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「政治のカネ」より「経済と心」の問題「今を楽しめなくなった」若者と現役世代

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

今を楽しめない現役世代

「将来に備えるか、今の生活を楽しむか」

内閣府「国民生活に関する世論調査」では、こんな質問に対する長期的な推移を確認できる(注釈;質問原文は「将来に備えるか、毎日の生活を充実させて楽しむか」)。男女年代別に、2001年から2023年までの推移を抜粋してまとめたものが以下のグラフである。

全体的に、2023年にかけて「今の生活を充実させて楽しむ」という割合が激減している。特に、男女とも20-50代の現役世代の落ち込みが顕著である。

20代男性に至っては、2001年時点では20-50代までの中でもっとも「今を楽しむ」が高かったが、2023年では逆にもっとも低くなってしまった。それは女性とて同じだが、20代の男性のマイナス幅は22.6%ポイント(2001年比)で、これは男女年代別全体で最大の減少である。

それもそのはずで、少なくともこの約20年の間、20代の若者は、一部の大企業勤務などの環境下にある者を除けば、実質の手取りが一向に増えない中で、「今を楽しむ」余裕どころか、「今この日を生きる」ことに精一杯だったからだろう。

また、30代男性は、本来であれば結婚していわゆる子育て世代となっている年齢だが、この層の「今を楽しむ」割合は、わずか23.6%と、過去から含めて男女全年代で最低となっている。

いかにこの20年間、若者と現役世代が置かれた経済環境が過酷なものだったかがわかると思う。

氷河期よりも余裕がない

ところで、2001年で20代だった層は、当時まだ就職氷河期の真っ只中である。そんな中でも、令和の2023年の20代よりも「今を楽しむ」という意欲があった。

今は、人手不足も手伝って、就職戦線は順調にもかかわらず、その氷河期の20代よりも「今を楽しむ」余裕がないというのはいかがなものだろう。

それだけ、今は「将来の見通しが安心なものではない」ということである。

とはいえ「将来に備える」ことは大事なことで、それなしに「今を楽しむ」ということは、それこそ「アリとキリギリス」の寓話にあるように賢明ではない生き方だと思うかもしれない。「若い時の苦労は将来の糧になる」という考え方もあるだろう。

提供:イメージマート

しかし、ここ20年の若者が置かれた環境は、自己選択的に「今を楽しむ」ことをセーブしたというよりも、「今を楽しむお金も時間も余裕もないため」だったのではないか。

その余裕のなさが実は婚姻数の減少に直結しているのである。

今を楽しめない=婚姻減

2001年から2023年の20代の「今を楽しむ」意識の推移と、もっとも初婚数の多い男女25-29歳の初婚率の推移を、2001年を1とした場合の減少率で比較してみる。

男女ともに「今を楽しむ」意識の低下とともに初婚率が減っている。特に、男性に至っては、完全に一致しているといっていいほどシンクロである。

なぜなら「今を楽しむ」というものの中には恋愛も含まれるからだ。「今を楽しめない」若者が増えているということは、そのまま婚姻の減少に直結するのである。婚姻が減少すれば出生数が減少する。つまり、今の少子化は「いかに若者が若者のうちに人生を楽しむ余裕を奪ってきたか」に尽きるのである。

「政治とカネ」より大事なこと

岸田内閣時代のこども家庭庁の打ち出した少子化対策がことごとく的外れなのは、この若者の境遇に対してまったく目を向けていなかったことによる。

もっと端的に言えば、若者の経済環境の改善がなされなかったことであり、むしろ社会保険料の負担増などでかえって若者の経済環境を悪化させてもいるが、それを知っていて「知らぬフリ」を決めこんでいる。

今回の衆院選挙の争点は「政治とカネ」などではない。

若者の「今を楽しむ」心の余裕を奪い続けてきた経済政策をどう転換していくかが問われていると思う。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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