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「タリバンに学べ」――アフガン情勢を注視する各地のイスラーム過激派

六辻彰二国際政治学者
カブール国際空港から米ダラス空港に向かう飛行機に乗る少年(2021.8.25)(写真:ロイター/アフロ)
  • 世界各地のイスラーム過激派はタリバン復権を強い関心をもってみている。
  • そこにはタリバンが超大国アメリカを撤退に追い込んだからという理由だけでなく、どのように政治的に勢力を広げたかを学ぼうとする目的もある。
  • タリバン復権は各地の過激派にとって、IS衰退の空白を埋める、一つの道しるべとなっている。

 タリバン復権はアフガニスタンだけでなく、世界全体のテロ対策にとって大きな意味をもつ。

「タリバンに学べ」

 タリバンにカブールが制圧された後、外国人や米軍協力者がアフガニスタン脱出を目指して空港周辺でかつてない混乱が広がる様は、多くのメディアで報じられている。

 しかし、タリバン復権で揺れているのはアフガンだけではない。世界各国のテロ対策の担当者や専門家は今、イスラーム過激派の動向に警戒を募らせている。

 例えば、インドネシアではアフガン情勢と連動するように、今春からジェマ・イスラミア(JI)などイスラーム過激派の活動が活発化しており、1週間で48人のテロ容疑者が逮捕された週もあった。

 インドネシアの観光地バリ島では、9.11の翌2002年に外国人の集まるナイトクラブが爆破され、202人の犠牲者が出た他、2016年にはジャカルタで7人が死亡する銃撃戦が発生した。

 このインドネシアでは最近、SNSでタリバンを賛美する書き込みが増えている。かつてJIの指導的立場にあり、現在はインドネシア警察の顧問であるナシール・アッバスによると、「アフガンに渡りたい」、「タリバンに学ぶ者を組織的に送り出すべき」など、タリバン復権に触発された投稿も多いという。

伝道者としての「アフガン帰り」

 ネットだけでなく、リアルな人の移動によっても、タリバン復権の高揚感が各地に伝えられている。

 アフガニスタンにはもともとアルカイダや過激派組織「イスラーム国(IS)」なども流入していたが、そのなかにはタリバンと行動をともにする外国人も数多くいる。

 その一部はすでにアフガンを離れており、その一人一人がタリバン復権の実体験を各地に伝える伝道者になっている。例えばロシアでは、分離独立を目指すイスラーム勢力「北コーカサス首長国」に加わる者が増えており、その多くはアフガン帰りとみられる。

 ワシントンにある世界政治研究所のポール・ゴーブルは「過激派に悩まされてきたロシアにとって、アフガン帰りは‘ラクダの背を折る最後のワラ’になりかねない」と警告する。

「お手本」タリバン

 タリバン復権がもたらしたインパクトの大きさは、超大国アメリカを撤退に追い込んだことだけが理由ではない。

 各地の過激派にとって、タリバン復権には宗教的な意味づけもある。2001年に米軍によってカブールを追われたタリバンが、20年の時を経て再びカブールを制圧した姿はイスラーム過激派に、異教徒の迫害によって622年にメッカを追われた預言者ムハンマドが8年後に大軍を率いてメッカ入城を果たした故事を思い起こさせるものだ。

 それだけでなく、イスラーム過激派にとってタリバン復権は政治的な意味でも参考にすべきものだ。

 その人権侵害から悪の権化のようにいわれがちだが、少なくともアフガンの支配地域では、タリバンにもそれなりの存在意義や支持があった(だからこそ力を蓄え、カブールを制圧することができた)。

 2001年のアフガン侵攻の後、アメリカの支援で発足したアフガン政府は、形だけは民主的だが有力者のコネとワイロがはびこり、とりわけ地方の住民の生活はほとんど改善しなかった。昨年5月の段階で、食糧不足に直面する人口は、全国民の4分の1以上にあたる1130万人にのぼった。

 こうしたなかで生まれた政府への不信感は、逆にタリバンへの親近感を生む土壌になったといえる。

 タリバンは支配地域で税金を徴収する一方、教育や医療などのサービスを提供して実質的な政府の役割を果たすようになったからだ。そのため、シンガポールにある南洋理工大学の客員研究員ヌーア・イスマイール博士は、各地の過激派がタリバンから「どうすれば人々の支持を勝ち取れるかを学ぼうとしている」と指摘する。

 いわばタリバンは一つのロール・モデルとして、各地のイスラーム過激派の関心の的になっているのだ。

IS衰退の空白を埋めるもの

 それは裏を返すと、タリバン復権によるテロの誘発を抑えるため、各国政府はこれまで以上に国民生活に目配りする必要があることを意味する。

 南アフリカのリスク分析企業アナリストであるリャン・カミングスは、政府が本来するべき仕事を肩代わりすることでタリバンが支持を増やしたことを踏まえて、アフリカ各国の政府はアフガンを他山の石として学ぶべきと警告する。カミングスによれば「アフリカを歩けば、政府の代わりになっている武装勢力はいくらもある」。

 格差や抑圧を背景に、現在の世の中に不満を抱く人々は、他の地域と同じくイスラーム世界でも増えている。イスラーム過激派はこうした不満を吸収して勢力を増してきたわけで、2014年にシリアとイラクにまたがる領域でISが「建国」を宣言した時、世界中から参加者が集まったのは、こうした背景による。

 つまり、第三者の目にどう写ろうと、参加者にとってISは不正と欺瞞に満ちた世の中を正す、一種の「世直し」だったといえる(この自己認識と他者による評価のギャップは白人至上主義者などあらゆる過激派に共通する)。

 しかし、ISは国際的に全く承認されず、結果的に一時ほどの勢力はなくなった。タリバンの復権はIS衰退の空白を埋めるものだ

 タリバンはISほど海外のフォロワーを集めることに熱心ではない。とはいえ、コロナ感染の拡大も手伝って、政府への不満がイスラーム世界でうず巻く状況は、タリバンの「成功」イメージを広げやすくしている。

正統な政権として認められる意味

 今後の一つのポイントは、タリバンが正統な政権として認められるかだ。

 各国には温度差があるが、遅かれ早かれ各国は、タリバンをアフガンの正統な政権として承認せざるを得ないだろう。そうでなければアフガンの混乱はさらに深まることになるし、「外部の都合」でアフガンの政権が左右されれば、それはそれでイスラーム過激派の反発を強める。

 ただし、正統な政権と国際的に承認された場合、タリバンはISとは異なる形で、イスラーム国家としてのモデルを提示することにもなるそれはタリバンが望むと望まざるとにかかわらず、過激派にとって一つの「道しるべ」になることを意味する

 今後アフガンでどんな政権ができるのかは、イスラーム過激派の動向をも左右するといえるだろう。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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