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カープが“変なグッズ”を出す理由――もみじ饅頭キャップや特大メガホンなど奇妙なグッズが大人気!

松谷創一郎ジャーナリスト
けん玉、目覚まし時計、スマホケース、貯金箱、イス、長靴などさまざまなカープグッズ

黒田復帰に湧くカープ

プロ野球の開幕まで一ヶ月を切ったなか、広島東洋カープがとても盛り上がっている。もちろんそれは、メジャーリーグで活躍していた黒田博樹投手が8年ぶりに復帰したから。先日のオープン戦でも、驚くほどの快投を見せたことは記憶に新しい。黒田に加えてエースの前田健太に2年目の大瀬良大地と盤石の先発陣を擁するカープは、セ・リーグの優勝候補筆頭に挙げられている。

そんなカープで近年脚光を浴びたのはカープ女子だが、最近ではグッズにも注目が集まっている。各球団、応援ユニフォームをはじめさまざまなアクセリーや日用品などのグッズを販売しているが、カープは他球団とは異なる独自の商品展開をしている。

一球の重みTシャツ/2,500円・売り切れ(限定商品)
一球の重みTシャツ/2,500円・売り切れ(限定商品)

なかでももっとも話題となるのは、迅速に売り出される限定Tシャツだ。昨年は、4月に「大瀬良大地初勝利記念Tシャツ」、9月に「ロサリオサイクルヒット達成記念Tシャツ」などが発売された。それぞれ試合から1日半後というスピードだった。

今回の黒田復帰もその例に漏れない。アメリカでの自主トレーニングの際に黒田が語った、「カープで野球をする方が一球の重みを感じられるんじゃないかと思った」という言葉を受け、「一球の重みTシャツ」が2月に3日間限定で販売された。それは、過去の限定Tシャツとは比較にならないほどの売上となったそうだ。

ファン目線だからこそのグッズ

もちろん限定品以外にもさまざまなグッズが販売されており、その人気は抜群だ。昨年、『カープ女子――うえむらちか&広島東洋カープ 2014年の軌跡』(アスキー・メディアワークス)を上梓した女優・作家のうえむらちかさんも、カープグッズの魅力をこのように語る。

『カープ女子――うえむらちか&広島東洋カープ 2014年の軌跡』(2014年)
『カープ女子――うえむらちか&広島東洋カープ 2014年の軌跡』(2014年)

「応援グッズはもちろんのこと、普段から使えるポーチや定期入れ、スマホケース、ハンカチ、筆記用具などなど、身の回りのものをカープグッズで揃えられるので、球場を離れていてもずっとカープを応援しているような気持ちになれるんです。そして、野球を知らない人が見ても『可愛いね』と言ってもらえるデザインが多いのも、カープグッズの魅力ではないでしょうか」

他球団のグッズとどのように違うのかも気になるところ。そこで、毎年プロ野球12球団の全球場をめぐっている構成作家のチャッピー加藤さんに、その特徴について尋ねてみた。

「カープは、12球団で群を抜いていますよ。品揃えも豊かだし、デザインもイラストもいい。特徴は、ユーザー目線で作っている商品が多いことでしょうか。真っ赤なスリッパなどの日用品から、アクセサリーやカープ女子向けのネイルシールなど、他チームのファンでも欲しくなるグッズがたくさんあります。新顔の選手が活躍するとシーズン中でもグッズを新発売する機動力も、ほかにはない強みです」

また、本拠地のMazda Zoom-Zoom スタジアム広島(通称・ズムスタ)には、大きなグッズショップがある。ボールパークを目指したこの球場は、試合が始まる何時間も前から観客が入場し、球場そのものをゆっくりと楽しんでいる。いわばグッズ売り場で買い物をすることも、野球観戦の一部なのだ。チャッピーさんは、こうした球場のあり方とグッズ販売も大きく関係していると話す。

マツダスタジアム内のグッズ売り場(2014年8月22日撮影)
マツダスタジアム内のグッズ売り場(2014年8月22日撮影)

「ズムスタのグッズショップは、12球団で3本の指に入る充実度です。売り場面積が広いこともさることながら、ユニフォームからベビー用品、扇子、ふりかけ、温泉の素などバラエティに富んでいて、毎年『今年はそうきたか!』と唸らされるグッズが必ずある。『おっ、マエケン体操の図解入り手ぬぐいがある!』といった感じで、つい何か買ってしまうんですよ。グッズショップだけでここまで楽しめる球場はなかなかありませんし、そこもエンタテイメントのひとつなんですね」

変すぎるぞカープグッズ!

カープグッズには、他球団と異なるもうひとつの魅力がある。それは、“変なグッズ”が目立つことだ。よく言えば遊び心に溢れているグッズだが、中にはとても奇妙なものもある。ここではそんな“変なグッズ”を5つご紹介しよう。

・カープ3色ボールペン 赤・赤・赤(500円)

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普通の3色ボールペンは黒・青・赤だが、カープの場合は赤・赤・赤! 公式サイトの売り文句は「『赤色が足りない!』『もっと赤色使いたい!』とお悩みの方へ♪」とあるが、そんなことで悩んでいるひとはいるのだろうか……。ペンの太さは0.5mm・0.7mm・1.0mmと一応分けられているので、学校の先生にはいいかも?

【カープ3色ボールペン】

・勝ち星梅干しバッグ(4,000円・限定品)

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遠目に見るとえんじ色の柄ものトートバッグだが、よく見るとそれが全部梅干し! さらに隅には、おにぎりもプリントされている。カープと梅干しに強い関係はないはずだが、チームカラーと同じ赤なのでこうなったのか?

・もみじ饅頭キャップ(5,500円)

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広島土産として喜ばれるもみじ饅頭。こしあんだけでなく、つぶあんや抹茶、チーズなどの種類があるが、そんなもみじ饅頭とコラボしたのがこれ。これも遠目には茶色い帽子にしか見えないが、よく見るともみじ饅頭柄。島田洋七さんがこれを被って「もみじまんじゅう~!」と叫ぶ日も近い?

・特大メガホン(2,500円・100個限定品・売り切れ)

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今年のカープグッズのなかで、もっとも実用性に乏しい珍品がこれ。タテ73cm、重さ1.1kgもあるビッグサイズ! しかし、それはどこからどう見ても道路に置いてあるアレ……と思ったら、公式ページには堂々と「駐車場などで活躍するカラーコーンをカープ仕様の特大メガホンにしました!」と書いてある。さらに、「試合時の球場へは持ち込めませんので、ご了承ください」との一言も。いったいどこで使えばいいのか、さっぱりわからない!

・フルジップパーカー(スラィリー)

カープのマスコットキャラクターといえば、喜ぶと鼻からピロピロしたものを出すスラィリー。かれこれ20年も活躍するベテランキャラクターで、今月末には初の写真集『スラィリー、じゃけん。』の発売も決まったばかり。そんなスラィリーをモデルとしたのが、このパーカー。顔の部分がフードになっており、被れば完全にスラィリー。前出のうえむらちかさんも「とても温かくてもふもふしているので、冬はパジャマとしても愛用しています」とのこと。

うえむらさんは、毎日がスラィリー
うえむらさんは、毎日がスラィリー

それにしても、なぜカープはこうした変なグッズを開発するのだろうか? それについてカープ球団に直接訊いてみると――。

「いやぁ、売れるか売れないかはべつにして、なんか面白くないと意味がないじゃないですか。グッズはファンのみなさんとのキャッチボールの方法のひとつなので、やっぱり面白さを追求したいんです。それによって距離も縮まると思いますしね。まぁ、失敗した商品もたくさんありますけど(笑)」(広島東洋カープ・商品販売部担当者)

意外にも返ってきたのはユルフワな答が返ってきた。そうなると次に気になるのは、どのようなプロセスで開発されているのかということ。それについて話を向けてみると――。

「いまは、商品販売部の16~17名ほどの社員とパートの方々で、グッズ開発をしています。とくにマーケティングといったことはしてませんし、グッズ専門の社員を他の会社から引き抜いたりもしていません。他球団を参考にすることはなく、みんなで雑誌を読んだり話し合ったりしてアイディアを出し合っていますね」(同)

こちらも拍子抜けするほど真っ当な回答。他社から凄腕のグッズ開発専門家を引き抜いたのではないか――というこちらの想像は完全に的外れに終わった。

グッズに力を入れた理由

カープがここまで積極的にグッズ開発をすることには、明確な理由がある。

90年代に入って長らく万年Bクラスとなったカープにさらなる苦境が訪れたのは、2000年代に入ってからのこと。00年代中期、地上波テレビから野球中継が減っていき、1試合1億円とも言われたジャイアンツ戦の放映権料を大きな収入源としていたカープは窮地に陥った。それは、カープが12球団で唯一親会社を持たない独立採算のチームだったからだ。プロ野球球団の赤字は、戦後すぐに定められた国税庁の特例によって親会社の宣伝広告費として経費計上できるが(※1)、親会社のないカープにとって赤字は決して許されないことだった。

約30億円もあった年間放映権料は13億円まで減ったそうだが、カープ球団はこうした苦境をグッズ販売で乗り切ってきたという。2000年代中期には2億円ほどだったグッズ売上は、現在その10倍にまで増えたそうだ(※2)。個性的なカープグッズの数々は、チーム存続のための経営努力が生み出したものだったのだ。

ファンにとってのグッズとは、時間が経てば特別な意味を持つものに変わることもある。前出のうえむらさんも、もっともお気に入りのものとして挙げるのは、三代に渡って受け継がれてきたグッズだという。

うえむらさん愛用のカープ坊やイラストの腕時計
うえむらさん愛用のカープ坊やイラストの腕時計

「祖父、父、母と受け渡されてきた腕時計なので、とても重みを感じます。カープ坊やのユニフォームで年代が分かるんですが、代々うちの家系はカープファンなんだなぁと感じて身に付けほっこりします。同じ時計を付けている人を見たことがないので、特別な時計だと思って大事にしています」

グッズを介したファンと球団とのキャッチボール――それは5年、10年、20年と時間をかけることで、より熟成されていくのである。

※1……国税庁「職業野球団に対して支出した広告宣伝費等の取扱について」

※2……毎日新聞2014年8月9日付「球界再編問題から10年:プロ野球 第2部・番外編 球団首脳に聞く 広島・松田元オーナー」

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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