アメリカ軍の早期警戒衛星がウクライナのカホフカ・ダム決壊直前に爆発を検知
6月6日にロシアと戦争中のウクライナでドニプロ川を堰き止めていたカホフカ水力発電所のダムが決壊した事件について、「アメリカ軍の赤外線探知衛星が決壊直前にダムの位置で爆発を検知していた」とアメリカ紙ニューヨークタイムズが報じています。事実ならば自然崩壊説は消えて、意図的な爆破ということになります。
現在アメリカ軍で稼働中の赤外線探知衛星は弾道ミサイル防衛システム用の早期警戒衛星「DSP」および「SBIRS」があります。本来は弾道ミサイルの発射炎や核爆発を検知する目的の早期警戒衛星です。
アメリカ軍の赤外線早期警戒衛星の種類
- DSP・・・静止軌道。旧式化しているが2030年まで運用予定
- SBIRS-GEO・・・静止軌道
- SBIRS-HEO・・・長楕円軌道。静止軌道から見え難い極地のカバー用
- STSS-D・・・低軌道。2021年9月に試験運用終了、2022年3月8日に廃止
STSS-Dは低軌道での早期警戒衛星の試験機で既に運用を終了していますが、約12年間の試験運用中に2つの旅客機誤射事件で犯人の地対空ミサイルの発射を検知した実績があります。
STSS-Dは2014年の東部ウクライナでのマレーシア航空17便撃墜事件でロシア軍のブーク地対空ミサイルの発射炎を検知し、2020年のイラン首都テヘランでのウクライナ国際航空752便撃墜事件ではイラン革命防衛隊のトール地対空ミサイルの発射炎を検知しました。ただし早期警戒衛星の性能は軍事機密でありデータの開示は行われていません。
今回のカホフカ・ダムの件では具体的にどの種類の赤外線衛星が検知したかは明言されていませんが、おそらく旧型のDSPではなく比較的新型のSBIRSによる検知なのでしょう。本来想定していたミサイルの発射炎や核爆発ではなく通常爆薬の爆発を検知する能力があったことになります。
なお余談ですが比較的新しいSBIRSは早くも後継機の計画が進行中であり、試験運用に終わったSTSS計画は同じコンセプトを小型衛星コンステレーションに発展させたHBTSS計画となって進行中です。
NORSAR(ノルウェー地震計アレイ)による爆発の観測
しかし前述のようにアメリカ軍の早期警戒衛星が赤外線の熱源を探知したといっても軍事機密データの開示はできませんので、これだけでは証拠になりません。ですがヨーロッパ全土の地震を監視するNORSAR(ノルウェー地震計アレイ)が「ウクライナ現地時間6月6日午前2時54分に爆発と見られる現象を検知した」と発表しています。
またこれとは別に当日の現地からの報告にも、この時間帯に爆発があったとする証言が幾つかあります。たとえばロシア側からの報告ですが、現地時間の「午前2時35分にダムで爆発があった」というものです。これはNORSARによる追加分析の「先行した弱い爆発」の発生時間と一致しています。
複数の「ダムで爆発があった」とする報告が積み上がっています。それではダム決壊発生当初のロシア側のノヴァ・カホフカのレオンチェフ市長による「市内は静かで落ち着いている」やロシア国営タス通信の「夜間は静かだった」という関係者の報告は、一体何だったのでしょうか?
ロシア側の主張は現在は「ダムはウクライナ軍によって攻撃された」としていますが、最初期の爆発が無かった(静かだった)とする報告と矛盾しています。ウクライナ側の主張は当初より「ダムはロシア軍によって内部から爆破された」というものです。
どちらにせよ、これで双方ともに自然崩壊ではなく人為的な意図的な爆発だったと主張していることになります。
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