世界の最優秀パティシエ賞とは?ピエール・エルメがデザートのフルコースを提供する理由とは?
世界の最優秀パティシエ賞
「新宿NEWoMan(ニュウマン)にデザートバーをオープンした天才ジャニス・ウォンとは誰なのか?」で、「アジアのベストレストラン50」で「アジアの最優秀パティシエ賞」を受賞したジャニス・ウォン氏についてご紹介しました。
「アジアのベストレストラン50」は全世界のレストランを対象とした「世界のベストレストラン50」から生まれたものであるだけに、「世界のベストレストラン50」にも「世界の最優秀パティシエ賞」があります。
今年2016年の「世界の最優秀パティシエ賞」受賞者は、「パティスリー界のピカソ」と形容され、世界中のスイーツファンから賛美を受けている、ピエール・エルメ氏でした。日本の伝統スポーツである大相撲の優勝力士に「100倍巨大マカロン」なる特大のマカロンが寄贈されますが、あれはエルメ氏が作ったもので、それだけ日本とつながりが深いパティシエなのです。
そのエルメ氏の「世界の最優秀パティシエ賞」受賞については、一部の方に驚きをもって伝わりました。
初めての受賞
理由は、こうです。「世界の最優秀パティシエ賞」をエルメ氏が初めて受賞したから、つまり、これまで受賞していなかったことに対して驚きの声が上がったのです。
確かにこれだけ評価されているエルメ氏がまだ受賞していなかったことは驚きに値するかも知れません。しかし、実は「世界の最優秀パティシエ賞」は主にレストランのパティシエが対象となるものであり、しかも、2014年に創設されたばかりの賞なのです。
そのため、過去の受賞者を振り返ってみると、最初の2014年はジローナにある「エル・セレール・ダ・カン・ロカ」のジョルディ・ロカ氏が、2015年はバルセロナにある「チケッツ」のアルベルト・アドリア氏が受賞しています。
従って、今回エルメ氏が受賞しましたが、これは決して遅くはなく、レストランのパティシエではないことを考慮すればむしろ早かったと言えるのではないでしょうか。
特徴
では、世界最優秀とされるエルメ氏のスイーツはどのようなものなのでしょうか?
「完全に独創的な『味覚・感性・歓喜の世界』を作り出す」というあたりは、私も全く賛成です。
確かに代表作のイスパハンに見られるように、独特の素材の取り合わせと、それでありながらも、それぞれが折り合いながら主張しているものが多いです。
他にも例えば、フランスの伝統菓子であるマカロンに新たなフレーバーを加えてモダンにしたり、イチゴとワサビを合わせて新たな味を生み出したりと、前衛的であるように感じられますが、本人は基礎を大切にしていると語っているところが興味深いです。
頂点まで上り詰める
エルメ氏は、パティシエとしての経歴も華麗です。14歳の時に世界的に有名なパティシエ ガストン・ルノートル氏(2009年に逝去)に従事した後、若干24歳でフォション(Fauchon)のシェフパティシエになってフォションを立て直し、さらにはラデュレ(LADUREE)に移り、その副社長にまで上り詰めました。
まさに大成功の道を歩んできたエルメ氏ですが、実は自身最初のブランドとなるパティスリー「ピエール・エルメ・パリ」がオープンしたのは、1998年になってからであり、しかも、その場所はこの日本、ホテルニューオータニのザ・メイン ロビィ階だったのです。
その後、2000年7月には、2号店となる「ピエール・エルメ・サロン・ド・テ」を舞浜のイクスピアリにオープンしました(2012年2月15日にて閉店)。現在では日本国内に12店舗、海外27店舗を展開するまでになっています。
「世界の最優秀パティシエ賞」受賞記念
以上のことから、エルメ氏が日本と深いつながりがあることが分かるでしょう。そのため、「世界の最優秀パティシエ賞」を受賞した記念として、世界1号店として思い入れの強いこのホテルニューオータニで、これまで提供したことがなかったデザートのフルコースを期間限定で提供することにしたのです。
では、エルメ氏が創り出すデザートのフルコースとはどのようなものでしょうか。
デザートのフルコース
ホテルニューオータニの公式サイトには以下のように説明されています。
これまでアフタヌーンティーを提供したことはありましたが、デザートのフルコースは提供したことがなく、それだけに力を入れています。
高級プレートの代名詞であるベルナルドのプレートをこのためだけに新しく用意したり、シェフ パティシエのパトリック ティボー氏などパティシエが目の前でデザートを作り上げたり、1日20名限定にして十分なクオリティを保てるようにしたりしているのです。
フルコースにした理由
しかし、「世界の最優秀パティシエ賞」受賞記念で、どうして単体のケーキなどではなく、このように手間を要するデザートのフルコースにしたのでしょうか?
この回答として広報マネージャー岩崎州彦氏は「特にピエール・エルメ・パリのファンの方に喜んでいただける企画を考えていたので、これまでご提供したことのなかったものをご提供したかった。デザートのフルコースで、エルメ氏の世界観を多面的に感じてもらえたら嬉しい」と説明します。
さらには、「普段はご提供することのないレシピから抜粋し、他では絶対に食べることのできないデザートの数々に仕上がっている」と力を込めます。
デザートのフルコースのメニュー
では、メニューはどのようになっているのでしょうか?
抽象画家「ピカソ」と呼ばれているように、エルメ氏のデザートはその名前からは全く想像がつきません。
- Amuse-bouche
秋月に舞う 情熱のタンゴ 黒胡麻のサブレと紅いコンポート パルメジャーノの旋律
月明かりのマカロン 白トリュフとヘーゼルナッツの奏で
山紫水明の甘美 トマトのフイユテとオリーブオイルのクリーム 苺とトマトのセッション
- Entree
流麗なレモンの調べ スープ仕立て
響き合うシューの三重奏 ヘーゼルナッツと軽やかなミルクショコラ レモンのバリエーション バニラ、カシス、スミレのコントラスト
- Plat
~ノルウェーの碧い海から~ サーモンの72時間マリネ アネットの清らかな香り 燻製サーモンのアイスクリームとパンプルムースとの調和
- Dessert
クロエ・ドゥートレ・ルーセルの哲学とショコラのアンソロジー ‘‘詞華集’’ マンジャリショコラの回廊に映るラズベリーの交歓
クープに包まれた ‘‘イスパハン’’ 薔薇とライチが織りなす永遠の優美
- Mignardises
3種の小菓子 ボンボンショコラ サブレ マカロン
- Cafe ou The
ブラジルコーヒー ‘‘イアパール ルージュ デュ ブレジル’’
または
紅茶 ‘‘ピエールの庭園’’
アミューズ、前菜、メインディッシュ、デザート、小菓子まで、本当にフランス料理のコースと同じ構成をとっています。デザートのフルコースで、メインディッシュが提供されたり、そのコースの中でもデザートがあったりと、大変興味深い流れです。
ピエール・エルメ・パリ 青山が休業
「ピエール・エルメ・パリ 青山」は、ピエール・エルメ・パリの日本初の路面店として、2005年2月にオープンしました。1階にあるブティックのコンセプトは「ラグジュアリー・コンビニエンスストア」で中央のアクリルケースに並んだスイーツを自由にバスケットにとって楽しめるようになっています。2階にあるバー・ショコラはシックで高級感のある雰囲気で、パーティーも行われたりしていました。
多くの人に愛され、青山通り沿いにあるスイーツショップの代表となるまでに至りましたが、店舗改装のため2016年10月上旬から12月中旬まで一時休業する予定となっています。リニューアル後はエルメ氏が表現する「味覚・感性・歓喜の世界」を五感で体験できる空間を目指すということですが、日本人に、マカロンで新たな味覚を知らしめ、イスパハンで未知の感性を呼び覚まし、そしてデザートのフルコースでファンを問わずスイーツ好きを歓喜させるエルメ氏が、新たにオープンする青山店で、どのようにしてこれまで以上の「味覚・感性・歓喜」を体験させてくれるのか、稀代の天才パティシエが考えることは全く想像できません。
元記事
レストラン図鑑に元記事があります。