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「分断した日本」安倍氏国葬。米英メディアは「反対派」をどう報じたか?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:西村尚己/アフロ)

27日、安倍晋三元首相の国葬が執り行われた。アメリカをはじめとする海外メディアも、この国葬について報じた。

国葬の時間はアメリカ東部時間(EST)の真夜中だったため、国葬を取り巻くさまざまな報道が行き交ったのは翌朝だった。ニュースには、国葬を巡る「日本の分断」の問題が散見された。

「日本社会を真っ二つにした日」BBC

英BBCはShinzo Abe: A divided Japan bids farewell to its slain ex-PM(安倍晋三:分断された日本が殺害された元首相に別れを告げる)という見出しで、着物の喪服姿の昭恵夫人がお辞儀をしている写真と共に報じた。

「安倍元首相は国外で高く賞賛されたが国内では(評価が)分かれる人物で、国葬は大きな論争を巻き起こした」とし、会場の外での「騒々しい怒りのデモ」を引き起こしたとした。

「安倍氏の死後、多くの国民は安倍氏が日本に安定と安心を与えてくれたことに気付いた」「献花台に並ぶ人の列は3kmをはるかに超えた」と説明しながら、16億6000万円の国葬費用に激怒し「安倍氏はその栄誉に値しない」というデモ隊の声を拾い、「日本社会を真っ二つに切り裂いたような日だった」「複雑でしばしば分断的とされる安倍氏の遺産の象徴のようだった」と説明。

また、「国葬反対派の多くは年配の人々」「安倍氏の支持者の多くは若い世代」とも紹介している。

「年配の人々は『平和主義』憲法を支持し、多額の軍事費に反対してきた。それを憲法で変えようとしたのが安倍氏であり、戦争の記憶に悩まされていない世代は、日本の領土に対する中国の攻撃的な主張に反応している」

海外の要人については、「アメリカやオーストラリアなど世界の要人が参列したことや、エリザベス女王の国葬を欠席したインドのナレンドラ・モディ首相も参列したことは(安倍氏がそれほどの人物だったことを表し)驚きに値しない」とした。また「安倍氏は常に中国からの脅威の高まりを警戒していた。それは同盟国が抱いている懸念でもあり、(国葬に参列したこれらの要人は)安倍氏が時代をはるかに先取りしていたことを認識しているだろう」と分析した。

「生前と死後、日本の世論を二極化させた」ワシントンポスト

米ワシントンポストもA divided Japan sends off Shinzo Abe, its polarizing former leader(分断された日本が世論を二分した元指導者、安倍晋三を見送る)と、BBC同様に「分断」という単語を使った見出しで、安倍氏について「生前と死後、日本の世論を二極化させた人物」と報じた。

反対派の動きとして、「何千人もの人々がデモ行進し、16億6000万円の国葬費 — インフレの上昇と政府による十分な説明がなされなかったという扱いにくい問題 ― に抗議」「安倍氏と統一教会の関係を巡るスキャンダルが拡大し、抗議者の不満を増幅させている」と説明した。

この記事に関する読者のコメントは14件に留まっている。1100を超えるコメントがついている韓国の尹大統領の米議員への侮辱発言記事と比較しても、14件は少ない方と言える。

読者からのコメントとして、以下のような意見が上がっている。

「この記事は、何千人もが献花台に列を成して花を捧げ、安倍氏に敬意を表した事実を故意に無視している」「エリザベス女王の国葬と比べると昼と夜の真逆のコントラストのようで、多額の費用がどこに使われたのかまったく見えなかった。ちょっとした工夫で刺激を与えることができるのに、会場は高校の体育館のようで華やかさに欠け、とても退屈気が滅入る雰囲気で、記憶に残るものとは程遠い。同時通訳用イヤフォンは見えず、外国の要人は退屈そうだった。男性ばかりで女性の参列者の少なさも目立った」

「世界の要人、そして抗議者が集結」WSJ

米ウォール・ストリート・ジャーナルはShinzo Abe State Funeral Draws World Leaders, Protesters(安倍晋三の国葬に世界の要人、抗議者が集結)という見出しで、「何千人もが国葬に抗議する一方、世界の要人が日本でもっとも長く在任した元首相に敬意を表した」と報じた。

同紙は国葬自体について、「エリザベス女王の豪華な国葬とは対照的に、安倍氏の国葬は式典への長い行列や大規模な軍事展示を特徴とせず、祝日でもなかった」と紹介した。

安倍氏については、「自由で開かれたインド太平洋という言葉を作り出したのは彼だった。この原則は日米同盟を形成する絆の一部であり、我々は支持する」と、安倍氏の功績を称える参列者の1人、米ハリス副大統領のコメントに触れた。

「日本では滅多にない政治的安定をもたらし、国際的な知名度を上げた」人物としながらも、「彼個人の支持率は決して高くなかった」とも説明。

献花に訪れた一般市民の声として、賛否両方の声を拾った。「もっとも尊敬する政治家。隣国との困難な関係への対処など、日本がただの敗戦国のままにならぬよう懸命に働いてくれた」「日本に人生を捧げてくれた人物にせめて花を捧げたい」など支持派の意見を拾った一方で、安倍氏が推し進めていた憲法改正について「抑止のためだと言ったが軍事費が無制限に増やさざるを得なくなる」とする、デモ参加者の声も紹介。また「事件後に明らかになった、安倍氏および自民党と統一教会との関係は、岸田政府に対する感情を悪化させ、国葬への反対を強めた」とした。

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(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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