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結婚したいのにできない若者が4割~「不本意未婚」増大した若者を取り巻く環境

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

未婚にもいろいろある

昨日、松野官房長官は、今年の9月までの出生数が調査開始以来、最も少なかった去年を下回っていることについて、「危機的状況である」との認識を示したことが話題になった。それに関して思うところをヤフーコメントにて書いた

ツイッターでも触れたところ大きな反響があった。

今回は、そこでも触れた若者の「不本意未婚」について解説したい。

一括りに未婚というが、その中には結婚しないと決めた「選択的非婚者」と、本当は結婚したいのにできないという「不本意未婚」がいる。

前者は、その決断までの過程には個々人いろいろあったとはいえ、生涯未婚を決めたのであればそれはそれで尊重すべきだろう。しかし、後者に関しては、個人の力ではどうにもならない環境の影響が大きいことも事実である。

結婚したい人口の男女差

まず、結婚意欲の男女の年齢による人口差がある。

出生動向基本調査に基づき、「1年以内に結婚したい」と「理想の相手がいたら結婚したい」という層を「結婚したい人口」と分類し、20-34歳までの若年層と35-49歳の中年層とで男女の人口差がどれくらいあるかを見てみよう。

それによれば、若年層では、2000年代以降、結婚したい人口は男女逆転し、いわゆる「結婚したい女余り」状態になっている。これも以前にこちらの記事(→男余りなのに、婚活現場に「男がいない」のはなぜ?【前編】)で書いたように、単純な未婚人口比較では大量に男が余っているのに、婚活の現場では女余りになってしまうことの表れでもある。

34歳までは、男女とも婚姻数がもっとも多い年齢層であり、そのボリュームゾーンでは「結婚したい女性が、結婚に前向きな同年代の男性がいないことによる結婚できない」現象が起きている。反対に、中年層では、圧倒的に「男余り」状態だ。

もちろん、単に頭数が同数ならマッチングするというものではないが、そもそも相手がいなければマッチングなどするはずがないのである。

つまり、年代別結婚したい人口の推移から未婚男女の置かれた環境構造を見ると、「結婚できない若い女」と「結婚できない中年男」という構造が見えてくる。

達成率はどうか?

続いて、これら年代別の「結婚したい人口」が、その後の5年間でどれだけ初婚をしたかという「結婚希望達成率」を算出する。初婚数は5歳階級別の初婚数を人口動態調査より当てはめている。

これによれば、中年男女は、達成率そのものは低いが、結婚したいという希望者に対する達成率は、男女とも90年以降それほど変わらない。

注目したいのは、若年層の推移である。

1990-1994年では、男性でも達成率80%超、女性に至っては、ほぼ100%である。これは、結婚を希望する20-34歳の独身女性は1990年代前半まではほぼ全員が結婚できたということになる。

その後、2005年にかけて大きく減少し、男女ともに6割を切っている。要するに、「結婚したいのにできない」未婚が34歳までに4割も残されていることになるのだ。これこそ、つまり、これは「結婚できない若者」問題でもあり、若者に不本意未婚が4割もいるという実態なのである。

「結婚したくない」や「結婚する必要性を感じない」という「選択的非婚者」は別にして、「結婚したいのにできない」という「不本意未婚者」人口が年々増えてきていること、しかも、それが若者に集中していることは憂慮すべき問題だろう。

隠れ「不本意未婚者」

ちなみに、「選択的非婚」割合は、男女とも40歳以上を機に増加する。20代の頃からずっと非婚だった人ももちろんいるだろうが、40歳までは「結婚したい人口」の一員だった可能性もある。

そこまでの過程で、今後も「結婚する相手が見つからない」「結婚できる経済的余裕がない」あるいは「染みついた生活習慣により、もう結婚する必要性を感じなくなった」ことで、「選択的非婚」への鞍替えをした人もいるだろう。

写真:アフロ

中には、本音ベースでは「結婚したい」のに「結婚できない」という現実に対する認知不協和から、心を安心させるための理屈付けとして「私は本当は結婚なんてしたくないのだ・不要なのだ」と思い込もうとしている人もいるかもしれない。

「選択的非婚」が増えている背景には、若いうちに結婚したいのにできなかった大勢の「不本意未婚」が隠れているともいえる。

皆婚時代とは環境が違う

「男女とも年齢を重ねれば重ねるほどハードモードになるのだから、本当に結婚したいなら、若いうちに結婚しておけ」と言うのは簡単だが、今の高齢既婚者が若いころとは明らかに置かれた環境が違う。

おじさん・おばさんたちが恩恵を受けていたお見合いや職場のお膳立てもなくなり、30年間全然あがらない給料という経済環境の中で、さらにはコロナ禍の行動制限などによって、そもそも出会いの機会すら剥奪されてしまった今の若者たちにとっては、本人のやる気や努力の問題ではないのだ。環境の問題である。

少子化は、根本的には婚姻数減少によるものであることはこの連載上でも何度も指摘している。子育て支援の充実それ自体は否定しないが、現在の少子化対策で婚姻数が回復できるとは到底思わない。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

結婚したいと願っている若者が、若者であるうちに結婚できない。そんな「結婚したいのにできない若者が4割」も存在する状況こそもっと真剣に向き合うべき問題ではないだろうか。

もともとあった若者の「結婚したい」という希望を、若者自身が打ち消して「最初からそんな希望なんてしなかったことにしよう」と無理やり納得させなきゃいけない世の中はどうなんだろう。

写真:アフロ

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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