Yahoo!ニュース

「結婚なんて無理」20代後半の若者の半分が年収300万円に達しない国・令和のニッポン

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

若い世代の所得を増やす?

3/31に政府は例の「異次元の少子化対策」に対するたたき台として試案を提示した。その基本理念の1番目に「若い世代の所得を増やす」とある。

第一に、若い世代が「人生のラッシュアワー」と言われる学びや就職・結婚・出産・子育てなど様々なライフイベントが重なる時期において、現在の所得や将来の見通しを持てるようにすること、すなわち「若い世代の所得を増やす」ことが必要である。

…とあるが、これには全く異存はない。むしろ、少子化対策のキモはこれに尽きるといってもよいと思っている。

しかし、残念ながら試案の中に具体的な「「若い世代の所得を増やす」方策については何一つ書かれていない。基本理念の一番目に提示しながら、単なるお題目に終わっている。

賃上げは大企業だけ

確かに、新年度の開始に伴い、新入社員の賃上げのニュースが続いている。若者の賃上げはとても喜ばしいことであり、昨今の物価高などを勘案すれば、むしろ必須でもある。しかし、ニュースで伝わってくるのは、大企業の初任給アップの話ばかり。

就業人口の7割は中小企業である。いくら若者の人口減少で売り手市場になっているからといって、新入社員全員が大企業に就職できるものではない。体力に余裕のある大企業ばかりが賃上げして、中小企業が据え置きとなるのであれば、これは格差が拡大してしまう問題を発生させる。

東京圏など大都市の大企業に勤める若者はより恵まれた環境になり、そうでない若者は相変わらず「失われた30年」が続くのであろうか。

東京圏に住んでいると、同類縁でつながる者同士は同じような年収同士の出会いになる。大卒で大企業に勤めるならば、初年度の年収が300万円を超えることは容易いだろう。しかし、悲しい事に、日本全体でみれば、20代で300万円の年収を超えることは普通のことではない。25-29歳の未婚男性のほぼ半分が300万円の年収にすら届いていないのである。30-34歳であっても43%が300万円未満である。

ちなみに、結婚を希望する未婚男性のうち約25%が「経済的理由で結婚できない」と言っている。それは、もっとも初婚の多い年齢帯である25-34歳において、未婚男性のほぼ半数が年収300万円に達しないことと、決して無関係ではない。

年収300万円の壁

男性の結婚には「年収300万円の壁」というものが存在する。延々と30年以上もこの壁の金額が300万円から全然あがっていないこと自体が、給料デフレそのものなのであるが、それは置いておいたとしても「300万を超えるか超えないかで既婚率が大幅に変わる」という現実は認識していただきたいと思う。

2021年の「21世紀成年者縦断調査」に基づいて、男性の独身者と既婚者の年収階級別構成比が計算できる。対象年齢は29-38歳である。調査原票は月収表示なので、単純に12倍して年収換算とした。

これを見ても、独身男性の最頻値は240-300万未満であり、300万円に中央値として届いていない。一方、既婚男性の最頻値は300-360万円である。明らかに「300万円の壁」が存在していることがわかる。

もちろん、300万円を超えれば誰でも結婚できるというものではないが、統計上、男性が結婚の踏ん切りを付けられる目安が300万円であることは明白である。

とかく非正規の問題にすり替えられるが、決してそうではない。非正規率4割という数字は女性も含むものであり、男性のこの年代における正規雇用率は80%を超える。つまり、正規社員であっても300万円に達しないケースが多いということである。

物価高に見合う十分な賃上げができない中小企業の全部が決して搾取をしているわけではないが、これだけ若者人口が減少していく中で、安い給料では若者が離れていくということを覚悟しなければならないだろう。

年収240-300万の未婚男性の構成比は22%である。この22%のうち半分の11%が300万円を超えただけでも、随分と気分が変わるだろう。平均すれば年収で約30万円、月にすれば2.5万円のアップだ。決して無謀な数字ではない。

少子化の根元は婚姻数の減少であり、その要因として大きいのは若者の経済環境の悪さであることは否定できない。しかし、その改善は、決して宝くじが当たるような大金が必要なのではなく、300万円に達しない若者の10%に対して、月2.5万円の賃上げでも劇的に風景を変えることができる。

すでに300万円を超えている大企業の若者の賃上げは否定しない。それはそれでやっていただくとしても、地方を中心とした低賃金の若者の雇用環境を改善することは急務だと思う。

大人たちの責務

しかし、額面で300万円を超えればいいという話でもない。報道では、この少子化対策の財源を社会保障費によって補填するという話もでているが、額面があがっても手取りが減るのではまったく意味がない。この記事でも書いたように(結婚どころではない若者~給料が増えたように見せかけて、手取りがむしろ減らされている)、事実この25年間というもの、額面給料があがっても、税金や社会保障費がステルス値上げされており、29歳以下の若者の可処分所得の中央値も300万円に達していない。

「若者の給料をあげたところで結婚が増えるわけではない」と文句を言ってくる輩がいる。しかし、年収増によって結婚前向き度が増えることは事実である。

「モテない」以前に結婚意欲すら「持てない」未婚の若者の厳しい現実

また、「社会のせいにするな。自分で稼げ」と一見ポジティブそうなことをいう大人もいるが、まだ社会に出たばかりの若者が社会環境の影響を受けないはずがない。全てを彼らの自己責任にするのは酷である。自分らの若い頃も大人たちがお膳立てしてくれたからこそ今があることを忘れてはいけない。

そういう精神論は、少なくとも若者の年収の中央値が300万円を超えるような環境整備をしてから言ってほしいものである。というより、若者の半分が300万円も稼げないような国にしてしまったのは一体誰なんだろうか。

提供:イメージマート

そして、若者自身も、自らの希少価値を認識して、十分な対価を支払ってくれる相手と付き合っていってほしい。

対価を払わない言い訳として「勉強になるから、経験になるから」なんて言葉は無視していい。対価をもらいつつ、勉強も経験もすればいいのである。

関連記事

東京中央区の出生率トップ「結婚も出産も豊かな貴族夫婦だけが享受できる特権的行為」となったのか?

結婚したいのにできない若者が4割~「不本意未婚」増大した若者を取り巻く環境

給料は増えない、税や社会保障費はあがる、おまけにインフレまでやってくる地獄

-

※記事内グラフの商用無断転載は固くお断りします。

※記事の引用は歓迎しますが、著者名と出典記載(当記事URLなど)をお願いします。

独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

荒川和久の最近の記事