STSS-Dはブークの発射炎を捉えたのか?
戦闘状態に陥っているウクライナ東部の上空でマレーシア航空MH17便が誤射で撃墜された事故について、アメリカは衛星から捉えたミサイルの情報から親ロシア派武装勢力の支配地域から発射された「9K37 ブーク」地対空ミサイルだとして非難しています。これに対しロシアは以下のような反論を行いました。
STSS-Dは静止衛星軌道(高度約3万5千km)を周回する早期警戒衛星とは異なり、低高度の軌道(高度約1300km)を周回する新しいタイプの早期警戒衛星の運用実証試験機です。弾道ミサイルの発射炎を探知する赤外線センサーと、燃焼終了後に飛翔を続ける弾道ミサイルの弾頭部分を宇宙空間を背景にして追尾する赤外線センサーの2種類を搭載しています。
STSS-Dの前者の発射炎を探知する目的の赤外線センサーは、静止衛星軌道を周回する早期警戒衛星よりも低い高度に居る為に、探知能力が高まってると推定できます。後者の追尾用赤外線センサーは温度の低い弾頭部分をより温度の低い宇宙空間を背景にして探知する必要がある為、弾道ミサイルが高く上がってからでないと使用できません。
ロシアはアメリカの早期警戒衛星STSS-Dが現場上空を飛んでいたことを確認したものの、本当にブーク地対空ミサイルの発射炎を捉えたのか疑問視しています。STSS-Dが従来の早期警戒衛星より探知能力が高まっているとはいっても、弾道ミサイルに比べて地対空ミサイルは小さ過ぎて捕捉は困難であると考えています。捕捉が困難であるだけでなく、弾道ミサイル早期警戒という任務の特性上、弾道ミサイルではない小型ミサイルの発射炎は仮に探知したとしてもノイズとして処理し、相手にしないのが普通です。そうでないと膨大な誤探知情報が指揮所に送られて確認作業に忙殺されてしまうことになるからです。
※後の2020年1月11日、イランがテヘラン上空で旅客機を地対空ミサイル「トール」で誤撃墜。この際にアメリカ軍はSTSS-D衛星でトールの発射を探知、地対空ミサイルの発射炎をも識別可能と示しました。
そこでロシアはアメリカに根拠となる衛星データを開示するように求めています。もしも本当に開示されたらアメリカの新型早期警戒衛星の性能の一端が判明して軍事的に高い価値が生じますし、出して来なければ疑わしいと言い続けることが出来るため、どちらに転んでもロシアは一定の成果を得ることが出来ます。今のところ、アメリカは衛星データの開示には全く応じていません。