大人の日帰りウォーキング 初対面で感じた距離感の近さ ほど良い距離をとりながら人間関係を保つコツ
葉子さん、おはよう!今日はよろしくね。
東京の日本橋、先に気付いてくれた晴美さんが私に手を振りながら声をかけてくれ、私も続いてあいさつと返事をする。
久しぶりですね。私こそ、よろしくお願いします。今日も暑いけれど、少し雲が出ているから何とかなりそうね。
以前、晴美さんから街道ウォーキングをしたいと声をかけられ、今日はその有言実行の日である。運動があまり得意ではない晴美さんとの街道ウォーキングなので、コースをどうしようかと散々悩んだ後、シンプルが一番だと考え直しで東海道を歩く旅を提案した。
運動が得意でない人に東海道がお勧めという訳ではなく、どの街道を歩いても大変さは変わらない。
ただ、江戸時代に造られた五街道の中では一番、名前に親しみがあるだろうと考えたからであり、実際に街道歩きの旅をしている人も東海道から始めている人が多い印象がある。東海道をすっぽかして中山道や甲州街道を歩いて楽しんでいるのは私ぐらいだと思う。
私(葉子)は50代に突入しているおばさん。子どもは大学生と社会人になり、子育てもようやく卒業する。3年程前に始めた登山と街道ウォーキングが楽しくて、時間があれば歩く旅に出かけている。私と晴美さんは元同僚であり、数少ない友人の一人である。
晴美さんは1年程前に糖尿病と診断され、通院して内服治療を受けている。先日、検査の結果が良くなかったことで、主治医より食事療法や運動療法を強く指導されたという。 運動が好きではない晴美さんは、楽しく運動、続けて運動するにはどうすれば良いのかと考えて、思いついたのが旧街道を日帰りで歩きつなげる「街道ウォーキング」だった。
今日は、もう一人一緒に歩く旅をする人がいる。
晴美さんの知り合いの人で、一緒に行きたいとお願いされたという。年齢は晴美さんと同じおばさんで、私も含めて「おばさんトリオ」となる。
改めて、ひびきが良くないコンビ名だと思った。昭和のキャンディーズに習って「おばさんズ?」これもダメか。誰にも相手にされない未来が目に浮かぶ。
余計な事を考えていないであいさつしないと。
こういう時、おばさんになるまで培ってきた長年の経験がとても役に立つ。そう、満面のおばさんスマイル。時と場所、相手次第では寒さを放つこともできるおばさん最大の武器であるが、その本来の目的は、自分は良い人であるアピールをしたいだけだったりする。
葉子です。よろしくお願いします。
初めまして、明子です。
晴美さんの話を聞いて、私も一緒に街道ウォーキングをしてみたくなってお願いしました。日常の運動はしていないけれど、晴美さんよりは歩けると思いますよ。
私たちの年代では、50代も早足で過ぎ去って、気が付けば60代が目の前。定年もあとわずか。そうなってくると健康が大切ですからね。歩く旅は運動になるし、街や歴史を楽しめる。そして、目標があるからやりがいや達成感も味わえる。とてもお得な趣味ですよね。
以前から気になっていましたし、いずれは主人と楽しみたいと思っています。
そ、そうですよね。
明るくてはきはきと話をする様子は、明子さんの名前そのものだと感じる。しかし「晴美さんよりは歩けると思う」と、少し気になる部分もあった。
なかなか、ストレートな言葉だな思う。素直な人なのかな?と、思う反面、初対面の人にこういう内容を言うかなと、疑問にも感じる。当事者の晴美さんと仲が良くて、じゃれあいながらお互いを同じように言い合っているのならわかるけれど、そんな様子でもないし。
晴美さんの様子を見ると、気にしている様子ではなかった。
三人はあいさつを済ませると日本橋を出発して南西に向かって歩き始めた。時刻は朝9時30分。休日でもあるこの日は、日本橋から京橋を通り抜けて銀座に入る頃には観光客も増えてくるだろう。それまでに、今日の予定を伝えようか。
今日はどれぐらいの距離を歩こうか。10km程が良いかなと思っているけれど、と、私は言った。
「え、きちんとゴールを決めていないの?」
今日、初めて会ったばかりの明子さんが言った。
私が街中の街道ウォーキングをするときは、歩くコースのゴールを決めていないことが多い。街道を歩くので、歩く道は決まっている。ゴールは街道沿いの駅やバス停にすれば大丈夫。
長い距離を歩くと、その日の体調にも歩く距離は大きく左右される。計画した目的地までたどりつかない事もあるし、反対に早く到着することもある。しかも、今日は初めて一緒に歩く人ばかりなので時間は読みづらい。
なんとなくのゴールは決めているよ。東海道の最初の宿場、品川宿をこえた先の大森駅はどうかな。距離は13kmぐらい。長くなるから、もう少し手前でゴールにしても良いかもね
「13kmは、街道ウォーキングの距離では長いの?短いの?」
明子さんは歩く距離の指標と言うか、評価がほしいのか。何だか、イエスかノーの答えを求めるような内容も気にかかるし、どっちに答えても何かを言われそうな気がしてくる。そうじゃないと思うけど。
晴美さんを見ると、「13kmは長い」と、顔に書いているような表情をしているけれど、この雰囲気では言えないと感じている様子。そうだよね。私も言えないよ。
明子さんは、長い距離を一生懸命に歩きたいと思っているのだろう。気持ちはわかるけれど、それは自分1人ですればよい事であり、他人を巻き込む事ではない。
今日は運動に慣れていない晴美さんも一緒だし、明子さんも初めての街道ウォーキングである。目標を高くするよりは、楽しいと思えるような体験をして、今後も続けられるのが良いのではないか。
どうだろう、街道ウォーキングで歩く距離は人にもよるけれど、歩く時間にもよるからね。
ぼんやりとした内容で答えると、さらに明子さんは続けて言う。
「普通はどれくらいの速さで、どれぐらいの距離を歩くの?」
そんなの知らないよ。言葉に出せるはずはなく、心の中でつぶやいた。
長い距離が歩けたからすごいとか、短い時間で歩けたから速いとか、そういう事じゃないと思う。そもそも、街道ウォーキングにルールなんてないし、人と競うものでもない。
そう思いながら、このまま答えると明子さんの頭の中で理解不能と赤信号が出てしまいそうだ。別に、それで良いのかもしれないけれど、今日一日は一緒に街道ウォーキングをするので、終わるまでは良い空気でいたい。そして、これ以上に気を使うのは疲れる。
江戸時代の旅人は一日に32kmから40kmを歩いたと言われているけれど、当時の人は体力があっただろうからすごいよね。今、街道ウォーキングしている人がどれくらいで歩いているかはネットで公開している人もいるから調べてみるのも良いかも。突っ走って歩く人もいれば、じっくり街を歩いて楽しむ人もいるから距離が短い人もいるよ。楽しみ方は人それぞれだよ。
「そう、いろいろな楽しみ方があるのね。ところで葉子さんはどうなの?」
やばい、私の内容に話が傾いてきた。なんとなく感じていたけれど、ぐいぐいと話を聞いてくる明子さんの距離感に戸惑う。
この距離感に流されない方が良さそうだ。さらっとかわそうか。ここで自分の事をペラペラと話すと良くないことが多い。
そのままうわさ話になって流れ出たり、マウントされる材料になったりする。妙にライバル心を持たれて張り合って来られても面倒だし、自慢話と思われるのも不本意でもある。
私は、おばさんになるまで人間関係の渦には必ず巻きこまれてきた。最近では人付き合いを最低限に減らし、人と関わらないで自分が楽しめば良いと思っている。
そして、今日、初めて会った明子さんの事を私は良く知らない。信用しないと言う訳ではないけれど、話してしまった内容は、取り消せない。話すのはいつでもできる。今でなくても良い。
その時によるからね。自分が楽しければそれで良いのよ。
私って、言葉の使い方が下手だ。もっと上手な言い回しを出来ないかと思うけれど、この言葉しか出てこなかった。人付き合いは苦手だと、再認識した。
歩き進んでいた三人は、そろそろ銀座に入ろうとしていた。さすがに銀座は人が多く、会話をしながら歩けなくなってきたことにホッとしながら、人混みの中を縫うように先に向かって進んだ。
歩き始めてまだ30分程しかたっていない。距離も1kmか2km程だし、まだまだ先は長い。いろんな意味で長い一日になりそうだと、改めて思った。
有名な銀座通りを歩きながら道路の両側には有名なお店が立ち並ぶのをじっくり見ることもなく、強い日光を遮るように東側に建っているビルの影を三人は歩き進んだ。
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