優勝争いに欠かせないピース!支配下に復帰した阪神タイガース・髙橋遥人が甲子園で「幸せ」と語ったワケ
■支配下に復帰
“我らがはると”が帰ってきた!
阪神タイガースの髙橋遥人投手が7月20日、支配下選手契約を結び、それに伴って背番号も129番から29番に戻った。
2021年11月の左肘クリーニング術、翌22年4月の左肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)、そして昨年6月の左尺骨短縮術および左肩関節鏡視下クリーニング術と立て続けにメスを入れ、昨シーズン終了後には育成選手として契約した髙橋投手。
長きにわたるリハビリを経て今年4月17日、ウエスタン・リーグのオリックス・バファローズ戦(鳴尾浜球場)で復帰登板を果たし、その後も登板を重ねて投げるごとに状態を上げてきた。そして支配下登録の期限となる間際、いよいよ2ケタの背番号を再び手にしたのだ。
「聞いたときは普通に嬉しかったです。でも、ビックリもしたっすけどね。いや、それはするんじゃないですか、急に言われたら(笑)」。
ビックリしたとは…。すでにゲームで何度も好投し、「やはり違うな」というボールを披露しているので、支配下復帰は当然だと思っていた。しかし髙橋投手本人は、7月に入っても「特別に意識はしていない」と気にしないそぶりを見せていた。
「自分の状態がしっかり上がったら、そういうのは勝手についてくると思っていたんで、あんまり意識していないっていうか、意識したらそういうのに…。そういうプレッシャーがある中で結果を出す人は強いと思うんですけど、僕はそんな強くないんで、あんま意識しないようにしていました」。
その真意は、なんとも髙橋投手らしかった。
■ツンデレなお父さん?
この朗報を「最初に伝えたの、誰かな。覚えてないですね」とは言うものの、ご両親にはもちろんすぐに伝えた。
「お母さんには『おめでとう』って言われたけど、お父さんは『よかったんじゃない』みたいな、ちょっと素っ気ない感じで…。お父さん、ちょっとツンデレなところがあるんで。いつも一番聞いてくるくせに、言ったらなんかね…(笑)」。
ご両親もさぞかしホッとされ、喜ばれたことだろう。
■一番きつかったのは…
「一番きつかったのは2021年ですね。一番しんどかったです、圧倒的に」と髙橋投手は振り返る。2021年は9月に復帰し、7試合に登板して4勝を挙げたが、それまでの投げられなかった時期が、精神的に最もしんどかったという。
「たとえば骨が折れたとか外傷的なものだと、よくなっていくっていうのがみるみるわかるんですけど…。何が原因かも、ちょっとわからなかったし」。
先の見えない不安は、髙橋投手を相当苦しめていたのだ。
それを脱して、ようやく復帰した実戦では圧巻のピッチングを見せたが、本人的にはそんなに調子がよかったわけではない。
「でも、投げさせてもらってる以上、調子とかは言ってられないし、しっかり投げられるところは投げられたかな。数試合だったんですけども」。
そしてシーズン後の手術に至った。
■停滞期のつらさ
次のつらさは手術後だった。
「手術をしたら、やっぱちょっとずつよくなっていくし、希望がある。でも、そういう『手術したらよくなる』っていう希望に期待してしまったら、停滞したときにちょっとつらくなる」。
順調に回復してきても、必ず訪れる“停滞期”。島本浩也投手や才木浩人投手ら、ほかの選手もリハビリ中にそういう時期を経験して、表舞台に戻った。いずれまた、上向きになると理解はしていても、「手術したら治ると思っているところに止まる…止まるというか、うまくいかない時期がくるのがきつかった」と、気持ちのコントロールが難しかったことを、沈痛な表情が物語る。
■友だちの存在
そんなとき、人と話すことが最も救いになったという。
「やっぱ仲いい友だちと話すとか、人と話すことがめちゃくちゃ大事だなって思った。話して楽しいときって、そういうのを忘れられたから。やっぱ友だちとか、大事だなと思います」。
学生時代の友だち、またチームメイト、同じ寮生。電話などで野球とは関係ない話をしたり、オンラインでゲームをしたりなど、そういったひとときが前を向かせてくれた。
■「幸せ」と口にした甲子園での登板後
5月4日、甲子園球場で行われたウエスタン・リーグのくふうハヤテベンチャーズ戦に登板したときだ。試合後、髙橋投手が何度か発した「幸せ」という言葉が印象的だった。
「投げられなくなって、投げられることが当たり前じゃなくなったんで、こうして投げられていることは幸せだなと思った。試合が始まったらあんま余裕はなかったけど、投球練習くらいでそれを感じた。投げられない中でも応援してくれてる人とかいて、そういう人たちの前で投げられて、投げられるってすごいことだし、自分の中でよかったなって思える瞬間だったから、そう感じました」。
この日は試合前練習が終わって引き上げるときや、試合直前のベンチ前でのキャッチボールなどで甲子園を感じ、マウンドに上がったときにその幸せを噛みしめたという。
1軍でそれを味わう日も、きっとそう遠くないだろう。
■最強の補強
かつての自身と比べて、現在はどこまで戻ってきているのか。
「どれくらいすかねぇ。6割7割くらいじゃないですか。球速自体、遅いし。自分で投げていてる感じもしっくりきていない…しっくりきていないっていうか、今はこれが僕の実力なんですけど。バッターの反応とかを見ても球速を見ても、コントロールとか全部ですけど、やっぱストレートが今一つっていうか、まだまだですね」。
復帰して以来、ずっと一貫して口にしてきたのは「ストレート」。素人目には「さすが」と唸るような球も、「いや、全然すよ。ほんと全然すもん」とまだまだ納得はいっていない。だがそれが、逆に頼もしい。
「もうちょっと自然に投げられれば。自然にっていうか、手首がやっぱ気になるんで、そこすかね。前とは違う手首なんで、求めすぎるのもよくないですけど、やっぱどうしても『ここかな』って思ってしまうんで。それがあるから、今はまだ変化球で交わしたりとかもあるっていう感じですかね。でも、ちょっとずつよくなっている」。
プレートが残されたままの手首が、気にならないわけはない。前例がないだけに、この先どうなるかは未知だ。ただ、上がってきている手応えは確実にある。
きっとまた、「はるとのストレート」は戻ってくる。
ウエスタン・リーグで10試合に登板し、最長8回、最多103球を投げることもできた。防御率は2.54と安定し、奪三振率10.15と“らしさ”も出ている。
「これ(この手首)で、しっかりできるように頑張りたい」。
そう言って、髙橋投手はきりりと前を向いた。
連覇を目指すタイガースにとって、髙橋遥人が終盤の最強の戦力になってくれるに違いない。
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(撮影はすべて筆者)