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給料があがっても可処分所得が減り続ける「バラまかなくていいから取らないでほしい」という切実

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

婚姻減の経済問題

前回の記事(少子化は「20代が結婚できない問題」であることを頑固なまでに無視する異次元政府)の続きである。

前回の話をまとめると

晩婚化など起きていない。晩婚化しているならば、今頃初婚年齢の中央値は30歳を超えているはずなのに、同数値は相変わらず20代のままである。起きているのは20代での若いうちに結婚する数の激減であり、それが結果として全体の婚姻数を減少させ、さらにその結果として婚姻総数の減少分出生数が減少している。

というものであった。

20代の初婚が激減している要因は、決してひとつではない。かつての皆婚を実現させていた結婚のお膳立てシステムの崩壊もある。

日本の結婚は30年前にはすでに詰んでいた。失われた社会的システム

しかし、それはまた別の記事に譲るとして、それ以外の大きな比重を占めるものとして2000年以降20代の若者が直面させられ続けている経済問題がある。

就職氷河期に翻弄された今の40代

そもそも、本来1990年代後半から2000年代初頭にかけては、20代の若者の人口がもっとも多かった時代である。なぜならその時期の20代は、1970年代の第二次ベビーブーム期に生まれた子どもたちだからだ。

人口が多く、婚姻率が一定であるならば、当然その時期に第三次ベビーブームが起きるはずだった。しかし、それは起きなかった。なぜなら、1993-2005年にかけて長きにわたって続いた就職氷河期の影響である。

就職先が見つからなかった若者は、不本意ながらアルバイトなど非正規雇用で生活するよりなかった。就職先を求めて全国から20代の若者が東京圏に流入し始めたのもこの頃からである。しかし、東京に来ても、正規の雇用口があるはずもなかった。

運よく大企業に就職できた層を除いて、当時の20代の多くは、日々の生活に精一杯で、結婚や子育てなど考える余裕もなく、それどころか恋愛すらできなくなっていた。18-34歳までの独身男女で「恋人がいる率」がピークだったのは2005年で、それ以降下がり続けている。

写真:アフロ

そんな時代の20代が今、未婚のまま40代を迎えて、年代別独身人口ではこの40代以上が20-30代の若者独身人口よりも多くなっている。同時に、これが45-54歳を対象年齢とする生涯未婚率の上昇に直結している。

新たな氷河期の到来

しかし、これは「昔の20代は大変だったね」という話ではない。

確かに、就職氷河期はない。むしろ、若者の絶対人口が減っている中で、人手不足で正規雇用の求人はたくさんある。

就職はできたのに、そして、2015年以降は微々たるものながら毎年給料はあがっているのに、なぜか生活が楽にならない。それどころかむしろ苦しく感じている若者が多いはずである。

なぜなら手取りが減っているからだ。

内閣府の「国民生活基礎調査」の過去統計を拾い上げ、20代の可処分所得の中央値を独自に計算して、その推移をグラフ化したものが以下である。

リーマンショック時の2009年を底辺として、いわゆる額面の給料である所得の中央値はあがっている。しかし、可処分所得で見ると、2015年までは順調に上昇していたものの、それ以降はまた下降している。給料はあがっているのに、手取りが減っており、2000年のそれより低いままである。

2022年の20代の可処分所得の中央値がたった235万円である。20代半分がこの可処分所得しかないということになる。月当たり20万円にも満たない計算だ。

可処分所得とは、所得から非消費支出(所得税、住民税や社会保険料)を差し引いた金額である。つまり、給料は増えても、それ以上に差し引かれる金額が増えているために手取りが減っているのである。

2000年、引かれる金額は年間52万円程度だったが、それが2022年には倍以上の109万円になっている。ただでさえ給料絶対額が多くない20代にとって年間100万円以上も天引きされているのはつらいだろう。

これは対所得比にすれば、2000年は16%だったものが2022年には32%になっているということだ。

昨今、企業の賃上げのニュースが連続しているが、仮に賃上げで額面給料があがっても、なんだかんだで引かれる金額がそれ以上なのであれば、それは実質給料減と一緒である。

結婚にはお金が必要

そして、これは20代だけの問題ではなく、30代以上の独身も既婚者も特に給与所得者の場合、このステルス天引きによって手取りが増えない状況になっている。所得が増えれば増えるほど天引き額も大きい。

本来、個人の所得が増えれば、税金を支払ったとしても可処分所得は増え、可処分所得が増えるということは、その中でまかなう消費支出も増えるということである。個人の消費が増えれば、企業の売上もあがり、企業の利益があがれば、また給料をあげられるという好循環になるはず。

しかし、今日本で起きているのは、給料はあがっているのにかかわらず手取りが減っていて、結果買いたい物を我慢し、行きたいところにも行けず、消費支出が低迷している。

以前から言っているように、今や結婚もまた消費活動のひとつである。

消費というと誤解する人もいるが、消費とは、お金と時間と肉体と精神を使って充実を得る行動である。かつて結婚が生産だった時代にはお金は必要なかったかもしれない。むしろ結婚によってお金を生み出す構造でもあった。

しかし、もはや結婚にはお金が必要なのである。

写真:イメージマート

若者の手取りが減り続けているのと連動して、未婚率が上昇しているという完全に負の相関関係が成立していることを深刻に受け止める必要がある。でないと、今のこの事態が新たな「若者氷河期」を作り出してしまうだろう。

何も政府支出からバラまけという話をしているのではない。バラまいた上で、それ以上に徴収するようなまやかしはもう沢山である。

バラまかなくていい。国民負担を増やさないでほしいのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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