飲食業にも興味を持っていた森山さんにとって、それは運命的とも言える抜擢だった。
「学生時代からお酒が好きだったので、居酒屋で働くのも良いなと思っていたんです。しかし卒業する時にそこまで本気になれずスーパーに就職したのですが、そのスーパーが居酒屋をやると聞いて願ったり叶ったりでしたね」(ラーメン普通 店主 森山恭行さん)
その後、独立して友人と3人で創作居酒屋を始めた森山さん。地元に根付いた人気店として賑わっていたが、コロナ禍によって居酒屋業界は打撃を受け、森山さんも今後の人生について考えることとなった。
居酒屋時代の技術を活かした「貝出汁」
「私も家庭を持つようになって、家族との時間も作りたい中で、夜が遅かったり時間が定まらない居酒屋の仕事が辛くなってきたんです。なんとか昼間に売り上げが作れる店は出来ないかと考えた答えがラーメンでした。ラーメン経験はなかったのですが、居酒屋時代に培った出汁をひく技術を活かせるのではないかと考えました」(森山さん)
居酒屋時代からアサリなどの貝出汁が好きだった森山さんは、日本人が皆大好きな貝出汁のラーメンで勝負しようと決めた。しかし、和食の貝出汁に麺を入れただけではラーメンにはならない。お吸い物ではなくラーメンのスープとして満足出来る出汁の強さ、塩分や油分のバランスを探りながら作り上げていった。
「スープを一口飲んだ時に、力強い貝の旨味をまず感じて欲しかったんです。和食の出汁のレベルの旨味ではラーメンとしての満足感は得られないので、お吸い物で使う貝の十倍以上の量を使っています」(森山さん)
豚骨好きの福岡人に受け入れられた動物系不使用のラーメン
スープのベースは大量の活きアサリで作り、ホンビノスの旨味をプラスすることでまろやかさを出す。貝出汁は和食の技法を用いつつも、タレや香味油にも貝を使うことでさらに貝の力強さを表現。さらに羅臼昆布や煮干で旨味の相乗効果を引き出し、スープに動物系素材は使わない。豚骨ラーメンが人気の福岡で受け入れられるかがポイントだった。
しかしながら森山さんのラーメンは、すぐに福岡の人たちの心をつかんだ。和食の技法を駆使した圧倒的な旨味に満ちた貝出汁ラーメンは、それまで福岡にはほとんど無かった味だったが、すぐさま老若男女幅広い多くの人たちに受け入れられた。日本人なら誰もが慣れ親しんだ貝出汁の旨味を上手にラーメンに仕上げた結果だ。
「普通」に過ごせることのありがたさをラーメンに
福岡は言わずと知れた豚骨ラーメンの街だ。ここ数年、豚骨を使わない「非豚骨」のラーメンがトレンドになってはいるが、スープに動物系素材を一切使わないラーメンは決して「普通」ではない。森山さんはなぜ店名に敢えて「普通」とつけたのだろうか。
「コロナ禍によって普通にしてきたことが出来なくなり、普通に生活出来ることはありがたいことなのだと痛感したんです。普通が普通じゃなくなった時にこの店をオープンしたので、この名前をつけました。普通の概念は人それぞれだと思うのですが、皆がまた普通に暮らせるようにという想いも込めて、これからも日々ラーメンを作っていきたいと思っています」(森山さん)
※写真は筆者によるものです。
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