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堅い緒方采配と柔軟な栗山采配の“内弁慶シリーズ”──2016年日本シリーズ5戦目までを振り返る

松谷創一郎ジャーナリスト
試合前、子供たちから花束を緒方監督と栗山監督(筆者友人撮影)

勝ちきれなかったカープ

2勝2敗で迎えた日本シリーズ第5戦は、日本ハムファイターズが西川遥輝の劇的な満塁サヨナラホームランで勝利し、日本一に王手をかけた。一方、広島カープは札幌で3連敗を喫し、窮地に追い込まれた。

ここまでを簡単に振り返ってみると、広島での2試合はカープが完勝、札幌での3試合はファイターズが粘り強さを見せてすべて逆転勝ちした。ここまでホームチームがすべて勝っており、完全に“内弁慶シリーズ”となっている。

とくにファイターズの粘りは、ファンの声援に後押しされてのものだろう。3試合ともカープに1点リードされた状況から追いつき、最後にはひっくり返した。投手陣も、第5戦に先発した加藤を除けば好投しており、とくに中継ぎ陣は3試合で1点しか取られていない。

一方カープは、先発投手陣は好投を続けているものの、僅差のリードを守りきれず、シーズン中は盤石だったリリーフ陣が打たれて3試合を落とした。また札幌では打線もかなり湿りがちだ。3試合で得点は5つ。うちひとつはエラーによるものなので、実質的には4点しか取れていない。

試合の序盤はカープが優位に進め、終盤にファイターズが追いつきひっくり返すという3試合だった。

連投が響くカープの中継ぎ

3~5戦目を観ていると、紙一重の展開ではあるが、1~2戦の采配がここに来て響いているのかな、という印象はある。それはカープの中継ぎが打ち込まれているところから強く感じる。

なかでも今村とジャクソンは5連投だ。今村は第2戦で4点差の場面で、ジャクソンは1・2戦ともに4点差で登板した。シリーズを経験するために第1戦で投げさせることは考えられるが、第2戦は確実な作戦として登板させた印象がある。

これはシーズン中も同様だった。4点差ではホールドポイントもセーブポイントも付かないが、緒方監督と畝コーチはしばしばこの勝ち継投をしてきた。ただ、これが可能だったのは、今年のカープは点差をつけて勝ち切る試合が多かったからだ。つまり、接戦が少なかった。巨人よりも18勝多い89勝で圧倒的な優勝をしても、セーブ王が中崎(34S)ではなく巨人の沢村(37S)だったのもこのためだ。

シーズンに目を戻せば、今村もジャクソンも4連投が最多。シリーズでは1日移動日があったとは言え、5連投は今年はじめてだ。また3日続けての登板は、シーズンで今村が3回、ジャクソンが2回しかない。しかし、今村はそのうち2回で失点しており、ジャクソンは1回失敗している。このふたりが3日続けて登板した場合、ともに3試合すべて無失点に抑える確率は、約16.7%にしか過ぎない(1/3×1/2)。今村が第5戦で失点したのは、確率的には十分ありうることだった。

もちろん、3試合ともリードしていたので、勝ち投手の継投を使うことは理解できる。しかし、だったらなんのためにヘーゲンズを中継ぎ待機させているのかということになる。シーズン中盤まで7回を任されていたヘーゲンズは、その後先発にまわりしっかりと結果を出してきた。シリーズでは4人で先発を回すことを決め、わざわざ中継ぎに戻したのにもかかわらず、結局登板したのは第3戦で黒田が緊急登板したときの1回のみだ。これでは、なんのために中継ぎに戻したのかわからない。

西川にサヨナラホームランを打たれた中崎にかんしては、あまり責められない。もちろん内野安打など不運もあったが、中崎が失点したのは8月5日以来のこと。3ヶ月ぶりに点を取られたのだ。

堅い緒方采配、柔軟な栗山采配

ここまでの5戦を振り返ると、やはり監督の経験で差が出ているな、という印象もある。

カープの緒方監督はシーズン中と同じ戦い方にこだわっているのに対し、ファイターズの栗山監督は短期決戦だと割り切って戦っている。緒方監督は堅くなっており、栗山監督は柔軟だ。加えて、緒方監督は第3・4戦では、守備固めやDH解除など不安定な采配も見受けられた(第3戦第4戦の各戦評を参照)。

栗山監督は、西川が不調だと見ると1番に岡を入れて、西川を2番に回した。西川は6月以降、多くの試合で先頭打者を務めており、打率はリーグ2位、出塁率でも4位の成績だ。また、陽岱鋼が不調なのも見極め、第3戦以降はスタメンから外している。さらに第5戦では、ルーキーの加藤が打ち込まれるやいなや、2回1アウトの段階でメンドーサに代えた。おそらくメンドーサは試合当初から待機していたと思うが、非常に思い切った采配だ。さらに、第5戦ではキャッチャーも市川に代えてきた。非常にフレキシブルな対応をしている。

それに比べて緒方監督の采配は、あまり工夫がない。第1戦でのダブルスチールや第2戦でのバスターはカープらしかったが、それ以降はぱったりと戦術面で際立った采配は見られない。第5戦でも、同点の9回表2アウト2塁の場面で石原を打席に立たせた。それまでの石原は、17打席14打数0安打3四球だった。代打には松山が控えていた。捕手は會澤と磯村もベンチ入りしている。しかし、その後の守備を考えて守りに入ってしまった。采配ミスというほどではないが、消極的だ。

こうしたことを見ていると、本拠地の大応援を背にしているのは、選手だけでなく監督も大きいのだと思わされる。とくに緒方監督が4・5戦で守りに入りすぎているところがそうだ。

黒田と大谷の対決なるか

さて、広島に舞台を移しておこなわれる第6戦は、カープ・野村、ファイターズ・増井の先発が発表された。“内弁慶シリーズ”であることを考えると、カープに再び勢いが戻ることが考えられる。今シーズンのカープは、マツダスタジアムでは49勝20敗1分・勝率.710と圧倒的な強さを見せている。

大谷翔平は札幌での3試合にDHでフル出場したので、おそらく第7戦の先発が有力だ(第5戦で少し足をひねったという情報もある)。よってカープが第6戦に勝てば、第7戦で黒田博樹と大谷翔平の投げ合いが見られる可能性が高まってきた。

この試合を最後に引退する黒田と、日本球界で最高の投手(兼打者)である大谷──この戦いは、野球ファンなら誰もが注目せずにはいられない。カープファンのひとりとしても、もちろんその対決を観てみたい。黒田には素晴らしい花道を飾って欲しいが、もし負けても大谷なら諦めもつくだろう。歴史に残る一戦のために、カープには第6戦は是非勝ってほしい。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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