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新宿NEWoMan(ニュウマン)にデザートバーをオープンした天才ジャニス・ウォンとは誰なのか?

東龍グルメジャーナリスト
JANICE WONG

アジアのベストレストラン50

2ヶ月程前のことになりますが、2016年2月29日にバンコクで、2016年の「アジアのベストレストラン50」が発表されました。

見事1位に輝いたのは、2015年に引き続きバンコクのインド料理店「Gaggan(ガガン)」でしたが、2位には日本から「NARISAWA」が選出されました。

  • 2位(昨年2位)「NARISAWA」(青山一丁目)
  • 5位(昨年4位)「日本料理 龍吟」(六本木)
  • 11位(昨年14位)「ハジメ」(肥後橋)
  • 16位(昨年12位)「レフェルヴェソンス」(西麻布)
  • 20位(昨年49位)「カンテサンス」(北品川)
  • 24位(昨年33位)「TAKAZAWA」(赤坂)
  • 26位(昨年40位)「鮨 さいとう」(六本木)
  • 31位(-)「ラ メゾン ドゥ ラ ナチュール ゴウ」(西中洲)
  • 37位(-)「傳」(神保町)
  • 42位(-)「菊乃井本店」(東山)

上記に加えて、「音読せよ、ミシュランガイド東京2016」でも紹介した神宮前の「フロリレージュ」が「注目のレストラン賞」を受賞し、「カンテサンス」が「ハイエスト・クライマー賞」を受賞しました。

「注目のレストラン賞」は部門賞の中で唯一ランキング外のレストランを対象としています。近いうちにトップ50に入る可能性が高いと予想されているレストランが選ばれることが多いので、受賞した「フロリレージュ」はますます注目されることでしょう。

日本のレストランがたくさんランクインしたり、受賞したりしたことで、2016年「アジアのベストレストラン50」は、日本で好意的に受け止められました。

食の専門家による投票

ところで、この「アジアのベストレストラン50」とは何でしょうか。

「アジアのベストレストラン50」は、「世界のベストレストラン50」から派生した賞で、2013年に開始されました。「世界のベストレストラン 50」は世界中の900人以上にもおよぶ食の専門家の投票によって決定されますが、「アジアのベストレストラン50」はアジア人の投票によってアジアのランキングを決めようと設立されたのです。300人以上の食の専門家が投票して、ランキングを決めています。

この「アジアのベストレストラン50」は大きなアワードということで開始以来とても注目されていますが、実はレストランだけではなく、パティシエにも焦点が当てられているのです。

アジアの最優秀パティシエ賞

JANICE WONG DESSERT BAR(NEWoMan 新宿)
JANICE WONG DESSERT BAR(NEWoMan 新宿)

パティシエに関しては、パティシエ本人やパティスリーをランキング付けをしているのではなく、「アジアの最優秀パティシエ賞」ということで、その年で最も活躍したパティシエ1人を選出しています。日本人では、2000年にアジア人初のルレ・デセールの会員となった「イデミ・スギノ」の杉野英実氏が2015年に受賞しました。

2016年は、シンガポールのチェリル・コウ(Cheryl Koh)氏が受賞しています。チュリル氏はシンガポール生まれで、香港のミシュランの星付きレストランで修行し、シンガポールに「タルト・バイ・チェリル・コウ」を2015年4月にオープンしました。伝統的なスイーツに独創性を加えたスイーツが評価されています。

実はこのチェリル氏と同じシンガポール出身のパティシエで、2013年と2014年の2年連続で「アジアの最優秀パティシエ賞」を受賞した女性パティシエ(パティシエール)がいます。それは、ジャニス・ウォン(Janice Wong)氏です。

アジアで最も注目される女性パティシエ

ジャニス・ウォン(Janice Wong)氏
ジャニス・ウォン(Janice Wong)氏

2007年、ジャニス氏は若干24歳の時に、シンガポールで夜中まで営業し、女性でも安心して利用することができるデザートバー「2am:dessertbar」をオープンし、それ以来、アジアで最も注目されているパティシエのうちの1人となっています。自身が生み出すスイーツを「食べられるアート(edible art)」と表現する通り、ジャニス氏が生み出すアシェットデセール(皿盛りデザート)やショコラはどれも、デザインも色使いも芸術的であり、人々の関心を引きます。

その美しい見た目からは味を全く想像できませんが、実際に食材の組み合わせは非常に前衛的で想像がつきません。トリュフやマスタード、フライドポテトをデザートに合わせたり、味噌やミョウガ、きな粉や紫蘇梅酒、さらにはタケノコまでと、現在の世界的な和食ブームの常識の域を超えるほど、和素材を幅広く用いています。

このように新しいデザートを創造するジャニス氏が2016年4月15日、本人の名前をつけた「JANICE WONG(ジャニス・ウォン)」をここ日本の東京・新宿にオープンしました。

どういったデザートバーなのでしょうか。

日本にデザートバーをオープン

レモンエスクプロージョンとグァバソルベ
レモンエスクプロージョンとグァバソルベ

「JANICE WONG」はコの字型のカウンターを店内の中央に据え、目の前でアシェット デセールを作り上げるライブ感溢れるスタイルを採っています。これは、客がどのようにデザートを楽しむか知り、よりよい体験を提供できるようにする、ジャニス氏の哲学なのです。

同じようにカウンターでの実演をウリにするようなスタイルとしては、以下のデザートレストランがあります。

  • 2007年3月30日「トシ ヨロイヅカ ミッドタウン」(六本木)
  • 2010年4月5日「デセール ル コントワール」(自由が丘)
  • 2012年3月3日「アトリエ コータ」(神楽坂)
  • 2014年12月6日「カルムエラン」(神楽坂)

※年月日はオープン日

料理と比べるとデザートの場合には、カウンターを通して、客の目の前で調理するスタイルを標榜するところは少ないです。というのも、カウンタースタイルはアシェットデセールが対象になりますが、そもそも日本ではアシェットデセールがまだあまり一般的ではなく、目の前で作ってもらえるアシェットデセールの需要がそれほど高くないからからです。一般的に、デザートを食べると言えば、パティスリー、および、チェーン店やコンビニなどでプティガトーを購入して食べるというイメージが強いのではないでしょうか。

こういった状況の中で、ジャニス氏がカウンタースタイルを採用したことは、とても意欲的であると言えます。

デザートコースも提供

ポップコーン
ポップコーン

「JANICE WONG」ではカウンターで作るアシェットデセールを何種類も楽しめるデザートコース「Dessert degustation 5 JANICE WONG SPECIAL」も提供しています。どれもがジャニス氏の代表的なデザートであり、アラカルトで注文するよりもお得な値段となっています。またこちらのデザートコースにしかないアシェットデセールもあるのは見逃せません。より楽しめるようにと、5種類のお酒がついた「酒(アルコール)ペアリング 5グラス」や3種類のお茶がついた「ティー(ノンアルコール)ペアリング 3グラス」を合わせることもできます。特にお酒とのペアリングはジャニス氏も力を入れているので、これからの展開も期待されるところでしょう。

デザートコースを提供しているデザートレストランは先の「アトリエ コータ」「カルムエラン」に加えて以下があります。

  • 2007年9月1日「ミラヴィル インパクト」(銀座)
  • 2013年7月21日「セシル エリュアール」(神楽坂)
  • 2015年7月8日「KIRIKO NAKAMURA」(白金台)※1年間限定

※年月日はオープン日

日本では、「甘党の男子」がようやく認知されてきたものの、いまだに甘いものは女性と子供が好きなものというイメージがあるだけに、デザートコースを提供しているレストランもまだまだ少ないです。

従って、先のカウンタースタイルと同じように、デザートコースを提供することも、とても意欲的な試みであると言えるでしょう。

アシェット デセール

京都庭園
京都庭園

カウンタースタイルやデザートコースもよいですが、ジャニス氏の真骨頂はやはり、独創的なアシェットデセールそのものです。

デザートコースからご紹介しましょう。アミューズ ブーシュとして供される「レモンエスクプロージョンとグァバソルベ」は、前者はその名前通り、口中でパチパチと弾けるお菓子を入れており、立ち上がりに食べるには相応しい目の覚める一品です。2皿目の「ポップコーン」は甘味も塩味もどちらとも合うということで、一皿でそのどちらの味も楽しめる工夫を施しています。3皿目の「ミソマスタード」は赤味噌とマスタードを合わせたのもデザートでは面白い取り合わせですが、さらにレモンが関わっているところが新しいでしょう。4皿目の「バラとベリーパンナコッタ、ライチ風味」は液体窒素で凍らせたフランボワーズを、目の前で注いでくれる演出があります。

カシスプラム
カシスプラム

アラカルトにも驚きがたくさんあります「カシスプラム」は日本の花見をイメージしたデザートで、作るのが大変なので1日に10皿も出せないスペシャルメニューです。カシスピューレとホワイトチョコレートで作られた、かたいエキゾチックな球も魅惑的ですが、その周りに散らされている赤い小さなキューブに注目したいです。これはタケノコを煮詰めたコンフィのようなもので、ジャニス氏が日本の春の食材であるタケノコを何とかデザートに使いたいと考え、大手加工食品メーカーに頼み、10人もの開発者に協力してもらって、思う通りの味と食感を実現したものなのです。

「京都庭園」はピスタチオの緑で庭園をイメージして美しい色合いをしています。和食材であるミョウガが使われていますが、他ではなかなか見掛けられないでしょう。「フライドポテトとトリュフメレンゲを添えたチョコレートケーキ」はフライドポテトを合わせたのがユニークですが、ジャガイモと相性のよいトリュフの香りがメレンゲに忍ばせているのは、さらに驚かされます。オーソドックスなチョコレートケーキでも、フライドポテトとトリュフを合わせることによって、全く新しい体験となるのです。

ジャニス氏の原体験

フライドポテトとトリュフメレンゲを添えたチョコレートケーキ
フライドポテトとトリュフメレンゲを添えたチョコレートケーキ

世界的に活躍しているジャニス氏ですが、実際のところ自身の名前がつけられた店は今回が初めてでした。それだけに「JANICE WONG」のオープンを心から喜んでおり、10年を目処にもっと「JANICE WONG」ブランドやコンセプトを広めていき、世界のデザートによい影響を与えていきたいと話しています。また、年4回のメニューを新しくするタイミングで、本人もその都度、日本へ長期滞在し、カウンターの中で自らサービスを行う予定です。

ジャニス氏は世界的に名門な料理菓子専門学校「ル・コルドン・ブルー」を卒業していますが、実はアジアで最高ランキングを獲得しているシンガポール国立大学も卒業した、頭脳明晰で頭の切れる女性です。シンガポールを拠点としていますが、父親の仕事の関係で7歳まで日本で暮らしていました。「日本語は忘れたが、日本の味は覚えている」と語っているように、こういった原体験が、和食材の使い方を巧みにしているなのではないかと私は考えています。

また、以前私が横浜でコラボレーションを行った時に、数時間前の連絡でも駆けつけて来てくれたことがありました。小柄で可愛らしいですが、フットワークが軽くてどこへでも足を運ぶ様子を見ていると、興味がないものはないといっても過言ではありません。常に自身を成長させていきたいという向上心があり、あらゆるものに関心を持ち、必ず何を吸収する好奇心の持ち主なので、既存の枠に囚われない独創的な組み合わせが閃くのではないでしょうか。

女性のために

ショコラ
ショコラ

「JANICE WONG」がオープンした場所は、JR線の新宿駅南口開発の目玉として大きく脚光を浴びている複合ビル「NEWoMan(ニュウマン)」の2階であり、新南口改札の並び、甲州街道沿いという極めて恵まれたところです。

この「NEWoMan」のコンセプトは「あたらしい時代を生きる、すべてのあたらしい 女性のために」であり、以下のようにメッセージを発信しています。

あなたには、一生輝き続けてほしいから。世界中からよりすぐった上質な体験だけを集めました。ファッションだけではなく、ライフスタイル、ビューティ、ヘルス、フード、カルチャーといったジャンルを横断して、あなたの毎日に新しいインスピレーションを届けられるように。だれもが新しい希望を心に宿して、また明日を始めることができる。そんなラインナップでご来店をお待ちしています。

出典:NEWoMan

「NEWoMan」をオープンするにあたり、女性に上質な体験を提供でき、甲州街道沿いの一等地へ入居するに相応しい店を探していたルミネは、ジャニス氏に出店しないかと打診して承諾を得ました。女性の活躍に焦点が向けられている今の日本で、日本にゆかりがあり、今最も輝いているといってもよい女性であるジャニス氏が、日本の中心地である新宿に世界最先端のデザートバーをオープンしたことは、スイーツファンを喜ばせるだけではなく、日本全体を元気づけることになるのではないかと、私は大きな期待を寄せています。

その他

詳しくは公式サイトをご確認ください。

元記事もご参考にしてください。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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