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「2人産んだ母親がもう一人子どもを産めば少子化は解決」などという説の嘘

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

無理なものは無理

毎度、少子化や人口減少について身も蓋もないことを書いていると、「どうすれば改善されるか書け」という声をいただく。しかし、どうしたって改善されないのだから書きようがない。明日、必ず台風が来るとわかっているのに、「明日快晴にできる方法を出せ」と言われているようなものだ。残念ながら、お祈りは管轄外である。

それでも「こうすれば出生数は増える」という説を唱える者がいる。

大変恐縮だが、唱えているのが専門家であろうが大学教授であろうが、すべて間違いである。出生数があがる魔法の政策などは存在しない。何をどのようにしたところで出生数は増えない。それだけは間違いない。

何度も言っているとおり、1985年と比べても「一人以上の子を産んでいる母親の数」は6割も減っている。1985年に100人いた母親が40人に減っているのだ。仮に、1985年の母親が2人の子どもを産んでいれば、200人の子が産まれた。しかし、2020年に40人になってしまった母親で200人の子を産むためには、一人あたり5人産まないとならない。それは無理なのである。

第三次ベビーブームが来なかった時点で、もはや出産可能年齢の女性の絶対人口が減るという「少母化」が確定された。それによって、少なくとも今後何十年に渡って出生数が減ることはあっても増えることはありえないのである。

いい加減、この不可避な現実を直視すべき時だろう。

結婚した女性は2人出産している

結婚した夫婦1組あたりの出生数は長年2人近くあるというデータは、出生動向基本調査の完結出生児数を見ればわかる。これは、決して今の母親が産み控えをしているわけではないというデータでもある。

では、なぜ合計特殊出生率が1.3になってしまうのかといえば、それはこの指標の計算式が未婚女性も分母に含むからである。つまり、未婚が増えれば、この出生率は自動的に下がる。出生数を増やすには婚姻数が増えないとどうにもならないのである。

しかし、それにもかかわらず、鉛筆なめなめした机上の空論で「こうすれば解決できる。婚姻数を増やさなくても出生数はあげられる」などということを唱える論者がいる。曰く「婚姻を増やすのではなく、今子どものいる家庭が平均子ども3人以上になりさえかれば、それだけで出生率は1.95になる」というものだ。

その根拠は、未婚率を35%と仮定し、残りの65%の既婚女性が一人当たり3人産めば、計算上0.65×3=1.95というものらしい。すでに夫婦は2人産んでいるのだから「プラス1人出産」で達成できる実現可能な目標だというが、鉛筆なめなめもここまでくると言葉を失う。

現実はそんな単純な話ではない

これが論外なのは、出産の年齢を全く考慮していないことである。

指標的に15-49歳が出産可能年齢とされているが、現状15-19歳の出産はほぼなく、40歳以上の出産も以前より増えているとはいえ、メインである20-30代と比べれば相当少ない。

何より女性の平均初婚年齢がもはや約30歳になっている以上、そこから3人の出産をするということは大変な事だ。現状1人の母親は2人産んでいるといっても、その2人が年齢的に限界という場合も多い。

写真:アフロ

そもそも、出生数が激減している大きな要因は「第三子の数」ではない。

年間出生数が最後に100万人以上だったのはつい最近の2015年のことである。そこから2020年には約16万人減って約84万人となった。その減少の内訳は、第一子が▲8.5万人、第二子が▲5.9万人、第三子は▲2万人である。マイナス幅がもっとも大きいのは第一子であり、減少分の52%を占める。

つまり、出生数が減っているのは第一子の数が減っているからで、今の既婚女性がどんなに第三子を産もうとしても、そもそも第一子が生まれなければ第三子も第二子も生まれない。当たり前の話である。

そして、第一子の数が減っているということはイコール婚姻数の減少なのである。

母親が第三子を産む可能性

何より出生順位別の限界出生可能性というものがある。

以下のグラフは、結婚した女性が第一子を産む可能性、第一子を産んだ女性が第二子を産む可能性、第二子を産んだ女性が第三子を産む可能性のそれぞれを長期推移で表したものである。

これによれば、結婚した女性のうち平均76%が第一子を産む。第一子を産んだ女性のうち81%が第二子を産む。しかし、第二子を産んだ女性が第三子を産む確率は35%にまで減る。そして、この傾向は最近だけのものではなく、1980年代から40年間も変わらない。

「第二子を産んだ母親全員に第三子を産んでもらえば少子化は解決」などという考えがいかに的外れで実現不可能なことかおわかりいただけるだろう。

もっとも出生数が多かった第二次ベビーブーム期を見れば、第一子と第二子の割合が高い。つまり、全体の出生数をあげるためには、まず第一子の誕生がなければ話にならないのだ。

大体「今の既婚女性が全員もう一人産めばいいんだよ」なんて理屈は、それこそ過去に政治家が失言した「女性は産む機械」と何が違うのだろう。

やってはいけない事をやっている

本当に少子化対策をしたいのなら、子育て支援ではなく、第一子増につながる婚姻増を図らなければ何の効果もない。

写真:アフロ

だからといって、結婚促進なんてものを政策として掲げてできるものではない。官製婚活などいろいろ今までやってきているが、効果があった試しはない。結婚支援のバラマキなども意味はない。

しかし、真に必要なのは、そうした直接的な結婚支援ではない。結婚や出産を躊躇する若者が置かれている環境に真摯に向き合い、何が彼らを諦観させているかの本質を見れば、やるべきことは明確である。

選挙対策的バラマキをして、さらにその財源確保のために国民負担率を増やすことは、むしろ「やってはいけない」真逆の政策なのだ。

台風がやっくることそれ自体は阻止できない。しかし、台風が来てもビクともしない体制を整えることは可能である。的外れなことさえしなければ…。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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