「絶対よくなっている」893日ぶり復帰登板の2日後、たしかな手応えを口にした阪神タイガース・髙橋遥人
■復帰登板で得た、たしかな手応え
「ちょっとずつだけど、絶対よくなってるんで、ほんとに。それはめっちゃ実感ある。あともう少しだと思います」。
髙橋遥人投手(阪神タイガース)の口から、こんなにもキッパリ、ハッキリと手応えを聞けたのは、もしかすると術後初めてかもしれない。
これまでも度々、よくなっているということは口にしていた。しかしここまでの強い確信はあっただろうか。
2021年11月の左肘クリーニング術、2022年4月の左肘内側側副靭帯再建術(トミー・ジョン手術)、昨年6月の左尺骨短縮術および左肩関節鏡視下クリーニング術、そしてそれぞれに伴うリハビリ。2021年11月6日のクライマックスシリーズ・ファーストステージ、読売ジャイアンツ戦(甲子園球場)を最後に表舞台から姿を消し、長い長いリハビリ生活が続いた。
そしてようやく、髙橋投手はマウンドに帰ってきた。4月17日のウエスタン・リーグ、オリックス・バファローズ戦(鳴尾浜球場)での先発は、実に893日ぶりの実戦登板だった。
「緊張した、緊張したっす。めっちゃ緊張したっすね。シート(での登板)もけっこう緊張したし、久々になんかこの試合前に緊張するとか、そんな感じだったっす、ほんとに」。
何度も「緊張」というワードを繰り返し、復帰後初登板の心境を振り返る。
「やっぱ、ずっとこういうプレッシャーとかある中で投げてる人たち、すごいなってめっちゃ思ったっす」。かつては1軍でバリバリ投げていた投手なのに、まるでルーキーの初登板かのように初々しいことを口にする。「いや、しばらくやってなかったので、やっぱみんなすごいなと思って」と、あまりにも長いブランクから、そんな素直な感想がこぼれたようだ。
しかし「あ、でも僕、1軍でもめっちゃ緊張してたっす(笑)」とも付け加えるところが、髙橋投手らしい。
■関わるすべての人に感謝
まっさらなマウンドに上がり、1イニングを1安打、無失点。最速は147キロをマークした。
「とりあえず0で帰ってこられた。投げてみたら、意外に久々感はなかったし、ランナーが出てからもストライク先行でいけたので、マウンドで投げられたことはすごく嬉しかった」。
チームメイトはじめ、さまざまな人たちが気にかけてくれていたことにも感激した。
そんな人々に感謝の気持ちを言葉にする。
「こうやって試合に戻ってこられたのは、やっぱり手術させてくれた球団もそうだし、ずっと治療してくれているトレーナーの方、理学療法士の方、みなさんのおかげ。それがなければ、今こうやって投げられていない。気持ちの部分で落ちるときも、そういうところも気にかけてくれたりしていたんで。選手からの何気ないひとことも嬉しかったし。あとは、応援してくれている人に『投げる姿を見せられるように』という思いで頑張れた。そこがなきゃ頑張れなかったと思うんで、そういうのが大きかったですかね」。
チームメイトの言葉や、ずっと変わらず応援してくれるファンの声も力になった。
復帰に至るまでの間、“支え”になったことは多々あった。いや、ありすぎた。「(リハビリ期間が)長すぎて、もう“どれが”っていうのは…(笑)」と言い、「まだまだですけど、ここまでこれたのは感謝です」と関わる人々への思いを明かしていた。
■“ラスボス”を攻略
左肘のクリーニング術のあとも、トミー・ジョン手術のあとも、ブルペンでのピッチングまでは復帰していた。だが、肘を痛めるより前から悩まされていた左手首の痛みによって、再びブルペンから遠ざかった。しかし昨年6月に左肩のクリーニング術とともに受けた左手首の手術で、ようやく“ラスボス”を攻略することができた。
術後からよく見てきた右手で左手首をほぐす仕草は今なお続いているが、その硬さもかなり良化し、可動域も戻りつつある。手首を痛めてからは投げられなかった右打者のアウトコース、左打者のインコースも投げられるよう徐々に復活してきた。(手首についての詳細記事⇒髙橋遥人(阪神タイガース)、3ケタの背番号「129」からの再起)
「感覚的にはまだまだです。もう少し(手首の)動きがよくなってくれば、ボールも変わってくると思う。硬さもまだあるんで、それがよくなっていけば、もっと上がってくるのかなと思います。可動域もちょっとずつ戻ってきてるし、それがもう少し投げるほうにつながってくればなっていう感じ。腕に左右されてフォームがちょっとアレだなっていうところはあるけど、どうすればいいボールがいくかなっていうのはわかっているつもりではあるんで、もう少し動いてきてくれたら」。
バロメーターとなるのはストレート。「ストレートがよくなればいいかなって思います」と今後、手首の硬さがなくなり、ストレートの球威や質、キレが上がってくるであろう手応えに頬も緩む。
■“本来の髙橋遥人”に
長いリハビリだった。進んでは後退し、また進んでは足踏みし、ボールを握れない日々も続いた。その間、気持ちの浮き沈みも何度もあった。それでも前を向き、歩を進めてきた。
「頑張った?いや、頑張ったっていうか、僕、頑張らせてもらったっす」。
髙橋投手は、あくまでも謙虚に語る。
試合に投げられるところまではきた。実戦登板後の状態も良好だ。これまでのピッチングや2回のシート登板後と変わらず、異変は何もないという。
まだまだ“本来の髙橋遥人”ではない。こんなものではないことは誰もが知っているし、なにより髙橋投手本人が一番わかっていることだ。これから登板を重ねるごとに、“本来の髙橋遥人”に近づいていくのだろう。
そんな確信が得られた、893日ぶりの復帰登板だった。
(撮影は筆者)
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