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海自護衛艦いずも「中国ドローン撮影」疑惑 SNSへの動画はフェイクか本物か 酒井海上幕僚長に聞いた

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海自最大の護衛艦いずもをドローンで撮影したとする映像(筆者が画面をキャプチャー)

海上自衛隊横須賀基地(神奈川県横須賀市)に停泊中の護衛艦「いずも」をドローンで撮影したとされる動画がSNS上で拡散され、その真偽が取り沙汰されている。海自トップの酒井良海上幕僚長は4月2日の記者会見で、「これが本当にドローンから撮影されたものなのか、もしくはフェイクとして偽造されたものなのか、現在確認をしている段階だ」と説明し、「従って、いずもの撮影と称する動画についての直接のコメントは控えさせていただきたい」と述べた。

そして、「不自然な点はあると思うが、それを持って完全にフェイクだというほどのエビデンス(証拠)を持ち合わせていないので、私としても判断をしかねる」と話した。

さらに、基地の警備については「ドローンを発見した場合には、警備上の装備を用いて、操縦者が管制で出す電波等の妨害を行ってドローンを操縦不能にする」「通常であればドローンを操縦する電波等が探知されれば、それなりの対応ができると考えている」と述べた。

中国のSNSに投稿された19秒の映像は、海自最大の護衛艦いずもをドローンで撮影したと主張している。しかし、いつ、誰が、どこで、どのようなドローンで撮影したかは謎のままだ。生成AIやCGで作成されたフェイク動画の可能性も指摘されている。以下がその疑惑動画だ。

そもそも横須賀基地などの防衛施設上空でドローンを飛ばすことは、法律で禁じられる行為だ。

酒井海幕長の会見に先立ち、木原稔防衛相も2日の記者会見で「悪意をもって加工、捏造(ねつぞう)されたものである可能性を含め、現在分析中だ」と述べた。

筆者もこの動画を初めて見た段階から、まがい物、つまりフェイクではないかと疑ってきた。いくつか理由があるが、一番おかしいかなと感じたのは、風による甲板上の自衛艦旗(船尾)と国旗(船首)のなびく方向と波が揺れ動く方向が不一致であることだ。確かに水面と甲板の高低差があるもの、明らかに不自然だ。旗は画面向かって左上から右下になびいているのに対し、波は左下から右上に向かっているように見える。

波が揺れ動く方向はオレンジ色の矢印のように左下から右上へ。これに対し、甲板上の自衛艦旗(船尾)と国旗(船首)のなびく方向は水色の矢印のように左上から右下へ。(動画のスクリーンショットを元に筆者が作成)
波が揺れ動く方向はオレンジ色の矢印のように左下から右上へ。これに対し、甲板上の自衛艦旗(船尾)と国旗(船首)のなびく方向は水色の矢印のように左上から右下へ。(動画のスクリーンショットを元に筆者が作成)

この他にも日中時間帯の横須賀基地のわりには人も車も見られない。

また、船尾甲板にはいずもの艦番号183のうち、下二桁の83が記されているはずだが、8のみが見られ、3が見られない。

この点について、酒井海幕長は「現在、海上自衛隊では飛行甲板上に艦番号は記載しないことを標準としている」と述べた。

朝日新聞が昨年11月27日に掲載した記事中の動画でも、はっきりと83という艦番号下二桁が見ることができる。筆者が83の数字部分を黄色の丸印で囲んだ(筆者が動画映像をキャプチャーして作成)
朝日新聞が昨年11月27日に掲載した記事中の動画でも、はっきりと83という艦番号下二桁が見ることができる。筆者が83の数字部分を黄色の丸印で囲んだ(筆者が動画映像をキャプチャーして作成)

ただ、朝日新聞が昨年11月27日に「洋上にみえた中国海軍の艦 空母化しつつある『いずも』で見た神経戦」と題した記事中の動画では、ロービジ(低視認化)塗装されている中でもわりとはっきりと83という艦番号下二桁が見ることができる。

なお、米海軍横須賀基地広報は4月1日、筆者の取材に対し、今回の横須賀基地での中国ドローン撮影疑惑について、「セキュリティー上、大きな問題になっていない」と述べた。つまり、米海軍も今回の動画をフェイクとみなしている可能性が高い。

【追記:2024年4月3日19時25分】

防衛省海上幕僚監部は4月3日、酒井良海上幕僚長が前日2日に発言した内容の一部を取り消しました。「いずも」の飛行甲板の艦尾に艦番号「83」が記載されているのかとの質問に対し、酒井海幕長は2日の会見で「一般論で申し上げますと、可動中であれば必ず記載されている、ペイントされているものです」と答えました。しかし、海上幕僚監部は3日、「現在、海上自衛隊では飛行甲板上に艦番号は記載しないことを標準としているため、上記発言については取り消させていただきます」と防衛記者会所属者や2日の記者会見参加者に連絡しました。これを受け、拙稿の本文も訂正しました。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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