イランの地対空ミサイルによる旅客機撃墜事件
1月11日、イランは民間旅客機ウクライナ航空752便を誤射で撃墜したことを認めました。1月8日に首都テヘランで起きた墜落事故発生当初はイラン当局は撃墜を否定していましたが、数多くの証拠が積み上がり言い逃れはできなくなったのです。
- 1月8日 イランがイラク米軍基地をミサイル攻撃した数時間後、テヘランで旅客機が墜落
- 1月8日 現場付近で見つかった地対空ミサイルの破片の写真がインターネット上にUP
- 1月10日 アメリカが事故当時にミサイル2発の発射を早期警戒衛星で熱源探知したと発表
- 1月10日 旅客機にミサイルが命中する動画がインターネット上にUP。CNNなどにも送付
- 1月11日 イランが旅客機を敵機と勘違いして誤射し撃墜したことを認める
イランがイラク米軍基地をミサイル攻撃し、アメリカの全面反撃を警戒していた最中で起きた誤射でした。アメリカは反撃を行わなかったのでイラン本土には一発も撃っておらず、革命防衛隊の防空部隊が独り相撲を取ったことになります。
- 危機が去るまで民間機の離発着を禁止すべきだったのに怠った
- 自国の空港から飛び上がったばかりの民間機を敵機と誤認したのは何故か
- 防空システムが安全航行帯の設定を行っていなかった?(or設定機能が無かった?)
- 民間機の発する識別信号を誤認してしまったのは何故か
- 他の長距離SAMなどが反応していないのに短距離SAMが交戦を決断したのは何故か
細かいミスの原因は幾つか考えられますが、そもそも危機が去るまで民間機の離発着を当面中止していれば誤射することは無かったでしょう。最大の判断ミスはこれになります。
旅客機を撃墜した地対空ミサイル(SAM)はロシア製の「トールM1」という自走防空システムです。一つの車両で目標捜索から照準誘導まで全て可能なシステムで、使用する迎撃ミサイル「9M331」は最大射程12kmほどの短距離地対空ミサイルになります。最大射高は約6000mで、高高度での巡航に入った旅客機には届きません。本来は野戦部隊を敵の攻撃ヘリコプターなどから守る使い方ですが、今回は首都の拠点防空用として配備されていました。
また14日になって新たに旅客機にミサイル2発が30秒間隔で命中する様子を撮影した動画が出回り始めました。これまでは1発が命中する様子のみの動画が出回っていましたが、これで旅客機撃墜の一部始終が判明したことになります。
地対空ミサイルは目標を確実に撃墜する為に迎撃ミサイルを2発発射するのが通常です。2発発射には複数種類のやり方があり、迎撃ミサイルを直ちに連射する射撃シュート・トゥ・シュート(STS)と、目標に1発目の迎撃ミサイルが命中して破壊できたかどうかを確かめてから2発目の迎撃ミサイルを発射する確認射撃シュート・ルック・シュート(SLS)があります。
【参考】弾道ミサイル防衛「シュート・トゥ・シュートとシュート・ルック・シュート」
30秒間隔で2発ということはSLS射法で射撃されたことになりますが、巡航ミサイルと誤認して咄嗟に迎撃を決断したという証言の割に急いで撃ったSTS射法ではなく、余裕を持った確認が必要なSLS射法だったのは何故なのか、新たに疑問が生じています。