スイーツの魔術師ジル・マルシャルはなぜ来日したのか? 紡ぎ出すスイーツの意義とは?
ハイアット リージェンシー 東京でジル・マルシャル フェア
「世界の最優秀パティシエ賞とは?ピエール・エルメがデザートのフルコースを提供する理由とは?」では、ピエール・エルメ氏のデザートコースを、「新宿NEWoMan(ニュウマン)にデザートバーをオープンした天才ジャニス・ウォンとは誰なのか?」ではジャニス・ウォン氏の前衛的なデザートを、「壮大になっていくホテルのフェア」ではブルーノ・ル・デルフ氏とのコラボレーションをご紹介したように、世界の一流スイーツを今は日本で体験できる機会がたくさんあります。
その中でも、また注目したいスイーツがが上陸しています。それは、ハイアット リージェンシー 東京とコラボレーションして2016年9月29日から12月18日まで「スイーツの魔術師 ジル・マルシャル フェア」を行う、ジル・マルシャル氏のスイーツです。
開催期間は通常数日からせいぜい1ヶ月ですが、3ヶ月近くも行うこと、さらには「カフェ」「ラウンジ」「ペストリーショップ」と3つの施設でスイーツを提供することから、非常に力が入っていることが分かります。また、当のマルシャル氏も2016年9月29日から10月1日に来日するなど意欲的です。
ジル・マルシャル氏とは
マルシャル氏の経歴は以下の通り輝かしいです。
1982-1984 メッスにあるクロード・ブルギニオンにて研修を始める。当時 16 歳。
1984-1986 レストラン ジャン・バルデ(当時ミシュラン 2 つ星)にて勤務。
1986-1989 リュクサンブールのパティスリー、ル・デセール・インターナショナル・ピット・オベルワイズにて勤務。
1989-1992 友人の一人であるシェフパティシエ、クリストフ・フェルデールに呼ばれ、スーシェフとしてパ
リのホテル・クリヨン(当時ミシュラン 2 つ星)へ。
1992-1994 レストラン・プリュニエ(1993 年にミシュラン 1 つ星獲得)にてシェフパティシエとし勤務。
1994-1999 28 歳の若さでホテル・プラザ・アテネ(当時ミシュラン 2 つ星)のシェフパティシエに抜擢。
1999-2007 ホテル・ル・ブリストル・パリにてシェフパティシエとし勤務。当時ミシュラン 1 つ星、2002 年
に 2 つ星獲得。
2007-2012 パリのラ・メゾン・デュ・ショコラのクリエイティブ・ディレクターに就任。
2012-2014 ヨーロッパを中心にパティスリー、レストラン、ホテル等のコンサルティング業をこなす。
2014 11 月に自身の店をパリ モンマルトル地区にオープンする。
マルシャル氏はフランスのホテル最高級格付け「パラス」の称号(パラスについては「ナポレオン3世妃が愛した旧宮殿、ホテル デュ パレを帝国ホテルで味わう1週間」でも触れています)を誇る「ホテル・ル・ブリストル・パリ」で 8 年にも渡ってシェフパティシエを務めた後、「ラ・メゾン・デュ・ショコラ」でクリエイティブ・ディレクターとして活躍しました。
2011年にはフランスの雑誌「VSD」で「世界の優れたパティシエ10人」に選ばれ、2014年にはパリのモンマルトルに自身のパティスリーをオープンするなど、順風満帆なキャリアを歩んでいます。
実現した経緯
このコラボレーションが実現した経緯は何だったのでしょうか?
実は「【M.O.F.】カンプリニ スイーツフェアはハイアット リージェンシー 東京のシンボルとなるのか?」でご紹介したペストリー・ベーカー料理長 佐藤浩一氏による熱烈なオファーによって実現しました。
佐藤氏はフランスの「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」で働いていた頃にホテル・ル・ブリストル・パリで食事し、アシェットデセールの美しさとおいしさに衝撃を受けました。
マルシャル氏にはどのようにしてコンタクトしたのかと訊くと、佐藤氏は「話すなどとんでもない。当時マルシャル氏は雲の上の人だった」と笑い、「いつか一緒に仕事をしたいとずっと思い続けていた」と真剣な眼差しで話します。
その後、佐藤氏は「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」で青木定治氏の右腕となりスーシェフを務め、2012年にはこのハイアット リージェンシー 東京へとヘッドハンティングされ、ペストリー・ベーカー料理長となった経緯は記憶に新しいところでしょう。佐藤氏がマルシャル氏へオファーできる環境が整ってからようやく実現したコラボレーションであり、実に10年以上の想いが実った貴重なイベントなのです。
マルシャル氏にとってもちょうどよい時期でした。2014年11月に自身のパティスリーをパリのモンマルトル地区にオープンし、一段落着いたところだったのです。
マルシャル氏のスイーツ
マルシャル氏のスイーツはどのようなものなのでしょうか?
佐藤氏に尋ねると「見た目が素晴らしいが、派手に見せているだけではない。おいしさを追求している」として自身も同じ哲学だと説明します。
マルシャル氏は特に焼菓子が得意で、サブレをホロっと崩れるように焼き上げたり、フィナンシェに甘酸っぱいフランボワーズを効かせたり、カヌレでは外側も適度にしっとり感を残したりと、「スイーツの魔術師」とフェア名で謳われているように、一流の焼菓子にもうひと仕事を加えて、さらにおいしさを高めているのです。
では、今回のコラボレーションにおけるスイーツを見ていきましょう。
「カフェ」で提供する「ジル・マルシャル スイーツセット」は、アシェットデセールのコースでマルシャル氏のスイーツを堪能できるコースです。「世界の最優秀パティシエ賞とは?ピエール・エルメがデザートのフルコースを提供する理由とは?」でもご紹介したように、一流パティシエの味を多面的に味わうにはデザートコースがよいです。
■「カフェ」(ロビーフロア・2F) 「ジル・マルシャル スイーツセット」
- <プレ デセール>モンブラン
濃厚なマロンとカシスのソルベがアクセントのモンブラン。アート作品のような美しい盛り付けもご堪能ください。
- <グラン デセール>サブレ ショコラ エキゾチック
濃厚なショコラのムースをザクザクとした食感のサブレで挟み、マンゴーやココナッツ、パッションフルーツなど南国のフルーツの爽やかなソルベと合わせたグランデセール。
- <プティ フール>2 種
- <ドリンク>20 種類以上のドリンク専用メニューから好きなだけお楽しみいただけます。
「ラウンジ」ではプティガトーの盛り合わせを気軽に楽しめます。マルシャル氏の代表的な焼菓子を、パリのモンマルトルへ行かずとも、ここ日本で味わえるのが嬉しいです。
■「ラウンジ」(1F) 「ジル・マルシャル スイーツプレート」
6種類のプティガトーをプレートに盛り付けたセット。
- <プティガトー>
フィナンシェ フランボワーズ、ケーク ショコラ、シュケット、タルト エキゾチック、カヌレ、ヴェリーヌ ショコラ
- <ドリンク>
20 種類以上のドリンク専用メニューから好きなだけお楽
「ペストリーショップ」では、テイクアウトできるケーキと焼菓子を購入できます。日本人が栗を好きなこと、さらには、旬の素材を大切に使うことから、マルシャル氏はマロンを使った「シャルロット マロン」を作ることにしました。
■「ペストリーショップ」(ロビーフロア・2F) ガトー&焼菓子
- シャルロット マロン
クルミのビスキュイが入ったムースマロンにオレンジのコンフィの角切りを重ねたガトー
- サクレ クール ショコラ ブラン
ココナッツのダックワーズとフランボワーズのムースをホワイトチョコレートで包んだドーム型のガトー
- タルト ポワール ポム エ ピスターシュ
ピスタチオをベースに、洋ナシとリンゴを焼きあげたタルト
- カヌレ(2 個入り)
- ケーク ショコラ
ガトー・ド・ボワイヤージュ
マルシャル氏は「華麗なケーキが世の中を席巻しているが、そういうものは毎日食べると飽きてしまう。しかし、ガトー・ド・ボワイヤージュ(日持ちする菓子)であれば毎日食べられる」と述べ、「以前に比べると、有名ブランドとタイアップする時に、フレッシュケーキではなく焼菓子を期待されるようになった」と話すように、焼菓子への追求心や愛情は尽きません。
また「パリでは業態の棲み分けがなくなってきた。料理人がパン屋をオープンするなどしている」とフランスのトレンドを語りますが、自身もパリのモンマルトルにパティスリーをオープンした後に、ビストロまで展開するなど才能をみせ、多忙を極めています。
しかし、日本の食材である柚子や胡椒を持ち、紫蘇や梅酒も積極的に使おうとし、「4年振りの来日だが、次回はもっと月日を空けずに訪れたい」と笑顔で話すマルシャル氏が近いうちに再び来日して、フランスに追い付いたと言われているもののまだ派手で華麗なものを求め、ガトー・ド・ヴボワイヤージュの真の深さを理解していないようにみえる日本において、「シンプルな味こそ、偉大なパティシエになるために必要不可欠なものである」というマルシャル氏の哲学を伝えてもらえると、日本の洋菓子もさらなる発展をするように思います。
元記事
レストラン図鑑に元記事があります。