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2022年出生率が2005年と同じ1.26というが、同じ割合でも生まれる数は30万人も減った

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:イメージマート)

出生率と出生数

6月1日に厚労省の人口動態調査の2022年(概数)が発表された。あくまで概数なので確定報ではない点はご注意いただきたい。

それによれば2022年の出生数は77万747人となり、既報の速報値79万9728人より3.6%ほど少なくなったが、毎年速報との誤差は3-4%なので想定の範囲内だろう。

2022年の合計特殊出生率は1.26となり、前年の1.30より低下しているが、ニュースではこれを「2005年以来の過去最低出生率」「17年ぶりの低水準」などと相変わらず無駄に煽って報道している。

そもそも最近メディアも含めて、合計特殊出生率ばかりが取りざたされる。「人口置き換え水準の出生率が2.07だからそれを目指さなければならない」などという人もいるが、目指すも何も到底実現できないレベルの数字である。

日本では2.07を最後上回ったのは、1973年のまさに第二次ベビーブーム期である。逆にいえば、あの規模のベビーブームが来てようやく達成する数字なのであって、今の時代、到底不可能であることはわかるだろう。

また、2005年と同等の1.26の出生率になったことだけを騒ぐが、1.26に下がったことよりも、もっと深刻なのは出生数そのものの減少の方である。出生率が同じだからといって出生数が同じになるのではない。

30万人も減った出生数

1.26とはいえ、2005年の出生数は106万2530人もあった。100万人以上も生まれていたのだ。一方、同じ出生率1.26でも2022年は前述の通り約77万人しか生まれていない。約27%も減少している。人数にして約30万人も減ったことになる。

なぜそんなことになるかといえば、出生率はその計算の分母である15-49歳女性の人口の増減によって変化するからだ。30万人も出生数が減っているのに、出生率が同じであるのは、15-49歳の女性人口も減っているからに他ならない。

なぜ減っているかといえば、この年代の女性が生まれた時期に本来来るはずだった第三次ベビーブームが来なかったからである。丁度1990年代末から2000年代初頭にかけての時期だ。

この時点で今の低出生数は確定された未来であって、毎年のように「出生数がまた減少」などと大騒ぎする話ではない。そんなことは少なくとも25年以上前には決まっていた話だ。

つまり、これこそが私の言っている「少母化」なのである。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

そもそも、子を産む、文字通りの母数が減っている以上、今後出生数が増える見込みはないのである。言い換えれば、今後多少出生率が1.4だの1.5にあがったところで、出生数自体は減り続けるだろう。

出生減は女性人口減による

2005年と2022年とで、出生数および20-39歳の女性人口の増減を、2005年を1として比較してみたのが以下のグラフである。対象を20-39歳にしたのは、出生数のうちその93%以上がこの年齢層による出産だからだ。

ご覧の通り、出生数は2005年から2022年にかけて約27%減、20-39歳の女性の人口は約28%減で、ほぼ一緒である。出生数は単純に女性の人口が減った分だけ減っていることになる。

むしろ、2005年以降、出生率が多少あがったのは、女性人口の減り幅以上に出生数の減り幅が少ないためで、これは結婚した女性は、2005年以上に一人当たり多くの子を産んでいることになる。

それは出生順位別の合計特殊出生率構成比を比較すれば明らかである。

同じ全体の出生率が1.26でも、2005年と2022年を比べれば、第2子割合はほぼかわらず、第3子の割合は2022年の方が高い。これは2022年の方が一人当たりの母親が産む第3子以上の割合が多いことになる。

これは1995年、2019-2021年の分布と比しても明らかで、2005年だけ特に第3子以上の出生率が極端に低いが、それ以外の年はむしろ第3子以降の割合はかわらず、むしろ出生率を下げている最大の要因は「第1子が生まれない」ことにあることがわかる。

それは、とりもなおさず婚姻数が減少しているという意味であり、未婚率が上昇しているということだ。

対策は1人目の子の促進

子育て支援一辺倒になっている政府の少子化対策が的外れなのはここにある。

確かに、2005年の1.26を分析すれば、第3子以降が生まれないことによるもので、2人産んでいる夫婦に3人目の支援は有効だったろう。

しかし、現状出生数も出生率もあがらない要因とは、3人目を産まないことではなく、0→1人が産まれないことである。第1子を産んだ夫婦はかなりの確率で第2子を産むが、第1子が生まれない限り、第2子も第3子も絶対にない。つまり「結婚が生まれないから子どもが生まれない」ということになる。

子育て支援は否定しないが、子どもの数を増やしたいのであれば、ターゲットが違うのだ。

20-39歳の女性の人口は2005年対比で約28%減であるという話は前述した通りだが、同じ20-39歳の有配偶女性人口は約31%減である。絶対人口が減っている上に、さらに未婚率も増えているのだから、新規の結婚が増えて第1子が生まれない限り、出生数が増えることは断じてないと言える。

写真:アフロ

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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