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日本シリーズで連勝スタートを切ったカープの強さ──2016年日本シリーズ1・2戦を振り返る

松谷創一郎ジャーナリスト
2016年9月7日、マツダスタジアムでカープを応援するファン(筆者撮影)

小窪スタメンが的中!

10月22日から広島・マツダスタジアムで始まったSMBC日本シリーズ2016。いきなり広島カープは連勝という幸先のいいスタートを切った。しかも、2試合ともほぼ完璧な試合運びだった。大谷翔平を攻略した初戦も見事だったが、第2戦でもファイターズにその強さを見せつけたのだ。

2回裏の先制タイムリーは、右投手の増井浩俊であるにもかかわらずスタメンに起用された小窪哲也の2塁打だった。今シーズンのカープは、右投手が先発の場合には左打ちの安部友裕がサードでスタメンのケースが多かったので、非常に異例のことだ。これは、増井が左よりも右バッターに打たれているデータを参照したことと、緒方監督がインタビューでも話していたように打撃コーチ陣からのアドバイスがあったからだという。それがズバリ的中した。

追加点となった6回裏の菊池涼介のバスターによるタイムリーは、田中広輔のホームへの突入もなんとかビデオ判定でセーフとなった。テレビ各局の複数のカメラで確認したが、捕球直後の捕手・大野奨太の腕が田中のヘルメットにぶつかってはいるが、グローブではタッチしていない。確実なセーフだった。

増井にとっては、このビデオ判定で3分ほど待たされたのが地味に効いた。試合再開後に、丸佳浩はいきなりセーフティバントを敢行。試合後の緒方監督のインタビューから推察するに、これは進塁打のサインで丸自身が採ったアイディアだったようだ。増井はこれを一塁にひどい悪送球。エラーを誘って追加点をもぎ取り、増井も降板することになった。

とどめは、バッテリーエラーからの鈴木誠也の犠牲フライ。ここで終わりかと思いきや、バッテリーが外角高めに外した球をエルドレッドがジャスミート! 完璧なホームランだった。

結局試合は、野村祐輔が相手をエラーの1点に抑えて6回2安打ピッチング。後続の今村・ジャクソン・中崎もランナーは出したものの、完璧に抑えた。

そのなかで特に盛り上がったシーンは、9回表1アウト1・2塁での代打・大谷のシーンだろう。ホームランが出れば1点差だ。カープファンとしては「抑えてくれ!」と願うばかりだったが、野球ファンとしては「最高の勝負到来!」という感じだ。大谷を毎日観られるというのは、野球ファンなら誰もが願うことだ。

中崎は大谷のインコースに見事なストレートを投げて空振り三振に打ち取った。大谷も窮屈そうではあるがフルスイングした。素晴らしい対決だった。

やはり機能した“タナキクマル”

カープの試合内容は、2戦ともほぼ完璧だった。

もちろんそれは、投手陣がほぼ完璧にファイターズ打線を抑えたからでもあるが(18回で自責点1)、1戦目の先取点を重盗で決めたり、2戦目の勝ち越し点をバスターで決めたりと、成功率が必ずしも高くない作戦(ただし状況的にリスクもそれほど高くない)でもぎ取ったのが大きい。1戦目、大谷は重盗でリズムを崩した。

それだけでなく、しっかりと“タナキクマル”こと田中・菊池・丸の1~3番が機能しているのも大きい。1戦目は田中の2塁打から決定的な追加点、2戦目も田中の2塁打から菊池のバスターと丸のエラーを誘うセーフティバントと、決定的な仕事をしている。

これだけで勝っていれば「カープの伝統、機動力野球」などと書かれて終わりだが、1戦目で松山とエルドレッドが追加点となるホームラン、2戦目もエルドレッドが不用意なウエストボールをレフト上段に運んだ。

80年代の全盛期も高橋慶彦を中心とした機動力はあったが、ライトル・山本浩二・衣笠・水谷と長打もしっかりしていたのがカープだ。それを思い起こさせる今シーズンのバランスの良さが、日本シリーズでもしっかり発揮されている。

リードが光る石原

ファイターズと比較すると、やはりキャッチャーのリードや守備でかなり差があるという印象を受ける。大谷も増井もいい球を投げており、カープもふたりを完全に打ち崩したという印象もない。大きな差があったとしたら、やはりキャッチャーだろう。

2戦とも審判は辛めのジャッジだったが、石原はシーズン同様にインとアウトを上手く使ってストライクゾーンを拡張していた。2戦目で、野村祐輔が4回くらいから低めを取ってもらえるようになっていたのはそのためだ。

対して大野は、1戦目に大谷のストレートが走ってないと見るとスライダーを多投させ、2戦目も増井のフォークが抜けると見るとカットボールを多投させた。広島のジョンソンや野村ほど球種が多くないとは言え、非常にリードが単調だった。

また、1戦目の重盗確認のサインを大谷がしっかりと確認していなかったことや、2戦目で交代したばかりの鍵谷の初球を大野が後ろにそらしたこと(記録は暴投)など、細かいところでもキャッチャーに差があった。鈴木誠也の犠牲フライによる追加点は、暴投によって生まれたものだ。

さらに、その次の打者であるエルドレッドのホームランは、追い込んだ後にアウトコース高めに外したボールを要求して生じた。鍵谷はちゃんと大野が構えたところに投げたが、それがエルドレッドにとっては絶好球だった。長身のエルドレッドには、もっと高めでかつアウトコースでないと、ウエストしたことにはならなかったのだ。これは凡ミス以外のなにものでもない。

長打率に大きな差

カープにとっては非常に順調な滑り出しだが、そのなかで気がかりがあるとすれば、シーズン中は打線の軸となってきた鈴木誠也と新井の活躍がまだ見られないことだろう。

ただ、鈴木はまだヒットが出ていないものの8打席で3四球1犠飛(4打数ノーヒット)と、地味に貢献はしている。打ち急いでいる様子はなく、後ろに繋ぐ意識は保てている。センターへの犠牲フライもフェンス手前まで飛んでいる。そろそろ爆発しそうな気配がある。

出場機会が初戦の代打(四球)と守備固めしかなかった新井については、3~5戦はDHを使えるのでおそらく出場するだろう。そのときは、新井・鈴木・エルドレッド・松山という重量打線の並びが見られるだろう。しかも3戦目に投げるのは、この日本シリーズを最後に引退する黒田なので、新井がひと一倍発奮するのは間違いない。

一方ファイターズは、ジョンソンと野村、そして石原に完全にやられたという印象だ。初戦は10本のヒットが出ているものの、チャンスではジョンソンにしっかりと抑えられた。とくに中田が簡単に切ってとられていたのは大きい。4安打に終わった2戦目は、手も足も出ないという印象だった。ヒット数は2試合を終わってカープと同じ14本だが、ボテボテの内野安打など、打ち取られたあたりも少なくない。

カープと比べると、なにより少ないのは長打だ。2塁打が2本に、ホームランが1本のみ。カープは14本中2塁打が4本にホームランが3本と、ヒットの半分が長打だ。長打率は、カープの.482に対し、ファイターズの.288と大きな差がついている。これがハッキリと得点に結びついている。

カープは中5日にするか

札幌に移動してからは、黒田×有原、岡田×高梨、ヘーゲンズor福井or薮田×加藤というマッチアップになると予想される。当初カープは4人の投手を中4日で回すことを予定していたようだが、初戦でジョンソンが123球を投げ、しかも連勝もできたので、それを回避する可能性が出てきた。もちろん予定どおり中4日を維持する可能性もある。だが札幌で最低1勝すれば、第6戦で休養十分のジョンソンに中6日で繋げられる。連勝したことによって、余裕のある戦い方が計算できるようになった。

カープが圧倒的に有利な状況で戦いの場を札幌に移す3戦目からは、ファイターズは大谷翔平をDHで起用すると予想される。もしかしたらプロ最終登板になるかもしれない黒田と雪辱を果たしたい大谷の20歳差対決、黒田のために燃える新井のがむしゃらプレイ、カープがドラ1の抽選を外した広島出身・有原航平とその外れ1位でカープに入団した野間峻祥の対決、中継ぎに回っている吉川光夫と右の代打で登場する可能性が高い眠れる大砲・堂林翔太の対決等々、想像するだけで札幌での闘いは楽しみである。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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