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「異次元の少子化対策」を検証する~子育て支援は出生率に影響するのか?

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「異次元の少子化対策」という異次元性

新春早々、岸田総理の発言に世間の総ツッコミが入った。例の「異次元の少子化対策」というものである。

具体的には、

①児童手当など経済支援強化

②学童保育や病児保育、産後ケアなど全ての子育て家庭への支援

③仕事と育児を両立する女性の働き方改革の推進

の3点を中心に議論を開始するとのこと。

上記①②③とも子育て支援政策としては一定の意味と価値があると評価できるものだが、残念ながら少子化対策(出生数を増やす)という意味では効果はない。

それについて、具体的にエビデンスをもって説明したい。

政府支出が少ない?

まず、よく北欧出羽守界隈が持ち出す「家族関係政府支出のGDP比」が日本は世界と比べて低すぎるから少子化になるんだという論法である。

家族関係政府支出とは、公的な社会保障給付の支出額のうち家族関連に含まれるもので、具体的には、子供手当、寡婦手当、出産・育児休暇手当、保育支援に相当する。それのGDP比である。

OECDの統計によれば、横並びで同年比較ができる最新年の2017年で比較すると、日本は1.59であるのに対し、スウェーデンは3.40、ノルウェー3.24、フィンランド2.87と北欧は高い。フランスも2.88、ドイツは2.33と、こちらも日本よりは高い(単位はすべて%)。

北欧と比べて日本は半分だし、フランスとドイツと比べて日本は低すぎるから、これを他国並みにあげなければならないというのが政府のいう「子ども関連予算の倍増」の根拠だ。

ちなみに、現在の日本の防衛費はGDP比約1%である。

子育て支援は出生率に関係するのか

さて、問題は、この各国が日本より高い家族関係政府支出率があるからといって、本当にそれは出生率や出生数に寄与する少子化対策になっているかどうかである。

もっといえば、子ども関連に予算をつければ少子化が解決するなどという簡単な問題なのかという点だ。

ニュースなどでは上記の数カ国だけの数字が切り取りされているが、実際に、OECD諸国全体で比較してみよう。出生率も政府支出率にあわせて2017年実績としている。

結果は以下の通りである。

相関係数0.0036というのは無相関ということである。つまり、家族関連支出を増やそうが出生率には何の関係もないということがわかる。

細かい指摘をすれば、日本より支出率の低いアメリカはたった0.63%にすぎないが、出生率は日本よりも高いどころか、北欧のノルウェー、フィンランドより出生率は高く、スウェーデンとほぼ同等である。

少なくとも、政府支出率と出生率との間には何の相関もない以上、政府支出率を高めれば少子化対策になるということは言えない。

長期推移でも確認する

そもそも、日本の家族関連支出率が低いというが、それは歴史的に見れば正しくはない。

1980年から2019年までの額関連支出率の推移をみれば、むしろ随分と増大している。

1980年0.46%だったものが2019年には1.73%と4倍弱に増えている。逆にいえば、4倍もコストを増やしたのにもかかわらず、出生率が下がっているというのは、民間の事業計画的にいえば失敗というか効果のない投資となるだろう。

特に、2015年以降だけをみれば、相関係数は▲0.9224である。ほぼ完全なる強い負の相関で、金をかければかけるほど出生率は減っていることになる。

ちなみに、グラフは割愛するが、よく「見習え」といわれるフランスの長期推移相関も検証している。1980年代から現在に至るまで、大体2.8-3%程度ほぼ変わっていない。つまり、たいした相関はない。ハンガリーも同様である。

別に、家族関連支出をなくせと言っているわけではない。それはそれとして必要だが、少子化対策には何も寄与しないという現実をまず知るべきだ。

注力すべきは別の方向

もっと厳しい見方をすれば、2019年の家族関連政府支出率は1.73%で、出生率1.36であった。支出率1%で0.79人の出生しか達成できていないことになる。もちろん、子育て支援は単年の話ではなく、子どもが大きくなるまで継続するものだが、それにしても1%で1人の子どもの出生増にも寄与していない。

一方で、私のいう「結婚発生出生数」の指標でいえば、1婚姻あたり1.55人の子どもが生れる(離婚を考慮しても)。

つまり、出生増を企図するという意味の本来の少子化対策をするのであれば、婚姻増の方向が少なくとも効果は大きいといえるのである。

GDP比1%とは大体5兆円規模である。子育て支援を倍増するなら、その何分の一かでも「若者が若者のうちに結婚できない不本意未婚問題」及び「産みたいのにできない不本意子無し問題」に振り分けていく差配こそが政治ではないか。

何度も言うが、一人の母親が産む子どもの割合は1980年代から変わっていない。少子化なのは、子どもの数が少ないのではなく、産む対象年齢の女性の絶対人口の減少によるもので「少母化」なのである。その中に未婚化、非婚化、諦婚化した限界若者の増加も影響している。

それは「見習え」といわれるフランスとて例外ではない。

フランスでも北欧でも減り続ける出生の要因「少母化」現象が世界を席巻する

今進まされている道の行く末

繰り返すが、「子育て支援」をやらなくていいという話をしているのではない。それは少子化があろうとなかろうとやるべきことである。

しかし、少子化対策にならないことを少子化対策に効果があるかのごとく誤認させて、あまつさえ、「そのためには増税もやむなしと思いなさい」というような、まるで「お国のために…」と言っていた戦前のような空気を感じる。

誰も表面的に異を唱えられない「未来の子どものために」という言葉を人質に、国民全員が進まされているのは戦前と同じ道ではないのか?

写真:Duits/アフロ

子育て世帯の親たちにしても他人事ではない。この子育て支援の出費による増税は、今の子どもたちが大人になった時の重荷になる。ご自分の子どもたちが「若者のうちに結婚できない問題」に直面させられるかもしれないのだ。

与党のみならず野党ですら誰もそこに言及しないのはいかがなものなのだろう。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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