日本シリーズの観客は10%以上が転売購入?──シーズンよりも少ない入場者数の背景にある高額転売問題
シーズン中よりも少ない入場者数
ついに始まった、広島カープと日本ハムファイターズの日本シリーズ。広島の本拠地マツダスタジアムでの2戦目までが終わり、広島の連勝スタートとなりました。
この両日、25年ぶりのリーグ優勝、32年ぶりの日本一を狙うカープを応援するために、マツダスタジアムの客席は真っ赤に染まりました。冷たい秋風のなか、3万人を超す観客が押し寄せたのです。その入場者数は1戦目が3万619人、2戦目が3万638人。平均では3万629人です。
しかしその数字は、マツダスタジアムでは、決して「超満員」と呼べるほどではありません。今年70試合が行われたマツダスタジアムのカープのリーグ戦において、もっとも入場者が多かったのは、優勝マジック2で臨んだ9月8日の3万2546人だからです。
たしかにシーズンの平均入場者数は3万438人でした。ただし、入場者数が2万5000人を下回ったのは、シーズン序盤である4月の3試合のみ。中央値(※1)では、3万1387人となります。マツダスタジアムの公式定員は3万3000人なので、ほとんどの試合で90%以上の動員を記録してたことになります。
実際、今シーズンは夏頃すでにチケットが3週間前には完売している状況でした。クライマックスシリーズ(CS)でも、当然のようにその勢いは落ちませんでした。4試合の平均は3万1286人と、シーズンと同じほどの大入りを続けました。
それを踏まえると、日本シリーズの観客数が明らかに少ないことがわかります。1・2戦の平均入場者数は、シーズン平均よりは129人多いものの、中央値よりも758人少なく、最多動員からは1917人も少ないのです。90%以上客席は埋まっているものの、超満員ではありません。
もちろん、シーズンと違って日本シリーズはNPB(日本プロ野球機構)が興行を主催しますので、入場者数のカウント方式も異なる可能性もあります。また、スポンサーなど関係者用のチケットが多く配られた可能性もあります。
しかし、テレビ中継でも若干ではあるが空席が確認ほど客席は埋まっていませんでした。どうもおかしいのです。
日本シリーズ入場者の10~15%が転売利用者
その理由のひとつとして考えられるのは、やはり一部のチケットが使われないままになっていることです。そして、その原因として考えられるのはやはり高額転売です。
ミクシィ社の100%子会社であるフンザが運営するオークションサイト「チケットキャンプ」では、第2戦目終了時点で日本シリーズのチケットが2万7520件の取引が終了しており、さらに991件の出品があります。また、Yahoo! JAPANが運営する「ヤフオク!」でも、6753件の出品があります(ともに10月24日午前4時現在)。
これらから推測すると、少なく見積もっても3~4万枚のチケットがオークションサイトで売買されたことが推測されます(※2)。
今年の日本シリーズは、広島の本拠地であるマツダスタジアムで4試合、日本ハムの本拠地である札幌ドームで3試合、計7試合が予定されています。両球場のシーズン最多入場者数で7試合の総入場者数を計算すると、25万3598人となります(※3)。これが実質的なキャパシティです。
そのなかの少なくとも3~4万人、つまり10~15%ほどがオークションで取引されたことになります(実際はもっと多い可能性があります)。プレミアチケットにおいて転売が横行するのはいまに始まったことではありませんが、約25万人を動員する大きなイベントで10%以上が転売というのは、かなり異常な事態ではないでしょうか。
一方で、公式販売におけるチケット入手は困難を極めました。カープファンの筆者も、今回マツダスタジアムのチケットを入手するためにすべての手を尽くしました。まず13日から15日までの先行抽選販売では、複数のチケットサイトで可能なかぎりの数をネットで申し込みました。しかし、すべて外れに終わりました。
次に27日の一般販売でも、開始時間にパソコンに張り付き、複数のチケットサイトから申し込もうとしました。しかし、これもダメでした。チケット種別を選択できるところには行けても、購入画面には混雑して行けなかったのです。そして結局チケットは3分ほどで完売。翌28日の他のチケットサイトでも同様でした。
しぶしぶオークションサイトを覗くと、そこでは外野指定席でも5万円ほどになっています。もはや諦めるほかありません。友人のカープファンからも同様の声は、多く聞かれました。なお、29日の第6戦では、24日未明の段階で最高はゲートブリッジ(内野2階の6人席)の1枚24万円と高騰しています。これではさすがに買えないひとも出てきます。
公式販売でチケットサイトが混雑していたのは、おそらくその多くが転売屋の仕業だと考えられます。複数のコンピュータとアカウントを駆使して、自動でチケットを入手している彼らに対し、人力では敵うはずもありません。
また、筆者は先行抽選販売で友人2名と連携して可能なだけ必要分を申し込みました。2人とも筆者が行く日の分は外れましたが、うち1人は他の友人が当選し、もう1人は筆者とは別日のチケットが1枚当たりました。倍率がどのくらいかはわかりませんが、彼らはかなりラッキーなほうです。他の友人のカープファンの多くは、抽選には外れてしまったようだからです。
転売は、その多くはそれを生業とする転売屋の問題ですが、抽選販売のような方法では、重複して当選したひとが転売するケースもそれなりにあると考えられます。宝くじでは、多くのひとが協力してお金を出し合い多くの枚数を買い、当たった金額を分け合う手法があります。それと同様に、かなり広いネットワークを持つファンが協力して抽選に申し込むのです(3人のわれわれは弱小のネットワークです)。
このとき仲間が多ければ多いほど、必要分以上にチケットが当たることもあるでしょう。おそらくそういうひとたちも、余った分のチケットを転売している可能性があります。仲間の分はすでに入手しているので、残りは処分するしかないのです。一般ファンのこうした行為はもちろん良いとは言えませんが、抽選という販売方法である以上は、防ぎようのないことでもあります。
手詰まり感のある解決策
チケット転売の高額化は、プロ野球に限らずコンサートなどではかねてから問題視されてきました。今年の8月には、多くのアーティストや業界団体が新聞などに大きく意見広告を打つことでも注目されました。「私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に 反対します」と強く主張されたのです。
この声明に賛同したのは、安室奈美恵や嵐、ゴールデンボンバー、坂本龍一、サザンオールスターズ、東方神起などアーティスト173組、「a-nation」や「FUJI ROCK FESTIVAL」など29イベント、日本音楽事業者協会など4団体です。さまざまな芸能プロダクションに所属するアーティストが名前を出し、さらに音事協の名もあるということは、芸能界全体が転売を問題視していることを意味します。
こうした問題は、ITが一般にも広く浸透した時代だからこそ生じている現象です。ダフ屋や転売屋でなくとも、当たり前のように転売できる時代だからです。
この問題は、つい先日放送されたNHKの『クローズアップ現代+』でも取り上げられました。
そこでも指摘されたように、簡単に片付かない問題が多いのです。そもそもチケットの転売は、むかしから街角にチケット屋があるように古物営業の許可があれば可能です。法でそれを規制することは、従来の古物営業者全体への影響が生じます。
番組内では、ジャーナリストの津田大介氏が、ひとつの方策としてチケット価格に弾力性を持たせることを提案しました。結局ところ転売による高額化とは、自由市場で生じている受容と供給の結果だからです。
実際、今回の日本シリーズでは、マツダスタジアムの場合もっとも高額なチケットでも内野SS指定席と内野砂かぶり席の公式価格は9800円でした。筆者が入手しようとしていたのも、このSS席のチケットです。安くはないですが、同じ1階席のA指定席が7800円であることを考えれば、2000円しか変わりません。現実的には、SS指定席は1万5000円でも簡単に売り切ることは出来たでしょう。
もちろん、チケット価格の弾力化が必ずしも正解だとは言えません。公式な高額化によって、売上が転売屋ではなく主催者に入ることにはなりますが、そうなると今度は裕福でないひとや若年層が圧倒的に不利になるからです。エンタテインメントにおいて若年層を取り逃がすことは、中長期的には致命的なダメージに繋がります。
現在、この解決策としてもっとも効果的なのは、やはりスマートフォンを使った入場時の本人確認です。ただ、これもスマートフォンを所有していることが条件であり、プロ野球のように高齢者のファンも多いイベントではハードルが高くなります。こうしたことを考えると、もはや法規制をするしかない──と、解決策は堂々巡りになります。
『クローズアップ現代+』でもこの3点を提示して番組は終わりましたが、この問題には手詰まり感がどうしてもつきまとってしまいます。
新たな複雑性をいかに縮減するか
現在のネット転売とは、ITが一般にも広く浸透したことによって生じています。つまりそれは、ITによる情報と経済の合理化がもたらした帰結です。ただし、そこにエラーがあるからこそ、高額転売の問題も生じているのです。となれば、まずはITの段階でそのエラーを潰すことが必要でしょう。
そこでは、たとえば以下のようなアイディアが考えられます。
人気チケットを入手するために、転売屋は多くのアカウントやクレジットカードを準備し、パソコンから自動でチケットを入手するプログラミングを使っているはずです。よって、まずこのチケット入手の段階で、身分証明書でひとり1アカウントという本人確認をすることや、あるいは同一IPからの複数アカウントでのアクセスを無効化する策が求められます。実際、既にこれらの対策に取り組んでいるところもあるでしょう。
前述したスマートフォンによる本人確認も、ITによって生じたエラーをITで解決する有効な策のひとつではあります。しかし、それはチケット入手時の問題をイベント入場時に処理しようとするもので、問題の根本を直接的に解決できているわけではありません。まずはチケット販売の段階で、ITレベルのより直接的な対処が望まれます。
過去を振り返れば、IT化によって(現実空間から)駆逐されたのはダフ屋の存在でした。むかしは、イベント会場でガラの悪いおじさんが、「あるなら買うよ、ないなら売るよ」と行き交うひとに声をかけるのは恒例の光景でした。ダフ屋は警察による取締りもあって消え去りましたが、結局はネット空間にビジネスの場を変えたのです。そしておそらく、昔よりもその市場規模は大きくなっています。
IT化によって、イベントのチケット入手は昔よりも大きくハードルが下がりました。音楽フェスをはじめ、各種イベントが00年代以降に動員を大きく増やしているのは、このことも関係しているでしょう。しかし、そのIT化に簡便さが今度はべつの問題を生じさせているのです。
つまりそれは、IT以前のチケット入手の複雑性(面倒臭さ)は縮減されたものの、今度は新たな複雑性(チケット販売への殺到)が高まっている状況です。中長期的にはイタチごっこかもしれませんが、現在はこの新たな複雑性が極めて高まり、それを縮減することが必要な段階に来ています。しかし、そこで抜本的な解決策を導けない状況です。
となると、現在もっとも必要なことは、プロスポーツや音楽の業界団体が個別に対処するだけでなく、オークションサイトやチケット販売システム開発会社、そして国が、ともに協力して問題に対処するほかないでしょう。もはやこの問題は、確実にその段階へ歩を進めています。
※1……入場者の多い順に試合を並べたときに、もっとも中央にある試合の入場者数の値。この場合は偶数の70試合なので、35試合目と36試合目の平均値が中央値となる。
※2……マツダスタジアムでの試合では、隣接するコストコの駐車場のチケットも売り出されていたが、入場券では1件あたり複数枚のチケットが売買されている可能性が高く、4~5万人分のチケットが取引された可能性もある。
※3……シーズン最多入場者は、マツダスタジアムが3万2546人、札幌ドームが4万1138人。よって、32,546×4+41,138×3=253,598となる。