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「今は一人っ子は増えていない」むしろ深刻なのは「子沢山と無子・未婚の格差」

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(提供:イメージマート)

一人っ子は増えていない

「一人っ子が急増」というタイトルの9/9付毎日新聞のネット記事(一人っ子が急増 過去20年で1割→2割 要因は晩婚化以外にも)を目にしたが、昨今タイトルしか見ない読者も多いことを鑑み、非常に誤解を招く恐れがあるので、補足をしておきたい。

記事が引用している統計(出生動向基本調査)においては、対象が子どもを産み終えたとみられる夫婦(結婚から15~19年が経過)であることに留意されたい。わかりやすく言えば、合計特殊出生率の計算対象外となる妻50歳以上の子どもの数と言い換えても差し支えない。つまり、今まさに出産期にある若い夫婦の話ではないということである。

女性がもっとも出産をする年齢帯を25-34歳と仮定すれば、この統計における対象者が出産をした時期は、調査時から15-25年前、調査時が2021年なので、つまりは1996-2006年あたりの時期になる。

この時期は、人口動態史上的にも非常に重要な時期であった。

何より「本来は第三次ベビーブームがやってくる時期」であったのである。

日本には、1970年代初頭に第二次ベビーブームがあった。

日本の歴史上もっとも子どもが多く生まれた時期でもある。この時に生まれた子どもたちが長じて、結婚や出産をする年齢に達する時が、1995年以降であった。

しかし、結果的には「第三次ベビーブームは来なかった」

第二子以降が生れなかった時代

なぜなら、この直前から始まっていたバブル崩壊とともに、この時期「就職氷河期」と呼ばれる時代に入っていたからである。

新卒有効求人倍率がもっとも低くなり、若者の完全失業率がもっとも高かった時期である。就職氷河期は、一般的に1995-2005年あたりまで続いたといわれる。

ベビーブームどころか、当時の若者は自分たちの就職や生活に汲々としていて、結婚どころではなかったことだろう。

記事でいう対象者が結婚・出産をする時期は、まさにこの時期に当たり、たとえ結婚して第一子をもうけた夫婦だとしても、この状況では第二子を産むことをためらわざるを得ない環境にあったと見るのが妥当だろう。

事実、それは出生の統計に如実に表れている。

以下のグラフは、第二次ベビーブーム期から2022年までの、第一子の出生率と第二子以降の合計出生率とを比較したものである。

一目瞭然だが、基本的には第一子出生率よりも第二子以降出生率の方が上回っている。これは、第一子を産めば、少なくともそれと同等以上の第二子以降が誕生していることを示している。

注目していただきたいのは、バブル崩壊後の1990年代初頭から就職氷河期にあたる2005年にかけて、第一子出生率はほぼ変わらないのに、第二子以降出生率だけが激減している部分である。この時期に、第一子を産んだ夫婦が以前ほど第二子以降を産めなくなっていたことを表す。

この時期に生まれた子に一人っ子率が高いというのはそういうことによる。

しかし、だからといって、その後も同じ傾向が続いたわけではない。

2005年以降は、第一子<第二子という傾向に戻っている。これは、第一子を産めば、それ以上に第二子以上を産んでいるということだ。

映画「三丁目の夕日」時代より多い

実際、直近において出生した子どもの出生順位別割合から、「単年ごとの出生児は何番目の子か」が計算できる。

それによれば、もっとも数値が低くなったのは2000年の1.68人であり、まさに就職氷河期ど真ん中の時期である。しかし、氷河期が過ぎた2005年以降復調し続け、2021年には1.77人と1980年とほぼ同等にまで復活している。

別途、3人目以上の比率を計算し、その推移を見ても、2022年の17%は、1965年より高いくらい。令和の一人当たりの母親が産む子どもの数は映画「三丁目の夕日」の時代と比しても大差ないのである。

確かに、1995-2005年あたりは、夫婦が産む子どもの数が少ない事が少子化の要因だったろう。しかし、令和の今は、夫婦が子どもを産んでいないからではなく、そもそも出産の前提となる婚姻数が減っているからである。文字通り、婚姻の「母数」が減っているがゆえに絶対数としての出生数が減るのだ。

結婚がなければ第一子はない

1枚目のグラフでわかるように、一度上昇した第一子出生率が2015年以降はがくんと減少し始めている。これこそがそもそも婚姻数が減っていることの証であり、今の問題とは、氷河期における「子どもは一人しか産めない」問題から、そもそも「結婚できない」問題へと変容していることを示す。

逆にいえば、絶対数が減った婚姻数だが、今結婚できている夫婦は、第一子を産めば、それ以上に第二子、第三子を産んでいる。

写真:イメージマート

今までの政府の少子化対策が的外れであるのは、今は「夫婦が子を産めない」問題ではなく、「若者が結婚というステージに立てない」問題であることをことごとく無視しているからだ。

今更だが、第二子以降を促進する子育て支援政策はまさに1995-2005年あたりに実施しておくべきであった。そうすれば多少なりとも第三次ベビーブームの「小山」くらいできたかもしれない。

加えて、あの時から本当は婚姻減というものの深刻さに着目しておくべきだった。もはや時すでに遅しで、現在40歳以上の未婚男女が過去最高人口となった

よくよく考えれば当たり前の話だが、第一子が産まれなければ第二子も第三子もない。そして、結婚がなければ第一子もない。

「一人っ子」云々を心配するより、「若者の無子化」の方こそ危惧すべきだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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