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安倍元首相「暗殺」と一面で報じた米メディア 同盟国アメリカの受け止めは?

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
翌朝のニューヨークタイムズの一面(スクリーンショットは筆者が作成)。

安倍晋三元首相が亡くなった。

筆者は米東部時間7日の午後10時半すぎ、ふと見たツイッターで「Shinzo Abe」という文字がトレンド2位にあることに気づいた。タイトルを見ると「Japan’s former prime minister Shinzo Abe shot during campaign…」と書かれてあった。‘shot’という文字が目に飛び込んできたが「shot(銃撃)?」と、やや頭が混乱した。アメリカ全土では銃撃や乱射の事件が多発しているが、日本でshotとは? まさか…と思いながらクリックしたが、その「まさか」が起こっていた。

そこには、安倍元首相が何者かに撃たれたという速報やツイートが続々と流れていた。ほどなくして、日本好きの友人からもメッセージが届いた。彼はNHK Worldを観ていたら速報に切り替わり、事件を知ったという。日本であまり起こらない大事件にショックを受けているようだった。

翌朝目覚めた筆者は、祈る気持ちでツイッターを開いたら‘Rest In Peace’がトレンド入りして、安倍氏の死を知った。ニュースフィードの一面は、その一報で溢れていた。ツイッターではほかにも「RIP Abe」「PM Abe」がトレンドワードになり、「Japan」がアメリカのトレンド1位となった。

8日朝、このニュースはツイッターのアメリカのトレンド1位に(スクリーンショットは筆者が作成)。
8日朝、このニュースはツイッターのアメリカのトレンド1位に(スクリーンショットは筆者が作成)。

アメリカの同盟国である日本のリーダーとして長きにわたり友好関係を構築、尽力してきた人物の、しかも選挙活動中の殺害事件は、止まぬ銃犯罪に頭を悩ませ、同じく民主主義を重んじるアメリカ社会をも大きく震撼させた。

日系アメリカ人の友人からは聞かずとも、筆者の下にこのようなメッセージが来た。「PM Shinzo Abeの暗殺というショッキングなニュースを今しがた、CBSやCNNで知ったわ」「とてもひどい、悲しいこと!」「銃の写真はハンドメイドに見えるわね。日本で銃の購入は非常に困難だから、自分で作ったんでしょうね」「日本は犯罪率が低く、特に銃を使った暴力事件数は少ないって聞いているから、本当にショッキング」。また、普段連絡がこない知人からも、日本に対してのお悔やみメールが届いている。人々の日本に対するリアクション(衝撃)は、東日本大震災の時と似ている。

米メディアは軒並み「暗殺」と報じる

友人が言った‘Assassination’。暗殺というこの言葉でNBC、FOX、CNN、NPR、ニューヨークタイムズ、ワシントンポストなど各主要メディアが殺害事件を報じている。意味を広辞苑で調べると「ひそかにねらって人を殺すこと。多く、政治的に対立している要人を殺すこと」とある。英語の意味をケンブリッジ辞書で引くと、同様に「有名な人や重要な人を殺害すること。特に政治的な理由もしくは金銭と引き換えに」とある。

まだ容疑者の動機については捜査の段階で不明だが、「政治信条に対する恨みではない」とする日本の報道もある一方、何らかの理由で「殺そうと思って狙った」と殺害の意思があったことも示されている。動機の解明が待たれる。

「安倍晋三、日本の元リーダーが即席兵器で男に暗殺された」という見出しの、ワシントンポストの一面。(スクリーンショットは筆者が作成)。
「安倍晋三、日本の元リーダーが即席兵器で男に暗殺された」という見出しの、ワシントンポストの一面。(スクリーンショットは筆者が作成)。

また多くの記事では、安倍氏を紹介する枕詞として「日本でもっとも長く務めた首相」という言葉が使われている。日本の首相は頻繁に変わるという印象がアメリカにはあり、ヨーロッパやカナダなどの近隣国のリーダーに比べて知名度が上がらないことが多いが、安倍氏は8年8ヵ月もの間、日米の友好関係に貢献してきた人物として、一般市民の間でも割と知名度が高い方だと思う(辞任後も今だに筆者は『同じ苗字だね』と指摘されることが多く、知名度の高さを肌感覚で感じてきた)。

安倍氏の逝去を報じたニューヨークタイムズは、「アベノミクスによって経済の立て直しに貢献したが、戦後の平和主義を貫いてきた日本の軍備を正常化するという彼にとってもっとも重要だった目標には達しなかった」と報じた。また「戦争犯罪で訴えられた祖父を含む、厳格なナショナリストの政治家一族に生まれ、連続でもっとも長く首相を務め上げ日本をリードし、歴史を作った」とも評された。

USAトゥデイは、「日本経済の再建に貢献したが、タカ派の軍事思想でリベラル派の逆鱗に触れたリーダーとして、二極化した遺産を残した人物」と報じた。

翌朝のUSAトゥデイの一面(スクリーンショットは筆者が作成)。
翌朝のUSAトゥデイの一面(スクリーンショットは筆者が作成)。

日本でめったに起きない銃撃事件が発生し、日本社会に与える影響についてフォーカスした記事も散見される。

「銃規制が厳しいことで知られる日本は、世界でもっとも殺人率が低い国の1つ。AP通信によると、人口が1億2500万人以上にも拘らず、日本は昨年、銃による犯罪件数がわずか10件だった」(USAトゥデイ)

「この暗殺は、銃のほぼない日本に衝撃を与えた」「日本ではどんな形態の暴力も(アメリカに比べて)珍しく、銃による暴力はほとんどない(に等しい)。銃の関連事件の死者は昨年は1人だけで、17年以降も14人。1億2500万人が住む国としては非常に少ない数字」。よって「政治イベントでの警察の警備は手薄く、選挙期間中、有権者は国のトップと交流する機会がたくさんある」(ニューヨークタイムズ)

ニューヨークポストは安倍氏が凶弾に倒れる瞬間を左斜め前から捉えた動画を掲載し、「警備が誰も安倍氏の後ろを見ていない。悲劇的。彼はいい人だった」「とてもショック。悲しいことに、私たちは愛すべき世界のリーダーを失った」とする一般の人々のツイートを紹介した。

  • アメリカの要人の警備は厳しい。屋外での選挙活動では、囲いを設け、来場者の身体検査と持ち物検査を徹底している。オーサーコメント

米要人も次々に哀悼の意

バイデン大統領は8日、日本の元リーダーの死に哀悼の意を表した。

「友人の安倍晋三元首相が射殺されたというニュースを聞き、私は愕然とし、憤慨し、深く悲しんでいる。 彼は私たちの人々(2国間の国民)の友情のチャンピオンだった(友情の証という意)。米国はこの悲しみの時に、日本と共にある」

安倍氏と言えば長い在任中、国際舞台で元大統領のオバマ氏やトランプ氏とも深い関係性を築いたことで知られる。

世界的リーダー同士で、トランプ前大統領とは一貫して緊密な関係を築き維持してきた数少ない1人と言われることが多い安倍氏。訃報に際し、トランプ氏は自身のソーシャルメディア、TRUTH Socialで、このように表明した。

心肺停止が伝えられたアメリカ時間昨夜の時点:

「本当に素晴らしい人物でありリーダーである安倍晋三前首相が銃撃され、非常に深刻な状態だというとんでもないニュース。彼は私の真の友人であり、さらに重要なことはアメリカにとってもかけがえのない友人だった。これは、彼を賞賛する日本の素晴らしい人々にとって大きな打撃だ。晋三と彼の美しい家族のために私たちは皆祈っている!」

アメリカ時間翌朝、死去の報に際して:

「世界にとって本当に悪いニュース!安倍晋三元首相が亡くなった。彼は暗殺された。捕まった殺害者は迅速かつ厳しく処罰されますように。安倍晋三が本当に素晴らしい人物であり素晴らしいリーダーだったことを真に知っている者はそんなにいないが、歴史がそれを教えてくれるだろう。彼はほかに類を見ないユニファイア(人々を統一するリーダー)で、何よりも彼の壮大な国、日本を愛し、大切にした男だった。安倍晋三(の死)は大いに惜しまれるだろう。彼のような人物はもう二度と現れないだろう!ドナルド・J・トランプ大統領」

こちらには現在、6万を超える「いいね」が寄せられている。

大統領時代には安倍氏と広島や真珠湾の追悼イベントを共に表敬訪問したオバマ氏も、安倍氏の死を悼んだ。

2016年5月27日。
2016年5月27日。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

「友人であり長年のパートナーである安倍晋三が暗殺されたことにショックを受け悲しんでいる。安倍元首相は、彼が仕えた国、日本と日米両国の同盟のため、並大抵ではない献身をした」「同盟を強化するために我々が行ったこと、広島と真珠湾を共に訪れた感動的な体験、そして彼と妻の安倍昭恵氏が私と妻のミシェルに示した優しさを、私はいつまでも忘れない」「ミシェルと私から、痛ましい出来事に非常に心を痛めている日本の人々に向け、心から哀悼の意を表明する」

過去記事

2016年11月、当時首相だった安倍氏は、次期大統領に選ばれたトランプ氏にどこの国のリーダーよりも早く挨拶するため、トランプタワー(トランプ氏のニューヨークの自宅)を訪れた。

次期駐日大使にトランプの長女、イヴァンカ・トランプが浮上。その噂について現地の声を聞いた

(内閣総理大臣辞任発表の2020年8月)

ボルトンも賞賛!安倍首相に米各紙は「トップが頻繁に交代する国で功績」「達成できず」と評価入り乱れ

「心がザワザワ」米大統領、各国首脳陣など11名から安倍首相へ寄せられた贈る言葉(NYの声も)

  • 日米を行き来する機会がある筆者にとっても、日米の友好関係は重要だ。同盟国のリーダーとして長きにわたって尽力された安倍晋三元首相の功績を讃えると共に、ご冥福を心からお祈りいたします。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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