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イスラエルがシリアのアレッポ国際空港を攻撃、利用不能に:黙認によって他国が得られる新たな攻撃の口実

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2022年9月6日

シリアが9月6日、またしても爆撃に晒された。

シリアで爆撃というと、シリア軍(反体制派が言うところの「アサド体制軍」)、あるいはロシア軍(同じく反体制派が言うところの「占領軍」)による無辜の市民や民間インフラを狙った無差別爆撃が再発したと思うかもしれない。

だが、シリア軍による爆撃は2020年3月以降数回しか行われておらず、ロシア軍の爆撃もイスラーム国が主な標的である。

爆撃を行ったのは、今回もイスラエルだった。

シリアでもっとも頻繁に爆撃を行う国イスラエル

イスラエルがシリアに対して爆撃、ミサイル攻撃をはじめとする侵犯行為を行うのは、今年に入って33回目。

バッシャール・アサド政権が成立した2000年から「アラブの春」がシリアに波及する2011年にかけて、イスラエルの侵犯行為は4件に過ぎなかった。だが、2011年から2016年までの6年間でその数は15回に増加し、2017年になると22回、2018年には24回、2019年には43回、2020年には59回(2019年と2020年はイスラエルか米主導の有志連合か特定できなかった爆撃も含む)、2021年に33回と急増した。

イスラエルこそが今や、シリアでもっとも頻繁に爆撃を行う国となっている。

被害を免れない民間人、生活インフラ

イスラエル軍の爆撃、ミサイル攻撃の標的は、「イランの民兵」だとされている。

「イランの民兵」とは、シーア派(12イマーム派)宗徒とその居住地や聖地を防衛するとして、イランの支援を受けてシリアに集結し、シリア・ロシア両軍と共闘する外国人(非シリア人)民兵の総称である。イラン・イスラーム革命防衛隊、その精鋭部隊であるゴドス軍団、レバノンのヒズブッラー、イラクの人民動員隊、アフガニスタン人民兵組織のファーティミーユーン旅団、パキスタン人民兵組織のザイナビーユーン旅団などがこれに含まれる。

イスラエルは、イランの息がかかったこうした武装集団の存在が、安全保障上の脅威となっているというのだ。

しかし、安全保障や自衛を理由として行われる軍事行動が、民間人の犠牲を伴い、生活インフラを破壊するのは、いつの時代、そしてどの紛争においても変わらない。

イスラエルは今年6月10日、ダマスカス国際空港(ダマスカス郊外県)を爆撃・ミサイル攻撃し、滑走路、第二ターミナル・ビルなど一部施設に損傷を与え、一時利用不能に追い込んだ。また、前年12月8日には、ラタキア港(ラタキア県)の商業用のコンテナ・ターミナルに向けてミサイル攻撃を行い、大規模な火災を発生させた。

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攻撃で空港は利用不能に

9月6日の攻撃で狙われたのは、アレッポ国際空港(アレッポ県)だった。

同空港は実は、8月31日にもイスラエル軍の爆撃・ミサイル攻撃を受けた。この攻撃では、滑走路への被弾は免れたが、空港は復旧作業のため9月2日まで閉鎖された。英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団やロシアのRIAノーヴォスチ通信によると、攻撃によって、隣接するナイラブ航空基地の未使用の滑走路、S-125防空システムのアンテナ塔武器弾薬庫複数棟が損傷を受けた。

これに対して、9月6日の攻撃は、民生用の滑走路が狙われた。

シリア軍筋が発表した報道声明によると、イスラエル軍は午後8時16分頃、ラタキア県西の地中海沖上空からアレッポ国際空港に対してミサイル多数を発射、滑走路が物的被害を受け、利用不能となった。

シリア人権監視団によると、イスラエル軍は空港の滑走路や周辺地域に対して少なくともミサイル6発を発射(あるいは6発が着弾)し、空港や隣接するナイラブ航空基地近くで複数回にわたって爆発音が聞こえ、空港近くの倉庫から煙が立ち上がるのが目撃された。この攻撃で、3人が死亡、5人が負傷した。

爆撃を受けて、シリアの内務省は声明を出し、アレッポ国際空港が復旧するまでの期間、同空港発着便をダマスカス国際空港発着便に振り返ることを決定したと発表した。

黙認することで得られるもの

イスラエル軍の攻撃に対して、欧米諸国、トルコ、アラブ湾岸諸国そして日本が非難を行うことはない。シリア政府を支援するロシア、イランは早晩非難声明を出すだろうが、イスラエルの侵犯行為を抑止するための実効的な対応策をとることはないだろう。

予想されるリアクションは、シリア内戦に関与を続ける諸外国、とりわけトルコ、「イランの民兵」、ロシアによる便乗爆撃であることは、これまでの例を見れば明らかである。

事実、シリアに違法に駐留を続ける米軍(有志連合)は、ヒムス県のタンフ国境通行所やダイル・ザウル県のCONOCOガス田の基地で「イランの民兵」の報復に備えて警戒態勢を強化している。

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ロシアのウクライナ侵攻のように、他国の軍事行動を非難することが、紛争への自国の間接的関与や軍事支援に正当性を与え、暴力の再生産を促すこともある。だが、シリアにおいては、他国の軍事行動を黙認することで、自国の直接的関与や軍事介入を黙認するよう暗に促し、暴力の再生産を促すこともある。

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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