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フランスでも北欧でも減り続ける出生の要因「少母化」現象が世界を席巻する

荒川和久独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター
(写真:アフロ)

「見習え」と言われても…

日本の少子化問題が話題になるたびに、「フランスでは~」「北欧では~」という出羽守界隈から「フランスを見習え」「北欧を見習え」という声があがる。しかし、前回の記事で「日本より低い東アジア諸国の出生率」の話をしたが、欧州だからといって出生率が高いわけではない。

遂に日本を下回った中国の出生率。インドも含め軒並み下がるアジアの出生力

確かに、フランスの出生率は日本より高い、そして、子育て世代を中心とする家族向け社会支出は日本と比較して格段に高いともいわれている。

そのことから、日本も家族向け社会支出のGDP比率を高めるべきだと主張する識者もいるのだが、結論からいえば、たとえ支出比率を高めても出生が増えることはないと断言できる。

そもそもフランスの事例も「家族向け社会支出をあげたから出生が増えた」という因果までは確認できていない。出生が多いから結果として支出も多くなったともいえるからだ。

フランスも出生は減り続けている

それどころか、フランスにおいてさえも、2014年をピークに出生率は低下傾向である。

同様にスウェーデン・ノルウェー・フィンランドの北欧3国についても近年の減少は顕著であり、特にノルウェーとフィンランドに関しては、ピーク時から比べれば2割以上も大激減している。

フィンランドに至っては、2018年には一度日本より低く落ちた。

※データは2022年7月公開時点の国連WPPによる。各本国が発表する確定データと違いがある場合がある。

それ以外でもイタリアやスペインなどは長い間日本以下の出生率で低迷している。決して日本だけが出生率が低いというものではない。

むしろ、日本は一度2005年に1.26という明治以降の記録の残る人口動態統計上の最低記録を出して以来、微々たるものではあるが出生率をあげたままキープしていると言える。

だからといって、日本の出生は今後も安泰というつもりもない。安泰どころか今後も減り続けることは確実だからだ。

1990年代に確定した少子化

なぜ断言できるかといえば、何度もいうように、もう出産対象年齢の女性(統計計算上は15-49歳とされている)のそもそもの絶対人口が減っている上に、未婚化・晩婚化で子を産む既婚女性の数も輪をかけて減少しているからである。「少子化ではなく少母化であり、母数が減っている以上出生が増える見込みはない」というのがわかりきっているからである。

加えて、今でも一人当たりの母親が産む子どもの数は1980年代とほぼ変わっていない。大体2人の子どもを産んでいる。むしろ3人以上産んでいる比率は近年高まっているくらいだ。

母親が子供を産んでいないから少子化ではないわけで、これ以上3人目、4人目を産む環境を整えたところで「もう産んでますよ」という話でしかないのである。

写真:イメージマート

本来1990年代後半には第三次ベビーべーブームがやってくるはずだったが、それがなかった時点で、今後の少子化は確定されたも同然なのである。

少母化については、当連載でも何度かとりあげているので以下の記事をご覧いただきたい。

出生数が増えない問題は「少子化」ではなく「少母化」問題であり、解決不可能なワケ

少子化というが、1980年代より現代の方が一人の母親が産む子どもの数は増えている

フランス版「少母化」現象

それでもフランスは、2010年に2.02まで出生率を高めたし、減少したとはいえ今でも日本より高い1.78(2021年)もあるのだから、「フランスの少子化対策は成功していると言えるだろう」という声もあるのだが、今までの高い出生率は外国人同士のカップルの子どもが多かったことの影響が大きく、フランス人同士のカップルの子の出生率は落ちている(移民によってフランスの高出生率が支えられてきたという話はそれだけで1本の記事になるので後日公開する)。

しかし、それ以上にINSEE(フランス国立統計経済研究所)の見解が興味深いのでご紹介したい。

INSEEは、フランスの近年の出生率低下の要因の一つに、フランス人の出産・育児年代に当たる女性の減少を挙げている。つまり、1990年代以降生まれた20歳から40歳の女性の数が減少と言っているのだ。まさに、日本同様フランスも「少母化」なのである。

写真:イメージマート

それは北欧もその他のヨーロッパ諸国も皆同様で、国によって多少の時間差はあるにせよ、ほぼほとんどの国がいずれ出生率1.5以下に収束していくだろうと予想できる。

市町村単位で多少改善された地域があったとしても、国全体や地球規模としてみればこれは不可避な現実である。出生減のスピードを遅らせることはできても、希望出生率1.8などは日本はもちろん、今後他の先進国でも届かない数字となるだろう。

「少子化をどう食い止めるか」の検討は無視していいとまではいわないが、現実問題として今後重要なのは「少子化前提の社会をどう運営していくか」の方なのである。

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独身研究家/コラムニスト/マーケティングディレクター

広告会社において、数多くの企業のマーケティング戦略立案やクリエイティブ実務を担当した後、「ソロ経済・文化研究所」を立ち上げ独立。ソロ社会論および非婚化する独身生活者研究の第一人者としてメディアに多数出演。著書に『「居場所がない」人たち』『知らないとヤバい ソロ社会マーケティングの本質』『結婚滅亡』『ソロエコノミーの襲来』『超ソロ社会』『結婚しない男たち』『「一人で生きる」が当たり前になる社会』などがある。

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